第56話 何かやっちゃいましたか?

「ん? ここは……1階か。まだ下か。『豪力』」


 再度、部屋の大崩壊が訪れ、床が抜けた。1階の下、つまり地下には、いかにもと言えんばかりの檻があった。


「うげ……見た感じ大部屋か。それにこの山のような檻の数……動物園かよ。さて、ユイ〜、どこだ〜?」


 積まれ、埋もれた檻の中から声が聞こえる。叫び声に、泣き声、助けを呼ぶ声に、喘ぎ声。ケイはそこで気がついた。


「この匂い……これが媚薬か。クラクラするな」


 甘ったるく、人を惑わすような匂い。さっき、ケイが穴を開けせいで、漏れだして気が付かなかったが、地下室には媚薬の匂いで充満していた。

 その効果は、ケイがざっと見たところ様々で、壊された人間には叫び声、小さな子供には泣き声、何もされていない人間には助けを呼ぶ声。そして、獣と人間の間いる亜人には喘ぎ声だった。


「なにが手を出していないだ……あ、いた」


 少し奥に置かれている檻。そこにユイは居た。両手は縛られ、歯を食いしばり、涙を流し、無意識に出る吐息を何度も何度も殺しながら、ケイを待っていた。

 発情して、知らない感覚に襲われ、飛びそうな意識の中、ユイは耐えていた。


「……こっの……クズがぁぁぁぁあ!!」


 ケイは両手で、檻の棒を無理やり押し広げた。そして、すぐさまユイを保護した。


「はぁ……はぁ……ケ、ケイ?」

「悪い。遅くなった」

「……だ、大丈──んぁっ! あ、あまり体に触らないで……し、刺激が……走る」

「あ、お、おう。気をつける」


 解くために近づき、体が軽く触れただけなのに、ユイはビクビクと反応する。涙目になりながらでも唇を噛み締めて、解けるまで何とか耐えた。解けたと同時に、1つの足音が地下室のドアから聞こえた。


