第57話 ゴットフリートとの再会 <ケント視点>


 酒場で聞き込みをした翌日の昼頃、ケントは馬房へハヤテ号の様子を見にいく。もちろん変装はずっとしっぱなしだ。


 セシルは一人で冒険者ギルドの様子を見にいった。危険かとも思ったが彼女も実力者だ。多勢相手じゃなければ問題ないだろうし、この町はとにかく人が多いから、人混みに紛れてさえいればまず暗殺者に襲撃されることはないだろう。

 それにある程度街を歩き回ってここの土地鑑を掴んでおきたいという狙いもある。万が一逃走する状況になった時に有利だからな。


 俺が馬房へ行くと、茶色の短髪で190センチはあるだろうかといういかつい男が馬の前に腕を組んで佇んでいるのに気がついた。何やらハヤテ号をじっと見ているようだ。

 ハヤテ号はというと気まずそうに目を逸らしている気がする。あくまでそんな気がするだけだ。


「おい、兄さん。どうしたんだ? 気になる馬でもいるのか?」


 そう尋ねると、そのいかつい男がこちらを振り返り沈んだ声で答えた。


「いや、この馬がな……。見た目は全然違うんだがこいつの目がとても懐かしい感じがしてつい立ち寄ってしまったんだ……。」


 男の身なりはかなり高貴な感じだ。恐らく貴族だろう。まさかとは思うが……。ちょっと探りを入れてみるか。


「兄さん、貴族かい? 随分と身なりがいいようだが。」


「ああ、そうだ。だが俺は軍人だからなのか粗野で無作法だとよく言われてな。普通の貴族ほど上品なもんじゃない。しかし本当に初めて会ったとは思えないな、この馬……。」


 そういって男は再びハヤテ号のことをじーっと見る。やはりこの男はハヤテ号の元の持ち主の将軍に間違いない。えーと、確かバルト……だったか。

 ハヤテ号を見ると必死で目を合わせないようにしている気がする。気を許せば懐いてしまうのかもしれない。

 将軍には何の怨みもないがこいつはもう返せない。


「気のせいじゃないですかい? そいつは人懐こい馬です。初めてのような気がしないのはそのせいでしょうよ。」


「そ、そうか? うーむ。」


 少々言い訳が苦しいか? どうしようか。早いとこハヤテ号から引き離したいところだな。

 俺の主義には反するが……。男をナンパしたことなど今まで一度もないがこの際仕方がない。


「兄さんは軍人さんですか。もしよかったらこれまでの戦いの話なんかを聞かせてほしいんですが、一杯奢らせてもらえないですか? 戦の話に興味があるんでね。」


「おお、卿は戦いに興味があるのか! そうだな、丁度時間もあるしぜひご馳走になろう。」


 男は目をきらきらさせながら答える。

 よし! 脳筋でよかった! この男からは同類の匂いがプンプンしたからな。それじゃ酒場にでも連れていくか。昨日のあそこでいいか。ルイなんとかの酒場。


「それじゃあ行きましょうか。」


 俺はその男を酒場へ連れて行った。






「娘がお父さんの洗濯物を私のと一緒にしないでくれって侍女に言ったらしいんだよ……。」


 いや、驚いた。この男飲むとかなり饒舌になるらしい。やはりこの男はバルトという将軍で、数か月前に馬が盗ま、ゲフンゲフン……居なくなったらしい。無口な武人といった雰囲気だったが話してみると意外と話しやすい。それに……。


「私は娘を愛しているのに、子供は親の気持ちなんて分かってはくれないもんなんだなぁ……。」


「そんなもんですよ、男親なんて。10代は難しい年頃ですからね。特に女の子は。」


 ……この酒の弱さには驚きだ。まだエール一杯だぞ。よくこれで軍人が務まるな。仲間内で相当飲まされるだろうに。


「だが神殿の聖女様は16才だというのにすごく皆に優しいぞ。うちの娘なんて口を開けば臭いだの煩いだのと悪口ばかりなのに。」


「ほぉ、聖女様は大人びていらっしゃるんですね。」


 エール一杯でぐでんぐでんになりながらバルトは話を続ける。


「ああ、それに勇者様も確か17だったか……。年の割には落ち着いた少年だ。さすが指導者が素晴らしいだけあるな。神殿に置いておくのはもったいない。」


「そんなに素晴らしい指導者なんですか?」


「ああ、マスター・ハイノと言ってな。この世界に召喚された先代と今代の勇者に剣技や礼儀を教えてくださっている。私も彼には1度も勝てたことがない。これでもうちの軍では剣じゃ一番の腕前だと自負しているんだが。」


 ふむ、聞き捨てならないな……。それほどの手練れが立ちふさがった時俺はそいつに勝てるのか? 一体何者なんだ、その男は?


「それほどの腕前の持ち主ならさぞかし名が通った方なのでしょうね。」


「いや、それがな。ふらっといつのまにか王国に現れてその腕を買われ勇者の剣の師匠になったんだが、彼の過去は誰も知らないんだよ。」


「ほお……。」


「本人曰く流浪の身でずっと旅をしていたらしい。本当に彼の剣技は筆舌に尽くしがたい。きっと歴戦の強者に違いない。」


「いくつくらいでどんな方なんですか? ぜひ一度お会いしてみたいもんだ。」


「そうだなあ、年齢はよく分からんが俺よりは上だな。だが金髪碧眼で端正な顔立ちで若い頃はさぞかしモテただろうなという印象だ。」


 金髪碧眼か……セシルの爺ちゃんとは違うのか? だが幻影ミラージュのアクセサリをつけていれば外見は変えられるということだし、変えなければすぐに神殿や城の奴らに元勇者だとばれるだろう。もしその師匠が彼女の爺ちゃんなら確実に姿は変えているな。


 だが思い込みは危険だ。爺ちゃんなら心強いがもし違うなら強敵になり得る。セシルには取りあえず言っておくべきだろうな。


「それに彼は滅多に顔を出さない。恐らく一般市民は会えないと思うぞ。私ももう随分お会いしてない。」


「そうだったのですね。」


 しばらく話した後バルトはいきなりわっと突っ伏した。おいおい、一体どうしたんだ? 泣き上戸か?


「俺の……俺のゴットフリート。どこへ行ったんだ……。あんなに戦場をともに駆け回ったというのに……。ううっ。」


 彼の言葉を聞いて胸が痛くなる。すまん、バルト。お前の大事な相棒を盗ったのは俺だ。悪いが返せん。

 だが心配するな。俺がお前の分までハヤテ号を幸せにしてやるからな。


 俺はバルトの肩をぽんぽんと叩きながら彼が満足するまで酒を奢った。




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