第29話 月輪
エレナvs万頭
エレナの視界に左サイドへ振られた万頭の体躯が映り
そこからのフェイント
万頭がしっかり握られた右の順手から繰り出すストレートの一撃必殺
その刺撃でエレナの息の根を止めようと急所目掛け狙ってきた。
だが振るわれた刃先はエレナに届く事なく、ナイフが空中でピタリと停止
銃口が万頭の額へと押し当てられ、リーチの長いトンプソンの銃身がその突進を制止していた。
懐中電灯が間接照明と化し、ぼんやりと部屋を照らす和室の中央で視線を交わせ、静止した2人
一間の膠着から目で笑いを浮かべた万頭が今度は素早く体躯を斜めに下ろすや
再び銃口が斜めにスライドされピタリと額に付けられた。
逃がさないとばかりにエレナも身体を下げ、その動きに合わせて牽制
2人は再び凝着し、眼(ガン)つけ合うと
再度の膠着状態から万頭が口元を緩めニヤつかせた。
万頭「撃ってみろ」
エレナが視線を合わせたまま
上体をあげながら引き金をひく事なく、一旦身を退いた。
それを見た万頭も追撃態勢で動き
エレナの脇腹 目がけてボウイナイフを振るってきた。
だが 手応えを損じた空振るブレードが見えない三日月線を描画
寸間でかわしたエレナに
もう一歩踏み込むと同時にそのまま横振りの一撃で顔面へと見舞ってきた。
殺意のこもる凶撃のブレードを
無反応な瞬発で仰け反らせたエレナ
がバランスを崩しながらも回避
尻餅をつけて転んだ
それを逃さず万頭はすかさずハンドルを両手で握り締め、軽くジャンプするや
転倒したエレナの顔面目がけ、ナイフを振り下ろした。
グサッ
頬から一線の血が垂れ、畳に突き刺さったナイフ
エレナは首を振り、かろうじて串刺しを免れていた。
そしてかわしたと同時に右手で握るトンプソンで万頭の横っツラを叩いた。
側部に直撃を受けた万頭はツーンと耳鳴りを起こし、態勢を崩すと
エレナは素早く馬乗りになる万頭の左足首を持ち上げながら、起き上がった。
万頭の身体が横に転げる
畳に突き刺さるナイフとエレナから剥がされ
エレナはその隙に起き上がった。
油断した万頭が一瞬顔色を変え、畳を一回転させられて慌てて起き上がった。
この俺を…
このアマ…
マジな目つきへと変えた万頭がナイフの持ち手を左右スイッチさせ
エレナへと飛びかかろうとした 寸前
それは起こった…
グフゥ
万頭の背後で…
鼻息にも似た音をたて、何かが窓際を横切った
動きを止めた万頭が背後に気を向け
エレナも一瞬横切る黒い影を捉えた。
万頭同様エレナもその物音を確かに耳にする
万頭は止まったままゆっくり振り返り、外へ視線を向けた。
すると
ガサ ガサ
エレナの耳に微かだが木々の揺れる音が聞こえ、何かの移動する音が聞こえてきた。
それから また
グゥー
息づかい…? 鼻息…?
そんな呼吸音も一緒に
なに…これ…?
明らかに人ならざる者が発する声音
動物…?
殺し合いを中断させた両者が窓に注目し、凝視する中
グフゥ~ フー フー
聞き間違いなどではない、ハッキリした動物の呼吸音が2人の耳に届いてきた…
この音… 息づかいと…鼻息…
まばたきせず、外を見張るエレナ
グフゥー フー
それはエレナ、万頭のすぐ近くから聞こえて来る
窓の側に…すぐそこに何かがいる…
しかも… それは1つじゃない…
闇夜に眠る森に物々しい雰囲気が漂い
複数の気配が外から感じ取られた…
エレナと万頭の間に戦いを忘れさせる程の口では言い表せない張り詰めた空気が流れ
エレナはトンプソンを構えながらその場で身を固めた。
また無防備にエレナへ背を向けた万頭がジッと窓際を見つめ、ゆっくりとその窓に近づいて行った。
完全得体の知れぬ存在に気をとられた2人
万頭が開けた窓越しに立ち、覗き込むように左へギロリと視線向けた。
だが…その先には何もいない…
そして 右へと視線を向けようとした時だ
フー フー
万頭の頬に鼻息が吹きかけられた。
そして恐る恐る右に視線を向けると
目先には体毛に覆われし動物が存在していた。
そして その動物と目を合わせたコンマ数秒後
ブン
鋭利な刃物のような鉤爪が繰り出され
ガシャー
窓ガラスが割れ、粉々に薙払われた。
万頭は間髪その一撃を回避し後退
エレナの瞳に映ったそいつが堂々と前足を部屋に踏み入れてきた。
2人の目の前には…
黒い体毛に覆われた森で会いたくないナンバー1の生き物
少なくともこの森で王者として君臨する肉食の猛獣
1頭のモノホンの野生熊が姿を現した。
「ゴォォオオオオ」
鋭い犬歯を見せ、寒さで映る白き吐息をばらまき
まるで地響きするかのような猛獣の重い咆哮が2人に浴びせられた。
それから蹠行(せきこう)する四足全てが畳を踏みしめ、躯体全体が部屋へとあがり込んできた。
天井スレスレな最強捕食者の背中
巨体の影にエレナの身体が覆われ、エレナはそいつを見上げた。
なんて…デカさ…
突如現れたあまりにデカいツキノワ熊に圧倒され動けぬ2人
息を呑むエレナの前には
マタギでさえ恐怖を抱く程の通常より数サイズ上を行く規格外がいるのだ
四足状態でも2メートル近くはあるだろう巨体
二足で立ち上がったら一体何メートルいくのだろうか…?
体重の重みで畳はうっすら沈下し、へこんでいる。
そして 恐怖はまだまだ続く…
その1頭の背後からもう1つの息吹と気配が感じられてきた
逃げ場無しの狭所に追い込まれた絶望的状況に…
上塗りするかの様に
新たにもう1頭のツキノワ熊が姿を現した。
こっちも同様メガサイズの大熊
大熊がエレナ等へ向け、吠えた。
グオオオオオ
すると
グゥワオオオオオ
コミュニケーション?
狩りの合図か?
猛る咆哮に呼応し猛獣2頭が連呼し合い、合吠された。
すると 今度は
ガシャー 「わぁぁあああ」 「なんだ?」 「くまだぁぁああ~」
すぐ隣から色々な音や声が聞こえてきた。
何かが破壊される音
男達の叫び声
次いで
「ガァアアアアアアア」
この2頭よりも荒げる大声量な咆哮があげられた。
エレナの前に…
敵の本丸とも言える隠れ家に…
獰猛な3頭の人食い熊が襲撃してきた。
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