第68話 神の後悔
神の口から唐突にこぼれ落ちた、神失格との言葉にシン達が驚き戸惑っていると、獣神はぼつぼつと、まるで誰かの許しを求めているかのような態度で言葉を漏らし続ける。
「神である儂等は、あくまで世界とお前達を見守る為の存在であり、それ以上のことをすることは……余計な手出しをすることは許されてはおらん。
魔王を討伐した者への祝福は例外中の例外……それ以上の力の行使は絶対の禁忌とされておる。
他の神達はその点をよくよく考慮して、愛し子らから距離を取って近付き過ぎないよう……姿すら見せないような日々を過ごしておる。
儂も同様にそうすべきなのじゃが……そうすべきと分かっているのだが……それでも儂には無理だった。
……そもそも群れを是とする獣にそんな真似出来ようはずがなかった。
ゆえに儂は常々から姿を見せて、お前達の隣で共に歩んでいく道を選んだんじゃ……」
その言葉を受けて、女神の言葉とその在り様を思い浮かべたシンは、隣に立つロビンへと「そうなの?」と、言葉ではなく視線でもって問いかける。
するとロビンはこくりと頷いて、獣神の言葉を肯定する。
「それが何よりの間違いだった。
お前達と仲良くしすぎて、お前達が愛おしすぎて、選択を誤ってしまった。
1つ目の誤りはロビンの父、マグナを助けてやれんかったことだ。
邪神共が生み出した魔王が現れたのを感じて、マグナに力を与えてやろうと……魔王とその一派に勝てる力を与えてやろうとしたのだが、マグナに拒否されてしまった……。
神がそのようなことをしてはならぬと、神は神であるべきだと、自分達の未来は自分達の力で切り拓くべきだと、そんな言葉で拒否されてしまった。
それでも……それでも儂はマグナに力を与えるべきだったんじゃ……」
その言葉を受けてロビンは、顔を厳しく引き締める。
それは目の前の老人への怒りでそうした訳でも、魔王達への怒りでそうした訳でもなく、尊敬する父を誇らしく思ったからこその、無意識のうちの行いだった。
「マグナが魔王の尖兵達と相対して……その命を落とすとなった時、儂はどうしても、どうしてもマグナを救いたくなってしまった。何がなんでも……禁忌をおかしても救いたい。
……そうして儂は、たまたま側に居たあの二人に力を、必要以上の力を与えてしまった……。
これが儂の2つ目の誤りじゃ……。
挙句の果てにマグナを救えんでは、一体儂は何のためにあんなことを……」
メアリーとスー。
二人の名と顔を思い浮かべるシンとロビン。
そうしてロビンは、あの二人が持つ異常な力の理由を知って、納得し安堵し、小さなため息を吐き出す。
「獣神様、確かに貴方は禁忌をおかしてしまったのかもしれませんが、それによって森は守られ、森の住民達は安寧の日々を過ごしています。
俺達はそのことに深い感謝を示しますし、貴方を神失格などと思うはずがありません」
ため息の後にそう言ったロビンの顔をゆっくりと見上げた獣神は……その表情を一段と暗く、重いものとしてから言葉を返す。
「ロビン……それは仮初の安寧なのだよ。
あの二人の、メアリーとスーに与えた力は何処から来るものだと思う……?
魔力のようで魔力ではない、魔法のようで魔法ではないあの力は、この森の力を吸い上げることで放たれておるんじゃ。
そこの妖精達が言ったように、そのせいで……あの二人が無制限に力を使うせいで……いや、この儂のせいでこの森は弱り始めておる、木々が枯れる一歩手前まで追い詰められておる、大地が乾ききり砂となるのはもうすぐそこなんじゃ……」
シンとドルロとロビンがその言葉に驚き、困惑し、何も言えなくなる中、三人の妖精達がいつにない激しい声を上げる。
<悪い子だ! 悪い子だ!!>
<森をいじめる悪い子!!>
<なんでそんな酷いことをするの!!>
森に生まれた森を愛す三人の言葉を……抗議の言葉を受けて、獣神は一段と萎れた表情となり、がっくりと項垂れる。
それを受けてシンは慌てて蜂蜜飴を取り出し、それを妖精達に上げることでどうにかなだめようとする。
それでも妖精達は、蜂蜜飴を口いっぱいに頬張りながらも不満そうで……妖精達が更なる言葉を口にする前にと、シンが獣神に語りかける。
「あの……獣神様。
そういうことならば、何よりもまずあの二人に与えた力を返して貰うべきではないでしょうか?
まずは力を吸い上げるのを止めさせて……そうやって時間を作ってから少しずつでも森に力を戻していきましょう。
森のことなら未熟な僕でも力になれると思いますし、先生に……僕の魔法の先生にお願いすればきっと良い解決法を考え出してくれるはずです」
シンのその提案に、ロビンがそれは良い考えだと沸き立つ中、獣神は深い溜め息を吐き出し、暗い言葉を返してくる。
「そうできれば良かったのだがな……儂は今、神の力の根源たる信仰を失いつつある。
今の弱りきった儂では、あの二人から力を奪うことなど出来はせんし……あの二人は事情を知って尚、力を返すことを拒否しておる。
……もうどうにもならんのだよ……」
その言葉を受けて、すぐさまにロビンが言葉を返す。
「な、何を馬鹿なことを……!
あの二人もどうしようもない馬鹿だが、獣神様……貴方も大概です!
俺達は信仰心を失ってなどいません! 毎日貴方に感謝していますし、今も俺は……!!」
すると獣神は、片手を上げてロビンの言葉を制し……ゆっくりと口を動かし言葉を吐き出す。
「分かっておる、お前達の信仰心を疑ったことはない。
だがな……他の住人達はそうではないのだ。
力を吸われている森の木々、そこに住まう言葉を持たぬ獣達や鳥達、虫達……そうした者達は儂を見限り、信仰を失った。
それにより儂は……儂の力は、もう神のそれではなくなってしまっておるのじゃ……」
そう言って更に深く重くがっくりと項垂れる獣神を見て……シンとロビンはお互いを見合い、強い視線を返し合い、そういうことならば自分達が、あの二人を……メアリーとスーを止めて見せると、無言の中で決意するのだった。
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