第26話 天界にだって美味しいものあるもん

「おはようエマちゃん。」

夜勤のメイが優しく起こしてくれる。半開きの目をショボショボさせながら身支度する。メイがツインテールに結ってくれた。今日は月曜日なので魔女の館でお勉強だ。

ダイニングから、チャッカ!チャッカ!とせわしない音が響く。フェンリル姿のカールとデイモンが、そわそわと歩き回る爪音だ。


「・・・・・・おぁようございます。」

昨夜のことを思い出し、少しむっとしながら挨拶するとカールとデイモンが小走りで迫る。

「おはよう!エマちゃん」

「おはようございます、エンマ!」

エンマ、子供じゃありませんから!クールにやりすごしてあげますYO!

「エンマ!あの・・昨日はすみませんでした。」

別に起こっていませんYO!

「あれほど衝撃的なビジュアルの食べ物は見たことがなくて・・・」

ピクンと身体が反応した。

「いろいろな不味いものをみたことはあるのですが・・・まさか鰻をぶつ切りにするという発想はなく・・・さらにゼリーで固めるなんて・・・」

イヤイヤ考えられない・・・と頭を振るフェンリル。

※ ゼラチンで固めていません。ぶつ切りにした鰻をレモンやローリエなどと一緒に煮込んで冷やすと煮凝り状に固まるだけです。


あり得ないルックス、とても料理とは思えない。などと、ディスるつもりはないのにディスってしまうデイモン。

下を向いてブルブルと震えるエマ。

「・・・・・・りゅもん・・・。」

「・・・?エンマ?」

こてんと首を傾げるフェンリル。


「ありゅもん!」

目いっぱいに涙を溜めて叫ぶエマ。ビクリと身体を跳ねさせるフェンリル。

「ありゅもん!天界にもっ!おいひいものっ・・・・ありゅもんーーー!うわああああああん!」

メイに抱き着いて泣き出すエマ。

エマの分の朝食を詰めたバスケットを唄子から受け取ったメイがエマの手を引いて歩きだす。

青褪めて呆然と見送るフェンリル。

「デイモン君も陛下も突っ立っていないで食べてしまっとくれ。」

片付かないからね!と容赦ない唄子。


「というわけで・・・。」

「あらあら、デイモン君たら今頃さぞ落ち込んでいるでしょうねえ。」

魔女の館のテラスでサマンサの入れたお茶を飲むメイ。


「エマ、冷めないうちに朝食をたべてしまえ。」

黒い羽でエマの頭をヨシヨシするフギンと、白いハンカチでエマの涙を拭うムニン。「・・・いただきましゅ。」

眉間にシワを寄せながらバフッ!とコロッケサンドにかぶりつくエマ。今朝のスープはミネストローネだ。たっぷり野菜がトロトロで美味しい。コロッケのこってりとミネストローネの酸味が合う。


「サマンサ、今日のランチはエマも一緒にどうだ?」

「あらいいじゃない、私たちも参加したいわ。」

エマがランチに戻りたくなさそうにしていることに気づいていたフギンとムニンが提案すると魔女たちが参加を希望したため、魔女たちがそれぞれの得意料理を披露することになり、アニーに頼まれた使い魔のアウルが唄子に伝言に飛んだ。

「ありがとうアニーちゃん、アウルくん。」

「かわいいお嬢さんのためなら、なんてことないぜ。」

使い魔は主に似るというのは本当かもしれない。面倒見の良いサマンサのフギンとムニンは世話焼きだし、ボーイッシュで男前なアニーのアウルはカッコいいし、ボーイフレンドを振り回しがちなドリーの使い魔ネズミのメルは気分屋なお嬢様だ。


「レアちゃんのグラタン、とっても美味しいです!」

熱々をハフハフと頬張ると、こってりした旨味が広がる。

「ヤンソンさんの誘惑というの、アンチョビと玉ねぎを使ったポテトグラタンよ。」

「む!これはうまいな。」

「サマンサ、レアに作り方を習ってくれ!」

また作って!とサマンサに強請るフギンとムニン。

二人も気に入ったようですね。ハフハフしてるフギンとムニンがかわいいです。

「エマ、野菜もうまいぞ。サマンサ、エマにホットサラダをよそってやってくれ。」

「きのこのマリネもな!」


美味しいランチで、すっかり機嫌を直したエマが宮殿内の庭園を歩いていると、目の前にドロン!と煙が立ちのぼり、宮殿の精霊パレスと庭園の精霊ジンニーが現れた。

「パレスちゃん!ジンニーくん!」

二人揃って現れるとは珍しい。

「どうしましたか?」


パレスとジンニーが困り顔を見合わせる。

「どうしたって言うか・・・な?」

「湿っぽいのよね・・・。」

意味の分からないエマの手を引いて宮殿の中へ案内するパレス。

「私の壁がカビてしまいそうなの。」

困り顔でため息を吐くパレス。

パレスとジンニーが指し示す部屋に近づき、ドアの隙間からそっと覗いてみた。

「ひんっ・・・ひんっ・・・・・・おふっ。・・・・・・・ひんっ。」

部屋の隅で壁に向かって横たわるフェンリルが、両手の肉球側で顔を覆って

泣いていた。

・・・・器用ですね。

通常、犬は手の肉球側を顔に向けることはできない。人型にもなれるデイモンだからこそ可能なポーズだ。

・・・・・なんだか面倒くさそうですね。見なかったことにしましょう。

そっと物音を立てないように振り返るとパレスとジンニーが通路をふさいでいた。

むむむ・・・では反対側から・・・・

逆側の通路から戻ろうとすると、モレクとイブリースとアルコンが横に並んで通路をふさいでいた。

ぐぬぬ・・・・。


振り返ると困り顔のパレスとジンニーと目が合う。

もう一度反対側を振り返るとモレクとイブリースとアルコンが、びしりとデイモンのいる部屋を指差した。


しばらく睨み合っていたが負けた。モテないトリオに睨み負けた。


扉の影からそっと覗いてみる。

「ひん・・・ひんっ・・・・ひんっ・・・・」

ちらりと振り返るとパレスとジンニーが縋るような目でみていた。

「・・・・・仲直り・・・・する?」

消え入るような声でつぶやくと、瞬間移動したもふもふのフェンリルに抱きしめられていた。

すりすりすり・・・ピスピスピス。ぎゅうー!

ぎゅうっと抱きしめられ、柔らかな頬毛で頬ずりされると擽ったい。

目の前の毛皮がピンと跳ねていることに気づいた。

「寝ぐせが・・・。」

え!どこどこ!?とエマを抱きしめたままキョロキョロするデイモンが可笑しくて笑いがこみ上げる。

「エンマが直してあげる!」


ラグの上でお座りするフェンリル姿のデイモンに、エマお手製のミストを吹きかけ、ブラシをかける。

「エンマ手作りのハーブミスト、いい香りで大好きです。」

でろんとピンク色の舌をたらして恍惚とするデイモン。


喧嘩をした後はブラッシングで仲直り。

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