2049年。犯罪も教育も人間関係も、VRやARによって管理され、整えられた近未来。
その片隅に、存在しない四階を事務所として構える“探偵の幽霊”がいる。
この舞台設定だけで、もう惹かれずにはいられませんでした。
女子高生の柳崎祀莉が探偵事務所へ持ち込んだのは、学校にいる「魔女」の呪いを解いてほしいという奇妙な依頼。
友人を学校へ来られなくしたものは、本当に古くから伝わる呪術なのか。
それとも、VRとARが生活へ深く浸透した時代だからこそ可能になった、電脳的な犯罪なのか。
近未来SFと怪異。
一見すると正反対にも思える二つの要素を、本作は驚くほど自然に結び付けていきます。
しかも、その組み合わせは奇抜な設定を見せるためだけのものではありません。
VRなら、嫌な相手の声をミュートできる。
暴力はシステムによって止められる。
街では監視カメラと犯罪予測システムが、人々の安全を守っている。
それほど便利で安全な社会になっても、人の嫉妬や孤独、認められたいという願い、誰かを傷つけたいという感情までは消えてくれない。
本作を読んで最も心を惹かれたのは、近未来の仕組みも、恐ろしい怪異も、すべてが人の心を描くために生かされていることでした。
そして、独創的な世界観だけでなく、そこに生きる人物たちが実に魅力的です。
強気で好奇心旺盛。怖がりながらも、目の前で困っている人を決して見捨てられない祀莉。
紙の新聞と煙草を愛し、どこか胡散臭く、依頼料には容赦がない。それでも引き受けた依頼には、探偵として向き合う鋼。
胸にナイフを突き立てたまま豪快に笑い、曲げてはいけない筋を誰より大切にする赤髪の幽霊。
一度登場すれば忘れられない人物ばかりです。
ぞくりとする怪異によって張り詰めた空気を、祀莉と鋼たちの軽妙な掛け合いがふっと緩める。
怖さと可笑しさが互いを打ち消すのではなく、どちらの魅力も強め合っている。その絶妙な温度にも、作者・すかいはい様の物語へのこだわりと、読者を最後まで惹きつける確かな筆力を感じました。
また、本作は過ちを犯した人物を、ただ倒して終わる物語でもありません。
許されない行為は、決して曖昧にしない。
けれど、その人物が抱えていた孤独や劣等感、言葉にできなかった願いまで描き、その先にもう一度誰かと関わろうとする小さな一歩を残している。
人は簡単には変われない。
過去の過ちも消えない。
それでも、次の一歩の踏み出し方は選び直せるのかもしれない。
私はそのようにも受け取りました。
物語の冒頭から読者を一気に引き込む一文。
存在しない四階。
探偵の幽霊。
電脳学園の魔女。
そして、物語を読み進めるほど少しずつ意味を変えていく、登場人物たちの言葉や行動。
初めに抱いた印象が、真相を知ったあとで鮮やかに反転していく構成も見事でした。
近未来SF、探偵もの、怪談、青春、人間ドラマ、そしてコメディ。
これだけ多くの要素がありながら、どれ一つとして飾りにならず、一つの物語として美しく噛み合っています。
独創的な世界を生み出す発想力。
異なる要素を自然につなぐ構成力。
恐怖と笑いを自在に行き来する文章。
そして、善悪だけでは割り切れない人の心を見つめる、温かなまなざし。
すかいはい様の物語の魅力を、多くの方に知っていただきたい。
そう心から思える作品でした。
このレビューでは、あえて語らなかった魅力があります。
それは、私が説明するよりも、作者様の文章で直接味わってほしいからです。
この物語を、ぜひ冒頭から体験してみてください。