第61話 勇者の祭典 <ケント視点>
今日はいよいよ勇者を披露する祭典の日だ。
朝から外の喧騒が宿の部屋の中にまで伝わってくる。
「おお、ケント! なんだか今日は外が盛り上がってるみたいだね!」
「そうだなぁ、人混みに出るのだりぃなー……。」
俺がベッドからようやく起き上がると、セシルが窓の外を見ながら興奮している。どうやらかなりワクワクしているようだ。
俺はというと昨日もバルト将軍と飲んでいた。といっても、バルトにエール2杯程度つきあっただけだ。
あの時何が気に入られたのか、今度は自分が奢るからと再会を約束させられた。あまり飲めない奴に奢らせて目一杯飲むのも悪いからな。ハヤテ号のことがばれたらまずいから、正直なところあんまり関わりを持ちたくないんだが。
「それじゃそろそろ行くか。」
「うん! うわぁ、すっごい楽しみ!」
一体何がそんなに楽しみなんだろう。俺はさすがにこの年になると祭りの人混みの中に行くのは憂鬱でしかないんだが。
町の広場にはたくさんの露店が並んでいた。日本の祭りの縁日のようだ。王城のほうへ近づくにつれ人混みの密度が高くなっていく。とりあえず人の間を抜けながら城のほうへ可能な限り歩いていった。
「ふわぁ、やっぱり人が多いねぇ。」
「だな。セシル、スリには気をつけろよ。」
「うん、分かった。」
城から真っ直ぐに一本通った大きな通りは、多くの警備兵により沿道より中が封鎖されている。どうやらパレードが通るらしい。沿道にはたくさんの人が詰めかけている。大丈夫か、これ。セシルが人垣に押し潰されるんじゃないか。
「おい、セシル。大丈夫か?」
「う、うん、なんか、人混みに、流されそう。」
もう既に流されそうになっているセシルに手を伸ばす。こういう時は背が低いと大変だな。よし、抱っこしてやるか。
「おい、俺が抱えてやるよ。」
「うぇ~~、いいよ! 恥ずかしいよ!」
「いいからいいから。ほら。」
「ぅ~~。」
かなり不満げな表情を浮かべるセシルを無理やり抱え上げた。こうしていると子供を抱っこしているお父さんだな。パレードが見えるように道の中央にセシルを向けてやる。
「どうだ、見えるか。」
「おお、うん、見えるよ。ケント、ありがとう。」
「おお。警備兵がいるからあんまり俺の名前呼ぶなよ。」
「あ、うん、ごめん。」
セシルが自分の口を両手で覆う。ほんと可愛いな、こいつ。さっきまで恥ずかしがってたのに視界が高くなったのが嬉しいのか道の中央をきらきらした目で眺めている。
「大丈夫? 重くない?」
「ツヴァイハンダー振るより余裕で軽いぞ。」
「抱えてもらってよかったよ。立ってるときは背が小さいから人垣で前が見えなかったんだ。」
俺の腕の上に腰かけてセシルが嬉しそうに話す。
「あっ、来たよ! あの馬車の上に居るのが勇者かなぁ?」
どうやらパレードが始まったらしい。道の中央を3台ほどの馬車が走る。馬に跨った騎士二騎が先導し、その後ろを豪奢に花などで装飾した馬車がゆっくりと進む。
その上にいるのはワタルに間違いない。恐らく祭典用であろう豪華な鎧を身に纏い、沿道の民衆に向かって手を振っている。その隣に居るのは聖女だろうか。清楚な白いドレスを身に着けた美しい少女が手を振っている。
あいつも偉くなったものだ。どこかの王族かってくらいの人気だな。俺はなるべく気配を抑える。向こうも加護持ちだから俺の気配を感じ取るかもしれない。
あと10メートルほどで目の前という所でワタルと目が合う。偶然だと思いたかったがそうではないようだ。奴は一瞬ではあるが俺としっかり目を合わせ、ニッと口の端を上げた。
あちゃー……あれは絶対気づいてるな。エメリヒに言うかな? ワタルは奴が俺を殺そうとしているのを知っているのか? 聖女のほうは俺に気づいていないみたいだが。
