第25話 魔王


「大地の精霊を母として、人を父として生まれたこのマーリン!

 ことが泥ともなれば得意も得意! むしろ真骨頂であると言っても過言ではないだろう!

 さぁ、愚かな魔物達よ、大地の力をその身に受けて震え上がるが良い!」


 そう言って杖を振り上げたマーリンは、シンが今までに聞いたことのないような、複雑かつ不可思議な呪文を唱えて魔力を辺り一帯へと撒き散らす。


 撒かれた魔力が温かく煌めく光へと変貌し、ドルロが戦場に放った泥達の中へと溶け込んでいき……そんなマーリンの魔力に呼応したかのように、ドルロが戦場に放った泥達が蠢き、そこから芽が出て蔓が伸び、その蔓が小型大型問わず魔物達を拘束し始める。


「えっ……ど、泥から蔓が!?

 ど、そうして!?」


 その様子を見てそんな悲鳴を上げるシンに対し、マーリンはなんとも明るく軽い声で笑いながら言葉を返す。


「あっはっはっは!

 どうだい? 驚いたかい? さっきドルロに触れた時にこっそりと種を混ぜ込んでおいたのさ!

 このマーリン! 攻撃だのなんだのは不得手だが、こうした妨害は大得意なんだ!

 魔力のこもった泥を得て、いつも以上に元気に暴れる精霊蔓達の活躍を笑覧あれ!!」


 そうしたドルロの泥とマーリンの蔓による妨害は、騎士達の戦いを大いに助けて戦況を更に騎士達の優位へと傾けていく。


 そこへ水薬でもって回復した騎士達が参戦し始めて、そうしてそのまま戦いが決着となる……と、思われたのだが、そんな戦場に、戦況を一気に魔物達の方へと傾けかねないような……魔物というよりも、悪魔や化物と呼んだ方が相応しいような存在が現れてしまう。


 人の三倍、四倍はあろうかという大きさの体躯を持つオーガ。

 そのオーガを更に二倍も三倍も大きくし、醜悪な姿と変えた常識外の化物。


 突然戦場の奥に現れたそれは、大地を揺らし、轟音を響かせながらこちらへとやってくる。


「な、なんだい、あれは!?

 見た目はオーガっぽいけれど、存在感が……纏う瘴気がまるで別物じゃないか!?

 今回の件はあいつが原因だったのか……!!

 ま、まるでオーガの……魔物の王だね、あいつは……!!」


 そう言ってマーリンは、それまでの笑顔を何処へやってしまったのやら、焦ったような凍りついたような表情となり、先程までとは打って変わった必死にも見える態度で呪文を唱え、魔力を練り始める。


「あの大きさ相手じゃぁ、この大防壁も意味を成さない……!

 接近されてしまう前に倒しきらなければ!!」


 更にそんな言葉を口にしたマーリンは、魔力を放って先程まで魔物達を拘束していた蔓の太さを、魔力を込めることで一気に増大させて……木の幹のようになった蔓を鞭のようにしならせて、拘束していた魔物達ごとそのオーガに魔物の王に―――魔王に叩きつける。


 ……が、魔王は蔓の一撃を全く意に介さず、そのまましなる蔓を踏み荒らしながら前進し続ける。


 そんなとんでもない光景に恐怖し、怯えながらもシンとドルロは魔力を練って次々と泥を放つ……が、魔王はその泥全てをその手でもってアブでも払うかのように叩き落としてしまう。


 ならばせめて手に泥を張り付かせてやろうとするも、魔王の纏う瘴気のせいなのか、泥に込められた魔力が霧散してしまい、シン達の魔力による操作を受け付けない。


 それでもシンとドルロは諦めずに泥を放ち、放ち続けて……そうしてドルロは元の、いつも通りの大きさへと戻ってしまい……その身に蓄えていた泥も魔力も尽き果ててしまって、打てる手の全てを失ってしまう。


 アーサーを始めとした騎士達も、周囲の魔物達と戦いながら、その魔王へと攻撃を放っているようだが、効果は全く無いようで……そうして魔王が戦場へと到着する。


 そこにはまだ騎士達と戦っていた無数の魔物達が居るのだが、全く意に介さず前進し、魔物達ごと戦場を踏み荒らしていく魔王。


 そんな魔王の存在に行動に、その場にいた誰もが恐怖し戦慄してしまう中、一切の恐怖を抱かずにただただ勇気を震わせるアーサーと、恐怖を笑い飛ばし己を奮い立たせたマーリンが声を上げる。


「ただでかいだけの存在に、このアーサーが怯むと思ったかぁぁぁ!!」


「あっはっはっは! 精霊の意地ってものを見せてあげるよ!!」


 いつの間に手にしていたのか、あるいは騎士団の誰かから受け取ったのか、水薬を二本飲み三本飲み、魔力を回復させたアーサーが魔力を込めた剣を振るい煌めく光刃を斬り放つ。


 それは今までにアーサーが放った光刃のどれよりも大きく、どれよりも強く光り輝いているもので、その光刃は戦場を切り裂きながら魔王の下へと凄まじい速度で突き進んでいく。


 その光刃に続いてマーリンが生み出した、いくつもの大きな丸太の杭が大地から発射されて……その光刃と杭が魔王に直撃するとなった―――その時だった。


 シンの耳に何か……懐かしい声が聞こえてくる。


 それは何処までも温かく優しい声であり、紡がれた呪文のようであり……様々な音が鳴り響く戦場の中に紛れ込んだ空耳かと思うような、そんな小さな声だった。


 直後、晴れた空であるにもかかわらず雷鳴が轟き、何もないはずの空で電光が蠢き……そうやって出来上がった強大な雷が落雷となって魔王の脳天に直撃する。


 アーサーの光刃とマーリンの木杭をその瘴気と両手でもって防がんとしていた魔王は、その落雷によって硬直してしまい……そうしてそのまま、硬直したまま光刃と丸太の直撃を受けることになる。


 その巨体を縦一直線に切り裂かれ……その身のあちらこちらを丸太で貫かれ……そうしてそのまま後ろへと倒れ込む魔王。


 その魔王を見て、驚いたのか何なのか硬直する魔物達。

 アーサーを始めとした騎士達もまさかの光景に驚き、唖然とし、その戦いの手を止めてしまう。


 そんな風に静まり返った戦場に再び聞こえてくるあの優しげな空耳。


『ああ、全く、おバカな子だねぇ。

 さっさと逃げれば良いだろうに、面倒ばっかりかけさせるんじゃないよ、全く』


 今度の空耳はシン以外にも聞こえたようで、アーサーやマーリン、ガラハといった数名が、倒れ絶命した魔王から視線を外し、その声の主の居場所を探ろうと、声が聞こえてきた方向……空へと視線を巡らせる。


 そんな中、その声の主が誰であるかを察したドルロは「ミー! ミー!」と元気に両手を振って大はしゃぎし、同じく誰であるかを察したシンは、何故そうなってしまうのか……自分でも分からずはらはらと涙を流す。


 そのシンの様子を見て、アーサー、マーリン、ガラハ他数名は大体の事情を察し、状況を理解し……そうして残る魔物達を殲滅すべく、戦闘を再開させる。


 魔王を失った為なのか、何なのか。

 残された魔物達は一気に勢いを失い、力を失い……大した抵抗も出来ずに殲滅されていく。


 ―――そうしてこの戦いは、騎士達の圧勝という形で幕を下ろしたのだった。

 

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