実力派霊能力者
「あー、ひっさしぶりに飲むアイスラテは美味しいなぁ! これが生き返るー! ってヤツかなぁ? いやウチ死んでんねんけどな! うはは!」
1人でツッコミを入れて笑うキレイ。おれは全く笑えない。ちなみにこのラテ、すでに2杯目である。ハイペースすぎるだろ、オイ。
「おいキレイとやら。さっきの話の続きだけどな、」
「もうちょっとゆっくりさせてや。そんな急ぐことやないやろ?」
「急ぐんだよ。出来るだけ早く片付けたいんだ」
「片付けるて。また物騒な言い方やなぁ。どうせウチは今日中に成仏するって。だからもう少しだけええやん?」
ちうちうとストローを啜るキレイに、おれは冷たく「だめだ」と言ってやる。こいつにイニシアチブを取られるのは良くない気がするのだ。いやもう取られてるのかも知れないけど。とりあえず、おれは重ねて言ってやった。
「とにかくだめだ。早く消えてくれ」
「あんた、ほんま酷い奴やな! 絶対モテへんやろ? ていうか今までモテたことないやろ? そんな雰囲気するわ」
「うるせーな、いま関係ねーだろそれ! よく考えたらことごとく言われてるよ。まぁ事実だけどな、くそっ!」
「やっぱりな。ウチの目ぇは確かやからな!」
ニヤリ。蔑むような笑いである。しかし何度見ても腹立つ笑い方だなチクショウ!
アイスラテのグラスをコトリとテーブルに置くキレイ。ちなみにもう空である。ペース早いってマジで。もうちょい味わえねーのか、コイツは。
「ま、あんたが急いでるって言うからしゃーなしで言うたるわ。ウチな、生きとった時は霊能力者やってん。それも結構有名な、実力派霊能力者ってヤツ」
「は? 霊能力者だって?」
いきなりの単語に面食らう。関西弁の幽霊かつ実力派霊能力者だと? いやいやもうなんか濃すぎるからそれ。
思い切り訝しむおれを完璧に無視するキレイ。こいつのスルー能力は凄まじいものがある。アイスラテをお代わりした時もそうだ。おれの文句は思い切り無視。こいつの耳には、都合の悪い言葉は入らないらしい。
「えらいヘンな顔してるけど、ガチやで。ウチが霊能力者いうんは。まぁもっぱら、その力を占いに使てたんやけどね」
「占い?」
「ほら、おるやろ? 的中率が異様に高い占い師ってヤツ」
「あぁ、まぁ聞いたことはあるな。ていうか占い師だったのかよ」
「ウチのチカラは本物やで。占う対象を見てれば、ぼんやり未来が見えて来るねん。あぁ、タロットとかそんなオシャレな占いはウチには出来へんよ。ああ言うの出来たらカッコええなぁ、とは思うんやけどね」
「で、その占いと今の状況に何の関係があんだよ」
「順を追って説明するから聞きぃや。あ、アイスラテのお代わりひとつな?」
「ひとつな? じゃねーよ! ペース早すぎるって、それどうせおれ持ちだろ?」
「ようわかってるやん!」
ケラケラとした笑い声。頭痛がする。まぁでも仕方ない。手っ取り早く成仏してもらうには、ある程度はキレイの望みを聞いてやらないといけないだろう。3杯目のラテは思わぬ出費だけどな。
「さてと。続き話そか。とにかくな、ウチは占いで生計立ててた訳よ。でもまぁ、自分の未来は見えんくて、クルマの事故で死んでもうたんやけどな」
運ばれてきたアイスラテに口をつけて。やっぱ美味いなぁと言いつつ、キレイは続けた。
「そんで、死んだ後よ。霊能力者として強大な力を持ってたウチは、予想通り幽霊になってんよ。ほんでこう思てん。ウチの力は本物。この力で誰かの身体を乗っ取れるかも知れんってな。ようし、そしたら誰かにとりあえず取り憑いたろ思て、ほんで、今に至るってわけや」
「なら目的はすでに達成してんじゃねーか」
「だから言うたやん。でもびっくりやろ? 実際、ウチもびっくりしたわ。まさかほんまに取り憑けるなんてな。この子の目ぇ見てたら、いつの間にか身体に入ってたんよ。取り憑くいうよりは、吸い寄せられた感じやな」
「なるほど。もう願いは達成してると。ならもう良いだろ、よし出て行けさあ出て行け」
そう促すのだが。キレイは表情を曇らせた。それ、絶対おれの表情だからな。取り憑いてやろうと思ってとりあえず取り憑かれたヨウコが可哀想すぎる。どう考えても。
「出て行きたいわ、うちも。でもそれが何でか知らんけど無理やねん。ウチ、ほんまに力のある霊能力者やってんけど、そのウチが見てもこの子はほんまに不思議やわ」
「何が不思議なんだよ?」
「この子の意識。不思議でしゃーないわ」
一体、何が不思議だというのだろうか。おれにはこのキレイってヤツの言うことの方が、よっぽど不思議で仕方ないのだが。
「だから、何が不思議なんだ?」
「この子、多重人格やったりせぇへん?」
「はぁ? それ、どう言う意味だ?」
キレイはそれには答えない。言い淀んでいるのか、それとも伝えづらいことなのか。
おれはキレイの次の言葉を待ちながら、アイスコーヒーに口をつけた。
いつもの味のはずなのに。今日のそれは、何故か酷く苦い味がした。
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