レンゲ畑
【夢を見ました】
一番初めの部屋は広く、二十畳ほどもあり、廊下に囲まれている。
障子から淡い光がさしている。
私はこの部屋でずっと眠っている。
少し離れたところに祖父も眠っている。
次の部屋はふすまで仕切られている。少し開いているところから見ると、暗闇に吸い込まれるように畳が奥まで敷き詰められている。
そのうち、私はそっちの部屋に移ることになる。
そうなったら、もう決して前の部屋には戻れない。
私の世話をしてくれる人が廊下にいるが、中には入ってこれない。
音もなく、動かない空気。
身動きできない私は、ずっとこのまま。
急に、誰かに肘をつかまれて引きずり出された。
動けない私を、そのままにしておいてほしかったのに。
たった一人で舟を出すことに決まったので、積み荷の準備をする。
着物をたたむ。何着も何着も、たたみ続ける。
私の旅立ちには誰もが無関心で、港を通り過ぎていく。
祖母が埠頭でずっと私を見送っている。
舟はもう岸を遠く離れた。
それでも私はいまだに着物をたたみ続けている。
次の部屋に入れたのは、雨が降りしきる夜だった。
満開のレンゲ畑を裸足で歩く。雨が降っているのにそれほど濡れていない。
私は冷たい花園の中に身を投げた。
みずみずしい春の香り。やっと見つけた。
暗闇の部屋の中で、顔がわからない大勢の女性たちが立ち働いている。
「あんた、これからずっと夢を見るんでしょう。
それでいいんじゃないの?」
と言って、紅の椀にお吸い物を入れてくれた。
私はそれを両手で受け取り、冷えすぎた体を温めた。
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