「はぁ、はぁ、見つけたぞ! 無能!!」

「よう、ぶたぁ。ユイは返して貰うぞ」

「それは俺のだ! 来い、執事達!」


 松風の後ろの扉から、約30人ほどのメイドと執事が一斉に入ってきて、ユイの入っている檻と一緒に、ケイを取り囲んだ。

 それぞれ1人1人に斧、剣、槍など武器を所持している。


「おいおい、こいつら、戦えんのかよ」

「そうだ。こいつらはギルドにいる奴らとは訳が違う。力も賢さも能力も……何もかもが上だ」

「旦那様、失礼します」


 高笑いをする松風の横で、1人の若い執事が膝まづいて、ケイが折った指に回復魔法をかけている。


「ユイ、ごめんな」

「……ケ、ケイ? うっ……」


 松風が回復しているうちに、ケイはユイの腹をなぐって気絶させた。その隙に、周りの執事達が剣突き刺す。

 だが、ケイはギリギリのタイミングでユイを抱えて、壊した天井から外に出た。


「あ、あったあった」


 天井先の部屋。壁には、ちょっとしたカバン掛けがあり、そこにユイが愛用している初代勇者が使っていたバックがかかってあった。


「っと、近づい来てるな。とりあえず、外だな」


 机や椅子などが散らかっているが、そんなものお構い無しにケイは窓ガラスを割って、外に出た。

 そこから見える景色は絶景だった。取り囲む塀などがないため、直接見れる。

 赤、青、黄、緑色といったカラフルな色が、夜空を照らす黄色い月の光にも負けないくらいの鮮やかな光を醸し出していた。


「……これがここの街の景色か」

「……ん……ここ、は?」

「お、起きたか、ユイ。バックの中開けて、ライフウォーター飲んどけ」


 ユイは指示された通り、バックの中からライフウォーターの入った瓶を取り出し、ゴクッと一気に飲んだ。


「……ケイ、私……」

「あー何も言うな。まずは、あいつらの始末──」

「おじさん、誰?」


 1人の少年が話しかけてきた。髪は金色、目は青と黒のオッドアイ、赤色の貴族のような服装。白い肌、そして、松風と瓜二つの顔つき。


「そうか、お前が……」

「やっと見つけたぞ! あ、フラット! こっちへ来なさい」

「お父様!」


 トコトコと近寄って、松風の大きなお腹に抱きついた。松風も嬉しいのか、頭を撫でて、少しデレる。


「こら、フラット! また外に居たの!?」


 次の声は、屋敷の2階の窓からふんわりと飛んで降りてきた綺麗な婦人。フラットと同じ金髪、青い目、白い肌の持ち主。松風の妻、ユナであった。


「ユナ、どうして……」

「寝たいたら爆発音が聞こえて……賊ですか?」

「あぁ、無能だが、力がある。一体、どこで……」


 慎ましい夫婦の会話は、ケイとユイを見た途端、顔つきが変わり、相手を警戒し、体制を整える素振りを見せる。


「なぁ、おい、もういいか?」


 ケイが動こうとした時、可愛らしい声が上がった。


「ねぇ、お父様。あの人、賊なら僕がやっていい?」

「お? それはいいね! フラットは天に選ばれた子なんだ。魔道の天才たる所以を、あの愚か者に見せてあげなさい」

「はい!」


 フラットは静かに深呼吸して、両手を突き出す。すると、掌から赤色の大きな魔法陣が1つ浮かび上がった。


「火は全ての元なり──喰らえ! ファイアーボール!」


 勢いよく飛んでた玉を、ケイは『再構築』でホーンラビットキングの角を巨大な盾に変えて防いだ。若干、威力が強かったのか、ケイは持ち手にまで少し熱さを感じた。


「チッ! これなら、どうだ! ウォーターカッター!」


 どこからかとなく出てきた水が、刃となって、フラットの指先から弾き出される。本人がちょこちょこと移動しながら打っているため、死角を無くせる。が、本人の動きが遅いためケイは余裕で盾で完封した。


「おい、こんなもんか?」

「まだだ! 技能『高速移動』 ! 続けて風魔法発動!『死神の風』!」


 さっきの数倍速く移動し、見えない風の刃が連続でケイを襲いかかる。松風やユナやその周りにいる約30人の戦闘執事達も目で追うのがやっとのような速度でフラットは移動していた。


「おら! おら! おら!……っ! はぁ……はぁ……な、なんで!?」

「いや、遅すぎるだろ。さっきりはマシだけど」


 ケイには全部見えていた。スローモーションとは行かないまでも、魔界に比べたらなんてことはない、ただの早歩きと何ら変わらなかった。


「おい、魔道の天才たる所以はこんなもんでなれるのか?」

「ば、バカにしやがってー! お父様! 全力出していいですか!?」

「えあ、あれで全力では無いのか!? ふ、ふははは! そうだな! フラットは天才なんだからあんなもんじゃないよな! いいぞ〜! 思う存分やりなさい!」

「よし、お父様の許可も頂いた。おい、名前は?」


 フラットは満足そうな顔をすると、ケイに名前を尋ねた。隣でウトウトしているユイを摩って、なんと起こしながら、ケイも名乗る。


「ケイだ。こっちはユイ」

「ケイか。僕が魔道の天才たる所以は、8個の技能を持っていることだ。『炎魔法』『水魔法』『風魔法』『回復魔法』『高速移動』『並列思考』『鑑定』そして、『合成魔法』」

「「合成魔法!?」」


 さっきまでウトウトしていたユイが、ケイと同時に驚いた。ユイも持っているものの、何度やっても失敗しかしておらず、”何も出来なかった”唯一の技能だからだ。


「そう、僕はこの『合成魔法』がある故に、天才なんだ。風よ、我が手に来たれ……」


 フラットの行動に疑問を抱いた松風が慌てて、妻のユナに尋ねる。


「お、おい、ユナ。一体なにが始まるんだ!?」

「私にも、さっぱりだわ……」


 フラットは手をそっと前に出して、詠唱を唱え始めた。すると手と手の間に小さな風が吹き始め、小さな竜巻が出来た。


「ここに灯火の炎よ、燃え上がれ」


 竜巻の中心にボッと小さな火がつき、風に吹かれつれ、次第に大きくなり、フラットの手の中で炎の竜巻が起きた。そこにさらに呪文を唱える。


「水よ、これらを囲み、圧迫せよ!」


 どこからやってきたのかはわからないが、水滴が集まり、徐々に水の形を形成させていく。

 それを炎の竜巻に囲い圧縮させていく。小さく、小さくなった玉は直径3cm程に収まった。


「あ、あれが『合成魔法』……」

「行っけぇー!!!!」


 ファイアボールとは比較にならないほどのスピードで掌から発射された小さな玉は、狙いを外したのか、ケイとユイの間を抜け、後ろにある木にぶつかった。

 すると、次の瞬間、圧縮された玉は勢いを取り戻し、一瞬、巨大な炎の竜巻になった後、爆発を引き起こした。


「フ、フラット……」

「おぉ、息子よ……これは……」

「「「「坊ちゃん」」」」

「「まじか……」」


 その場にいた全員が、色んな意味で驚いている中、やった本人でフラットは少し頬をかきながら、一言。


「あー、うん、これ……僕、もしかして何かやっちゃいましたか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る