目が合ったとき以外はワタルは何事もなかったかのように沿道の民衆に手を振り続けていた。悠然と構える様子は大したものだ。最初にあったときよりも体格ががっちりして見えるがだいぶ筋肉がついたのか。勇者らしい威厳も備わったような気がする。なんか悔しいな。もう高校生には見えないな。
ワタルの馬車が過ぎるとその後ろに続いた馬車にエメリヒの野郎が乗っていた。俺はさらに気配を抑える。奴は俺のことは全く気づいていないようだ。セシルの方にも特に注意を向けている様子はない。うまくやり過ごせたようでほっとした。
まあ気づいたところでこんなたくさんの民衆の前で大捕り物はやらかせないだろうがな。
ようやくパレードの馬車が過ぎていく。俺に気づいたワタルの行動が気になるところだが、なるようにしかならんか。
「あの勇者、ワタルさん……だっけ? 気づいてたね。気配を察知する辺り流石だね。」
セシルも気づいたらしい。目が合ったのはほんの一瞬だったんだがな。
「ああ、ワタルも相当腕を上げていると思ったほうがいいな。あいつも加護持ちだからなるべくやり合いたくはない。同郷だしな。」
俺はセシルを降ろして、
「日本人……かぁ。戦闘が好きな人なの?」
「いやそんな感じじゃなかったな。高校生って言ってな、まだ学生だ。こっちの世界に学校があるかどうか分からないが。」
「うーん、あるみたいだよ。魔法学園だかなんだか。おばあちゃんから聞いたことがある。」
「ほぉ。そんなのがあるのか。まあ、俺から見たらまだ子供だ。だが剣の師匠がついてるなら戦ったらどうなるか分からんな。」
「そっかぁ……。」
セシルが不安げに俯く。
「ん、どうしたんだ?」
俺が尋ねると彼女は俺を見上げて不安そうに瞳を揺らしながら答える。
「できることなら戦いたくないね。悪い人には見えなかったし、ケントを見ていたときも殺気なんて感じなかった。ねえ、後ろの馬車にいた人がエメリヒっていう神官の人?」
「ああ、3人乗ってたろ? あの中で一番偉そうでいけ好かない感じの吊り目の痩せた60才くらいの男がエメリヒだ。」
「ふぅん。その人がケントを殺そうとしているんだね。」
「ああ、間違いないな。ヌルたちを差し向けたのも奴だろう。」
「そっかぁ、ちゃんと話して理由が聞けたらいいのにね。」
「そうだなぁ。話して分かり合えるならそれが一番いいな。」
俺だって戦いたいわけじゃない。話し合って戦いを避けることができるならそれが一番いいと思う。だが恐らくそれは無理だろう。
「飯でも食ってくか。混んでないといいけどな。」
「うーん、人がいっぱいだし混んでそうだねぇ……。」
「くまちゃんラーメンが食べたいな。」
「あー、食べたいねぇ。」
俺たちはそんなことを話しながら適当に空いてそうな食堂に入って昼食を取ることにした。飯を口に運びながらセシルに話しかける。
「で、明日行くのか? 神殿。」
「うん、聖女様に会ってくる。」
「一人で行くのか?」
「うん、そのつもり。そのほうが目立たないからね。口実はお兄ちゃんの治療とかでいいね。」
「お兄ちゃんってもしかして俺か?」
「うん。それでもしわたしが長い間戻ってこなかったらそのときは何かあったと思って。」
「ああ、助けに行くさ。」
「ううん。できれば逃げてほしいんだけど……。」
「逃げるわけねーだろ、ばかたれ。」
そう言ってセシルの額を人差し指で小突く。まったく、いつになったらこいつは俺という人間を理解するんだ。
彼女のしょぼんと項垂れた様子を見て絶対に守ってやると改めて決意した。
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