第47話 実験場 (2) <ケント視点>


「くっ……。」


 俺は突然の転移に思わず膝をついてしまう。

 カミラの転移魔法陣に乗った時よりは多少ましだが、やはり一瞬無重力状態みたいになって一気に周囲の光景が切り替わってしまうのは結構クる。

 どうやら飛ばされたのは自分だけのようだ。ここは入ってきたあの塔で間違いないよな……? 急に不安に駆られる。セシルは大丈夫だろうか。

 若干の目眩を感じながら立ち上がり、周囲の様子を観察する。棚などのいくつかの調度品と目の前には体長5メートルほどのでかい魔物。


『グルル……。』


 そいつはどこから食おうかと観察するように左右にうろうろ歩きながら俺から視線を外さない。


 魔物なのか……。正確にいうと今まで見たどの魔物とも違う。頭は獅子、上半身はなんかの鳥で背中から羽が生えている。下半身は獣……狼か? そして尻尾のあるべきところからは蛇の頭が鎌首をもたげている。

 俺は元の世界で漫画かなにかで読んだ仮想生物の合成獣キメラを思い出す。魔物というにもあまりにも歪で、魔物のいるこの世界の理にすらそぐわない姿だと思った。

 そしてこの塔につけられた『実験場』という名前。この魔物は誰かに作られたのだろうか。


「それにしても今まで何食って生きてきたんだ? 飼い主・・・に餌でももらってたのか? まさか喋れないよな……?」


『グルル……。』


「うん、喋れないな。さすがに人語を理解する奴を殺すのは躊躇われるからな。俺も食われるのは嫌なんですまんが倒されてくれ。」


 俺はキメラの向こうに扉があることを確認する。あそこを出ればいいわけか。もしかしたらこいつには敵意がないかも、などと考え、警戒をしながらそいつをスルーしようと扉に歩き出す。


 するとキメラはピタッと歩みを止めさらに鼻に皺をよせ、より低い唸りをあげながら姿勢を低くする。


『ガゥルルル……。』


 あ、駄目だ。これは来るわ。

 奴は構えたかと思うと突然後ろ足で床を蹴りつけ俺のほうへ突進してきた。俺は剣を抜きつつ空中に飛び上がって躱す。


「くっ!」


 着地して扉へ向かおうとするが奴に追いつかれることを即座に悟り、振り返って奴と対峙する。


「やっぱ見逃してはくれんか……。仕方ねえな。」


 『奴の筋肉の動きを見逃すな』。この世界に来て俺の中に生まれた何かが俺に伝えてくる。

 キメラの肺のあたりが膨らむ。これはもしかして……。危険を感じて咄嗟に横に飛び退く。


―――ゴオォーーー!


「うおぉっ!」


 キメラは特大の炎を吐き出した。まるででかい火炎放射器だ。俺が飛び退く前に後ろにあった棚が燃えてしまう。まじか。ブレスを吐くとは……。

 それにこいつはドラゴンのときのようなブレスを吐く前の溜めが少ない。筋肉の動きを見逃さないようにしないと一瞬で黒焦げだ。


 奴の胸の辺りの筋肉を凝視しながら懐に飛び込む。膨れた! 今だ!

 その場から思い切り飛び上がり奴の背中に着地する。当然安定はしてないわけで、振り落とされるかと思いきや奴の尻尾の蛇が俺に向かって襲いかかってくる。


―――ザンッ


 俺は奴の尻尾を大剣で思い切り斬りつけそのまま飛び降りる。


『ガアァッ!』


 キメラは悲鳴を上げ、尻尾の蛇がボトリと床に落ちる。蛇はもがき苦しんでいる。すぐに奴の尻を観察するがどうやら再生はしないようだ。その後落ちた尻尾に近づき剣を突き立て止めを刺す。

 動かなくなったのを確認し、再び奴に対峙する。どうやら相当怒っているようだ。奴の怒気で辺りの空気がビリビリする。


 奴は再び俺に突進して間合いを詰め、右前足を大きく振りかぶる。そしてそれを大剣で斬りつけながらさらに奴の右側に躱す。奴は斬りつけられた前足から血を流す。かなり傷は深いようだ。だがその傷は見る見るうちに回復していく。


「冗談だろ……。命も繋いだ魔物の分だけあるってことなのか? 堪んねえな。」


 これは一気に頭を落とすしかない。それが止めになるかは分からないが、蛇の部分は再生しなかった。もう一度懐に入らなければ。


 ブレスを警戒しながら若干右側から回り込むように奴に駆け出す。肺が膨らむ。それに反応して即座に飛び上がる。俺は空中で大剣を頭上に掲げる。

 そして重力に任せ落ちながら奴の首へ思いっきり剣を振り降ろした。


―――ザシュッ!


 頭は落ちた。どうだ、まだ動けるか!?

 すかさず落とした奴の獅子頭へ剣を突き立てながら奴の胴体を見る。さすがにもう動けないよな……? 仮に動けたとしてもブレスは封じることができたはずだ。


―――ドスンッ


 キメラの胴体は頭を落とされた後ゆっくりとその体を横たえた。やはり司令塔は頭部で間違いなかったようだ。可哀想だが仕方がない。まだ食われるわけにはいかないからな。

 それにしてもいったい誰がこんなことを……。元の動物は実験体に使われたのだろう。それにしちゃでかかったが……うん?


 奴の心臓部だけがまだうごめいている気配がして、その正体を確かめるべく心臓に当たる胸部の部分を切開してみる。すると心臓の部分に埋め込またような巨大な魔石がある。

 それを外すと未だ活発に動いていた心臓はゆっくりとその動きを弱めていく。これが体を繋ぎとめていたのか?


 魔法の原理も魔石の原理もいまだによく分からないが、これが異常な気を発しているのは分かる。セシルに見せたら何か分かるかもしれないな。一応持っていこう。

 その大きな魔石をアイテムバッグに入れ、部屋の鉄格子が嵌められた窓から外を見る。高さ的にはここは2階くらいなのか? 周囲が湖と森だけなのでどうにも高さの距離感がつかめない。


 哀れなキメラの躯を後に扉を出る。すると出てすぐ左側に階段があった。先ほどの部屋の形は円形だったので恐らくここが『実験場』で間違いないとは思うのだが、下へ降りる階段はここにはない。さっきの部屋は転移のみで来れる部屋だということか。

 上へ行けばセシルと会えるだろうか。引き返すこともできないし、とにかくこの階段しか進む道はない。


 俺は上へ続く階段に一歩足を踏み出した。




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