第4章
第45話 首都ランツベルク
翌朝日が昇る前にセシルとケントはヘルスフェルトを後にする。目的地は首都ランツベルクだ。順調にいけば1度野営をすれば明日の深夜には首都に到着するだろう。
モントール共和国には王はいない。各領地の領主同士の議会によって統治されており、首都ランツベルクはその議長によって治められている。共和国で一番大きな町……らしい。実はセシルもケントも足を踏み入れたことがないので聞いた話でしか知らないのだ。
首都までの道を馬で走っていると、ときどき右手に川が見える。例の湖から流れてきている川なのかもしれない。太陽の光を受けてきらきらしていて綺麗だ。
1度野営をし、翌日深夜まで馬を走らせ、ようやくランツベルクの町の明かりが見えてきた。
「うわ……大きい……!」
「ほんとだな……。夜なのに煌々としているな。」
眠らない町……そんな表現がぴったりのイメージだ。ケントがすごくはしゃぎそうだ。それにしても眠い……。
「おい、セシル。大丈夫か? なんかうとうとしてないか?」
「うん、だいじょうぶ……。ちょっとねむいだけ。ふあぁ……。」
「もう少しだから頑張んな。」
セシルは何とか意識を保ちつつ、首都ランツベルクへ到着することができた。門番にカードを見せ馬を連れて町へ入る。
「うわあ……。」
「おお、でけえな!」
セシルはあまりの人の多さに驚いてしまう。深夜なのに昼間のヘルスフェルトよりもたくさんの人が歩いているのだ。
町の中には酒場やレストラン、あとなんだか色っぽい女の人が入口に立っているお店もある。一体何のお店だろう?
とにかく早く宿を探さないと、また眠気が襲ってきそうだ。
「あそこはどうかな。馬房がありそうだ。ちょっと聞いてくる。」
ケントが指し示したところは人通りの多い大通りに面した宿屋だ。確かに馬の絵の看板が宿の看板の下にぶら下がっている。
ケントがセシルにハヤテ号を預けて宿に入っていく。しばらくすると戻ってきてセシルに告げる。
「馬も預かってくれるらしい。こっちだ。」
「おお、よかった。僕もう眠さが限界だったんだ……。」
ケントに連れられて宿屋の脇の路地から奥へ馬を連れていき、そこにあった馬房に繋ぐ。それから表に戻って宿に入りいつも通り二人部屋を取った。
ケントは部屋に入って早速地図を広げる。
「この町の北にある、……この湖だな。行くのは徒歩でいいだろう。どうやって中央の小島にわたるか、だが……。」
「うん、水の精霊ディーにお願いして湖面を凍らせるのがいいかなあ……。そもそもローブの男ってどうやって出入りしてるのかな?」
「その辺の情報がなかったな……。明日冒険者ギルドに行って聞いてみるか。」
「うん……、ケント、ごめん。僕もう眠い……。」
「ああ、そうか、悪いな。もう寝ていいぞ。」
「うん、お風呂行ってくる。」
セシルは眠くて堪らなかったが、今日一日馬に跨っていたせいで土埃に
「ケント、おやすみぃ……。」
「おやすみ、セシル。」
ケントの優しい声を最後にセシルの意識はすぐに落ちた。
翌朝セシルとケントはランツベルクの冒険者ギルドへ向かう。
街の広場に面したところにあると聞いて広場に行ってみると、今まで見た中で一番大きい冒険者ギルドの建物があった。そしてとてもたくさんの冒険者が出入りしている。
早速ケントと一緒に中に入る。冒険者の間を縫いながらカウンターに行き、受付嬢にケントが話しかける。
「俺の名前はケント、この子はセシルです。転移魔法陣の不審者の件でギルドマスターと面会を希望します。ヘルスフェルトの冒険者ギルドから調査員として派遣されてきました。」
「はい、お話は伺っております。ロビーでしばらくお待ちください。」
そう言って受付嬢が一度席をはずし、しばらくしてから戻ってくる。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」
そう言って案内された部屋に入ると眼鏡をかけた長身で細身の男性が立っている。
「初めまして。私はランツベルクのこの冒険者ギルドのマスターで、フィリップといいます。よろしくお願いします。」
「あ、俺はケント。Cランク冒険者です。」
