第14話「親と図書館」
大図書館は大都市エスパダにある唯一の図書館であり、誰であろうと閲覧することが出来る。
僕も以前からよく来て、色んな本を読んだ。
特にファンタジー系の本を好んで読んでいて、魔法もスキルもない世界で、剣と知恵でのし上がっていく英雄譚を読んで、レイと一緒に英雄に憧れたものだ。
他には戦術書とか剣術書、魔道書といったマニュアル本を英雄になる為の勉強として読んだ。
今日はそういったモノではなく、知らないはずの知識を有することについて書かれた本を探す為、いつもは行かない本棚を見る。
それから、文字化けスキルについても、あの知識を得てから読めるようになったのだから無関係とは思えないので、そちらの本も一緒に探す。
ホルンには、『文字化け』と書かれた紙を渡し、それと同じタイトルを探して貰うようにした。
けれども――。
「だああぁぁぁ!! ダメだ全然ない!」
何十冊もの本がテーブルに積まれ、その全てに目を通したけれど、目ぼしい物を見つけることは出来なかった。
そんな僕を心配そうに見つめるホルンに、多少の強がりも見せつつ答えた。
「流石に、大図書館なだけあって今日だけで全てを見るのは無理だね。今日は適当なところに泊まって、明日また探そう!」
ホルンは頷き、図書館を後にした。
※
泊まるのに近くの宿屋を探そうとしていると、ホルンはスタスタと北へ向かう。
「ちょ! ちょっと待って! ホルンもしかして自分の家に帰ろうとしてる?」
ホルンは当然と言った具合に頷く。
「いやいや、流石に女の子をあそこに泊まらせる訳には行かないよ! それにもう夕方だし危険だ」
『お・か・ね』
ホルンは先の買い物で、あまりお金がないのを気にしているようだ。
「あ~、なら、今日はうちに来なよ!」
女の子を連れて来たら母さんが絶対ニヤニヤするし、ウザいだろうけど、ホルンの安全には変えられない!
意を決して、僕は自分の家へ戻るが、その前に、門兵さんに、お礼の品を見繕って渡しに行くと、「子供が妙な気を使うな」とぶっきらぼうに怒られた。
何故だ! と少し落ち込んでいると。
『に・や・け』
ホルンがそう指し示したので、振り替えると門兵さんのニヤケ顔が目に入った。
さて、とうとう問題の我が家だ。
僕はそろり、そろりと家の扉を開ける。
別にやましい事はないし、ホルンを紹介しないで中に入れる訳にもいかないから、堂々と入ればいいんだけど、なんとなく、こそこそしてしまう。
「ただいまー」
小さく声を掛けると、背後から、「おかえり」と声が聞こえ、声にならない悲鳴を上げながら振り向く。
「び、びっくりしたあ! 母さん出かけてたんだ」
「何よ、あんた驚きすぎよ。でも、あんたも中々やるわね。たった2日でこんな可愛い娘を連れてくるなんて」
すでに母さんによってホルンは捕縛されており、不安そうにおどおどしている。
「えっと、彼女はホルンって言って、僕の新しいパーティだよ」
「そうッ! ホルンちゃんて言うのね。立ち話もなんだし、まずは中に――」
母さんはホルンの髪や手の汚れを見ると、言葉を切り、言い直した。
「まずはお風呂ねッ!」
母さんはホルンの服を脱がし始める。
「ちょ! ちょっと母さん!」
まずい。ホルンの首輪や角を見られたら。
そう思うのも束の間、スムーズな動作でポンチョを脱がす。
「あっ、男子は見ちゃダメよ!」
母さんは目にも止まらない速度の手刀で僕の目を正確に薙ぐ。
「ぎゃああああっ!!!!」
僕は目を押さえながら、のたうち回る。
「くっ、ううぅ」
まだ目は見えないけど、痛みはなんとか退き、母さんとホルンのやり取りを冷や冷やしながら聞く。
「あら? あらあら。ホルンちゃん、あなた、もしかして魔人とのハーフなのね」
一瞬、母さんの声が鋭くなる。
「ホルンちゃん。あなたご両親は? ……そう、いないのね。ごめんなさい。変なことを聞いたわね。さぁ! それじゃ、お風呂に入りましょ!」
いつの間にか、また普段の母さんの声に戻っている。
パタパタと移動する音が聞こえ、2人が移動したことが分かった。
徐々に視力が戻る。
「母さんたちはお風呂か? 変なことになってなければいいけど……」
ハーフと知った母さんが凶行に及ぶことはまずないとしても、それでも2人きりにするのは心配だ。
様子を見にいくか?
「············」
良し! 行くぞ!!
僕はお風呂場の近くまで行くと、流石に覗くのはマズイので、聞き耳を立てる。
「あら、ホルンちゃん、肌スベスベねぇ! ん? 胸? ああっ、なくても大丈夫よ! シグノはそんなの気にしないから! むしろ、母親の私から見ると、シグノは足ね! ホルンちゃん足のキレイさには磨きをかけた方がいいわよ」
勝手に人の好みを言わないでほしいんだけどッ!!
