第70話 話し合い


 駆け出したシンとドルロとロビンは、まずはと先程言葉を交わしたばかりのスーの姿を探しながら、森の集落の中を駆けていって……そうしてすぐにその姿を見つけることに成功する。


 小川のほとりの岩の上へと腰掛けて、ゆったりと体を休めているスーを見つけて……シン達はその足を止めて、息を整えてから、スーの方へとゆっくりと足を進める。


 その途中、血気に逸ったロビンが腕に力を込めて、露骨過ぎる程に力づくも辞さないとの態度を見せていて……その事に気付いたシンは、そんなロビンに小さな声をかける。


「……話し合いましょう、最初は話を聞いてくれないのかもしれませんが、それでも話し合いましょう」


 その言葉を受けてロビンは、お前は一体何を悠長なことを言っているのだと、そんなことを言っている場合かと食ってかかろうとするが、それでもシンはその態度を崩さず、揺るぐこと無くロビンの目をしっかりと見据える。


 それを受けてロビンは、シンのことをじっと見つめて、その容姿を……この森に相応しくない容姿を改めて見やってから『お前は余所者だからそんなことを言えるのだ』と、そんな言葉を口にしようとする……が、余所者であるシンにとって今回の件は、あえて関わらなくても良い他人事であることに思い至る。


 シンが何故この森にやってきたのかと言えば、神殿にて祝福を受ける為であり……その目的はつい先程、何の問題なく済まされている。


 であればもう、この森がどうなろうが知ったことではないと立ち去っても良い訳だし、異常な力を持つメアリーとスーに危険をおかしてまで関わる理由は一つも無いのだ。


 獣神も事情を話しはしたが、解決して欲しいとまでは言っておらず……シンに何かを願った訳でも、命令した訳でもない。

 シンが今、必死にこの森を守ろうと、あの二人を止めようとしているのは、完全な善意によるものであり……そのことに思い至ったロビンは、口にしかけていた言葉をぐっと呑み込む。


 その上今は、少しでも味方が欲しい状況でもある訳で……シンのような余所者でなければ、集落を守る英雄であるメアリーとスーを止めようなどと、あれ程の力を持つ二人にわざわざ敵対しようなどとしてくれる者はいないだろう。


 その人格や、これまでの在り方も好ましいものであることだし、ここはまずシンの言葉を尊重し、それが上手くいかなかった時に自らの思う行動に……実力行使に至れば良い。


 ……と、そう考えてロビンは、シンのことをじっと見つめながらぐいと頷き……胸の奥でくすぶるなんとも言えない感情を抑え込む。


 メアリーとスーへの嫉妬と怒りと……自分への情けなさと怒りと。


 そうした感情をどうにかこうにか抑え込むことに成功したロビンは、シンとドルロと共にスーの下へと足を進める。


「お、獣神様との話は終わったのかい?

 それなら森の外へ送ろうか……? この森の中に余所者が……それも人間が居続けるなんて、あんまり良いことじゃぁないからね」


 言葉の内容の割には有効的に、柔らかな態度でそう言ってくるスーに、シンは首を左右に振って応えて、ゆっくりと口を開く。


「いえ、その前にスーさんとお話したいことがありまして……メアリーさんとスーさん、お二人の力についてです」


 シンのその言葉に、スーは表情と態度を固いものへと変化させる。


 獣神によればメアリーとスーはその力の根源が何であるのか、力を使いすぎればどうなるのかを知った上で力を使い続けているとのことだ。

 そこにどんな理由があるのかはまだ分からないが、その事情の全てを知っている獣神と言葉を交わしてきたばかりのシン達から力の話をされるというのは、気分の良いものではないのだろう。


 固い表情と態度のまま立ち上がり、この場から立ち去ろうとし始めてしまう。


「……過ぎた力はその身を滅ぼす。

 力を持つ者は謙虚でなければ……傲慢が過ぎてしまえば、この世界から追い出されてしまうこともあるそうです。

 僕は二人にそうなって欲しくないだけなんです。……どうか話だけでも聞いては頂けないでしょうか」


 立ち上がったスーに向けて放たれたシンのその言葉は、スーにとって聞き流すことの出来ない内容であったようで、スーはぴしりと動きを止めて……握りこぶしを作ってそれを力いっぱいに握りしめる。


「……君の側には確か妖精がいた……よね。

 妖精が嘘つきの側に居るはずがないし……その言葉は本当、なんだろうね。

 ……君の目的は本当に話だけ、かい?」


 拳を握りしめたままそう言ってくるロビンに、シンは「はい」と一言、はっきりと口にして、こくりと頷く。


「僕はメアリーさんとスーさんに何かをしようと思っている訳ではありません。

 ただお二人を止めたいだけで……お二人とこの森を守りたいだけなんです」


 シンが更にそう言葉を続けると……スーは不承不承といった苦い顔を作り出し、次にふくれっ面を作り出してから、ゆっくりとその場に……岩の上に腰を下ろすのだった。



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