「僕はセシル。Dランクです。」
なんだかランツベルクのギルドマスターは、すごく丁寧な言葉遣いをする人といった印象で、今までの冒険者ギルドのマスターからすると意外な感じである。
「貴方たちがヘルスフェルトから派遣されてきた冒険者ですね。向こうでも話を聞いたかもしれませんが、こちらの方でもダンジョンでの被害が報告されていましてね。現在ダンジョンは立ち入り禁止にしているのですが、どうやら近辺で『実験場』に出入りする不審な男が目撃されているようです。」
「フィリップさん。それについて質問なんですが、実験場へはどのように出入りするんでしょう?」
ケントが単刀直入に尋ねる。
「ああ、橋です。」
「橋!?」
その答えを聞いて思わずケントは聞き返してしまう。
「地図にはそんな記載はないですよね?」
フィリップはケントの取り出した地図を受け取ると、メガネの中央をくいっと上げてじっとそれを見る。
「ああ、これは古い地図ですね。今は中央の離島に橋が通っているんですよ。塔が建った当時には確認されてなかったのですが、その頃は転移装置でもあったのかもしれないですね。まあそれだとこの町で管理できないので、橋が作られたんですよ。」
「そうだったんですか……。じゃあ、塔へ入るのには何の問題もないんですね。」
「ええ。ただ、あそこは今は廃墟になっていて人はいないはずなんです。だから余計に出入りしていると言われるローブの男が怪しいわけです。」
「なるほど……。それじゃ、俺とセシルで早速行ってみます。」
「ええ、お願いします。危険な男かもしれません。くれぐれも気をつけてください。」
セシルたちは徒歩で町の5キロ北にある湖を目指す。湖の手前に森があり、地図で見た感じではその森も割と大きそうだ。
町を出て15分くらい歩いたところで森に足を踏み入れる。魔の森に比べると、それほど強そうな魔物の気配はしない。魔物よりも普通の動物のほうが多そうだ。
そのまま獣道を北へ進んでいく。今日は天気がいいので木漏れ日が気持ちいい。森を抜ける風も湖の方から吹いてくるのか、ひんやりして爽やかだ。特に何事もなく森を歩き続け、1時間ほど歩いたところで森の向こうに湖が見えた。
「おー、ケント、湖っ!」
「あ? セシルは湖初めてか?」
「うん、海とはやっぱり違うねー。波もないし、静かで大きい池みたい。」
「まあ、そんなもんじゃないか? しかしいい天気だなー。釣りでもしたいな。」
そこは小鳥が囀っていて、湖面はきらきらしていて、周囲に魔物の気配はなくて、風が気持ちよくて、依頼でもなければピクニックでもしたいくらいだ。
前方を見ると湖の中央に塔が見える。セシルはすごく高い塔を想像していたが、実際目にするとそうでもなかった。高さはせいぜい15メートルぐらいだろうか。
塔にはあちこちに小窓が開いている。
セシルが橋を渡る前に塔の上の方を見上げると窓のところに人の気配がした。気のせいかと思いもう一度よく目を凝らすと誰もいない。やはり気のせいだったのだろうか。誰かがこちらを見ていたような気がするのだが。
「それじゃ、セシル。行くぞ。」
「うん。なんかどきどきするね。」
セシルはケントと一緒に塔へ渡る橋へ足を踏み出す。
その橋は石でできているようだ。幅が2メートルほどしかなく湖面から2メートルほどの高さしかない。一体これがどのように作られたのか想像もできない。
そのままずっとケントと一緒に歩く。湖の端から中央の小島まで大体50メートル程だろうか。ときどきある中州を経由して中央の小島へ歩を進める。
ようやく小島へ辿り着き、セシルはその『実験場』と呼ばれる塔を改めて仰ぎ見る。遠くから見るとそれほど高くは感じなかったが、傍で見ると妙な威圧感がある。
塔は白っぽい石造りで、端から端まで大体100メートルはあるかと思われる小島の中央にある。小島は草地で木は生えていない。この塔の周りをぐるりと周れば、湖と湖を囲む周囲の森が一望できそうだ。
「慎重に行くぞ。」
そう言ってケントが塔の中へ一歩足を踏み出した。
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