でも、2人が仲良くしているようで、良かった。
僕はひっそりと、居間へと戻る。
数十分後。
「ふぅ、さっぱりしたわね」
ホルンは小奇麗になり今まで以上に可愛さに磨きがかかった。
「おかえり、ホルン。お風呂は気持ちよかった?」
ホルンは微笑みながら、コクンと頷いた。
「あっ、それと母さん、ちょっといいかな?」
母さんを手招きして呼び寄せると、なんでホルンがハーフでも良くしてくれるのかを問いただした。
「理論的な理由が3つあるわ。1つ。ハーフが人間に敵意を持つのは両親の教育の所為があるわ。けれど、あの子はご両親がいないようだし、その心配はないわ。2つ。環境によっても敵意を持つことがあるけれど、あの子はあなたが連れて来たのだから、そういうこともありえないわ。3つ。可愛い娘に悪い子はいないわッ!!」
最後だけ謎理論だけど納得は出来たので、それ以上は聞かず、仲良くしてくれるなら良いかと思って、母さんの好意に甘えることにした。
※
しっかりと睡眠をとり、母さんが用意してくれた朝食を摂ると、大図書館が開く時間に合わせて、ホルンと共に向かった。
2日目もいくら探してもそれらしい本は出て来なかった。
ホルンは1人で『文字化け』がタイトルに付く本を手当たり次第に探してくれている。今も全然関係なさそうなエッセイの本を持って来た。
せっかくホルンが頑張ってくれているし、どこにヒントが転がっているか分からないから、これも読む。
タイトルは『文字化けスキルと私』。
パラパラとページをめくり、目ぼしいページがないか見ていく。
ざっと読んだ感想では、この作者も僕と同じ文字化けスキル持ちで、どうやって生きてきたかが記されている。
僕と違うのは、エッセイの最後までスキルの解明には至っていないという点だ。
しかし、そんな中、興味深い話があった。
作者が魔物との戦闘で死にかけた際、変な夢を見たという。
その夢の内容を周囲に伝えると、バカにされ、2度と人には話さなくなったそうだ。
この人っ! 僕と一緒だ!!
作者は、それがなんなのか調べ、1つの可能性に辿り着いた。
僕はこの先に、この知識の答えがあると踏み、震える指先でページを捲る。
『異世界の存在は確実にあり、そこからなんらかの方法でこちらに知識を持ってきた者が文字化けスキルの保有者になり、その知識を思い出せるかどうかが、解明者になれる鍵になると私は考える。なんらかの方法とは、生まれ変わりであったり、異世界のことを知る千里眼であったりだ。しかし、この荒唐無稽な話はあくまでファンタジーとしてでしか扱われないだろう。それは私の経験則からも明らかだ。
私はこの話が少しでも世界へ伝わるよう、異世界のことを小説にして記すことにする』
「生まれ変わり……。もしかして僕の知識もそうなのか?」
思い返せば、僕が見たのも死の直前の風景だった。
ということは異世界からの生まれ変わりだと思うのが一番ありそうだ。
う~ん、レアンがこれで納得するかは不安が残るところだけど……。
とにかく前進はしたし、文字化けスキルのことは分かった。
僕一人だったら、エッセイの時点で読まずに弾いていたから完全にホルンのおかげだ!
僕が本の内容を調べている間。ホルンは愚直に、文字化けスキルの本を探してくれていた。今をもってしても探している。
大図書館は誰でも入れるとはいえ、ハーフのホルンが一人でうろつくのは相当な勇気が必要だったはずだ。
僕は急いでホルンを見つけると、その手を取った。
「見つかったよ! ホルンが持ってきてくれた本に書いてあったよ!」
ホルンはまるで自分のことのように喜んだ。
そして、手に持っていた1冊を元の位置に戻そうとする。
その本はやはり、タイトルだけで選んでおり、小説ジャンルの本だった。
僕はその本を代わりに受け取って、元の場所へ戻すと、すぐ隣の本が目に入る。
「あっ、この本は昔良く読んだなぁ」
そこにはレイと共に読んだファンタジー小説が並んでいた。
「ん? それじゃあ、さっきの本も同じ作者なのかな」
案の定、そこには同じ作者の名が刻まれており、よくよく見ると、先ほどのエッセイ本の作者とも同じ名前だった。
「もしかして、僕がすんなり文字化けスキルを受け入れられたのは、この小説を読んで、異世界の存在を知っていたおかげなの……?」
そう思うと同時に、レイとの子供時代の思い出が甦る。
「子供の頃の経験は無駄じゃ、なかったんだ」
一度は文字化けスキルで底辺まで落ちたけど、過去の体験が僕を引き上げてくれたことが分かったのも、確かな収穫で、胸の奥が暖かくなるのを感じた。
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