27日目 Sexual Peach Crustcore
僕は、静かに生きていくつもりだった。
でも。
友達はそう簡単に僕のことを離してはくれない。
気分が落ち込む。
そんなふりをするのが大変だった。
「町の外れにある、あの古い映画館でエロい映画見に行こうぜ。」
その話、のった。
僕は友達と一緒にその映画館へと侵入していく。基本的に映画館というものはチケットを買わなければいけない。当然だけれど。
でも、そもそもお金なんてないし、もっと言うならこんなエッチな映画なんて小学生じゃ見ることもできない。
「裏口、あるんだぜ。」
「さすが。」
僕は素直に友達のことを尊敬してしまう。
僕の友達は皆、僕よりも賢くて助かるばかりだ。
映画は既に上映されていて、その中を足音を立てないように、靴を脱いで移動する。途中何人かの大人に、子供だと気づかれてしまったけれど、どこか成長を見守るような温かい目で見逃してもらえた。
こういう経験が子供を大人にするのだと、皆知っているのだと思う。
僕はそういう大人に感謝しつつ。
そういう人の成長を知ったかぶる大人に対して吐き気を催しながら一番後ろの席に座った。
スクリーンでは、それはもう凄かった。
なんというか、女の人の裸が、白く光ったり、暗闇の中で赤いナマコのように動いたりするのである。
これを直視しろと言う方が無茶だと思う。
友達は常に顔を両手で覆って、その隙間からその世界を見つめていた。いわゆる、こんな危険を冒してまで映画館に入ったのに、のぞき見、という非常に謙虚なスタイルを貫いているのだ。
そして。
それは僕も全く同じだった。
上映時間は二時間十二分。
不思議な気分だった。
飽きたのだ。
ストーリーは短調だし、役者の表情は短調だし、女の人は基本的に裸で揺れ動いているだけだし。
あれの、何を楽しめというのだろうか、と逆に怒りがこみ上げるほどだった。
僕は足元に置いていたリュックサックからもしかしたら、暇になるのかもしれないと思って準備してきたものを一つ一つ空いている隣の席へと置いた。実際、それらについて、僕は全部楽しんでいたし、どんなものであるかも分かっていたので、暇をつぶすのに適切とは言えなかった。でも、何となく持ってきてしまう一種のお守りのようなものだった。
星新一のショートショート集。
おーい、でてこーい、という話が入っている。僕はこの話が大のお気に入りだ。
夏休みの宿題になっている漢字練習帳、小学五年生分。
もう終わっているのだけれど、今習っていて、しかも覚えようとしている漢字を見るのが結構好きなので、眺めて楽しむために持っている。
カワチサクラとオットーという芸術家が作ったカートゥーンアニメのフィギュア。
幼稚園の頃から見ていたアニメのフィギュアだ。これはどこに行くにも常に持ち歩いている。
びくびくくん。が掲載されている週刊の漫画雑誌。
後ろの広告はフラワーアレンジメントだった。なんというか、余りこの雑誌で見ないタイプの広告のような気がする。
気のせいではないと思う。
リュックの奥に手を突っ込み、指先で他には何かないかと探すと、前に座っている男の人が舌打ちをした。うるさい、という事だと思う。
僕は少し落ち込みながらなるべく音をたてないようにして、指先を動かす。
最後は、お母さんの生爪だった。
ささくれ立った皮膚が付いていた。
裏側は油のような滑りを持って、まだ濡れていた。
友達の飲み物の中に気づかれないよう何となく入れてみる。
友達は気づかずにそれを飲んでいた。
友達の中にお母さんの液が入っていった。
「これ、すげぇ。エロいな。すげぇわ。来て良かった。」
僕はその言葉にただただ頷いた。
本当に。
本当に。
忘れてはいけないことばかりで。
僕の人生は彩られていく。
そして。
僕は三日後に絶対死ぬ。
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