第17話 休日
シンが色々と……衝撃的事実を知ることとなった給料日の翌日。
久しぶりの休日を迎えたシンは、ケイの教えを実践すべく、給料として貰った金貨と銀貨を詰め込んだ財布袋を握りしめながらドルロと共にバルトを練り歩いていた。
二人並んで賑やかな街道を歩き、様々な露店を覗き込み、そこに並ぶ物の値段を見て……バルトでの金貨、銀貨、銅貨の価値を頭に叩き込んでいくシンとドルロ。
芋の値段、ネギの値段、ハチミツの値段、果物の値段。
森が近いせいか思っていたより安い薬草の値段に、様々な武器や防具の値段に……それとドルロがどうしても見たいというので焼き物の壺の値段なんかもチェックしていく。
どうもドルロは自分と同じ泥という材料で作られた焼き物の壺だとか、皿だとかに特別な関心を持っているらしく、焼き物の露店を見つける度にそちらの方に駆けて行ってしまうのだ。
そんな風にして午前を過ごし、途中露店で昼食を買って食べて……そうして午後。
とある路地に立ち寄った折、ドルロが路地の先に何かを見つけたらしく猛烈な勢いで路地の奥へと駆けて行ってしまう。
「ど、ドルロ!?
急にどうしたの!?」
そんなシンの声に応えることなくドルロは駆け続けて……そうして大きな窯を構える焼き物工房へと駆け込んでいく。
「ミミミミー! ミミー!!」
焼き物工房の一画にあった焼き物用と思われる木桶入りの泥を覗き込んで大喜びするドルロ。
どうやらその泥は色艶などを見る限りかなりの上質なものあるようで、そのあまりの上質さにドルロは居ても立ってもいられなくなってしまったらしい。
「ミミッ! ミー!」
なんて声を上げて木桶の中に手を突っ込もうとするドルロを見てシンは、慌てて駆け寄り、ドルロを抱き上げる。
「だ、ダメだよ、ドルロ。
その泥はパン屋にとってのパン生地みたいなものなんだから、汚したりしたら怒られちゃうよ」
「ミミー! ミミミミー!」
腕の中で暴れるドルロをなんとか宥めようとするシンだったが、シンの言葉に全く耳を貸さないドルロは泥へと視線を向けながら手を伸ばしながらバタバタと暴れ続けてしまう。
シンとドルロが焼き物工房の店先でそうこうして騒いでいると、そんな騒ぎを聞きつけたのか、工房の奥から革エプロン姿の白髪白髭の老人がのっしのっしと歩いてくる。
「うるっせぇなぁ……なんだぁ? 客かぁ?」
シン達を見るなりそう言ってくる老人……焼き物工房の職人に、シンはドルロを抑え込みながら事情を手短に説明する。
すると職人は顔を顰めながらシンの下へと歩いて来て……ドルロの体をコンコンと叩いてから、ふぅむと唸り口を開く。
「……なるほどな。
泥のゴーレムたぁなんともけったいなモンを作ったなぁ。
だがまぁ……焼き具合の方は中々どうして悪くねぇじゃねぇか……気に入った!
こんの泥っ子が、うちの泥が欲しいってんなら……まぁ、その木桶の分くらいは構わねぇぞ。
それは元々余りモンだしな、金の方もいらねぇよ」
職人にそう言われた瞬間、ドルロはシンの腕の中から飛び出して、木桶へと飛び込み、そこで泥をくにくにと練り始める。
そんなドルロを見て慌てて声を上げるシン。
「こ、こらっ、ドルロ!
まずはお礼をしないとだよ!
あ、あの、泥を融通してくださってありがとうございます!」
そんなシンの言葉に続いて「ミミミー!」と声を上げるドルロに、職人はふんっと鼻息でもって返事して、そうしてからドルロの様子が気になるのか、木桶の中のドルロをじっと眺め始める。
そんな職人の視線の中でドルロは、泥を練り、手で持てる大きさの泥玉を作り……そしてそれをパクンと食べてしまう。
「えっ!?」
「おぉ!?」
それを見て同時に驚きの声を上げるシンと職人。
そんなシン達に構うことなくドルロは泥を食べて食べて、食べ続けて……そうしてからブルルと体を震わせて……木の桶の外にべちゃりと泥を吐き出す。
「ど、ドルロ、一体何をしているのさ!?
そんなことをしちゃダメだよ……!!」
そう言ってドルロへと手を伸ばそうとしたシンの胸元に、職人の太い腕が差し込まれる。
「待て、坊主。
こいつ……ただ泥を食って吐いてをしている訳じゃねぇぞ。
体の方をよく見てみろ」
職人にそう言われて、シンがドルロの体に注目してみると……ドルロの体の色が、模様が微妙に変わっていることに気付く。
それらはドルロが泥を口にする度、吐き出す度変化していて……どうやらドルロはそうやって自らの体を構成している泥を古いものから新しいものへと置き換えているらしい。
「……なるほどな。
不純物たっぷりのよくねぇ泥で作った体はお気に召さねぇと、こいつはそう言いてぇ訳か。
……まぁ、自分の体の中に木くずやら小石やらが混ざっていたら気分が悪いってのは当然のことだぁなぁ。
うちの泥はそこいらの泥とは違って、不純物やら何やらはしっかりと取り除いてあるからなぁ……中々どうして、ゴーレムってやつぁ見る目があるじゃねぇか」
何度も頷き、感心したような態度で嬉しそうに声を弾ませるそんな職人の言葉に、シンは分かったような、分からないような……なんとも言えない気分となる。
とはいえ、ドルロの体が綺麗になるなら、ドルロがそれで快適に過ごせるのなら、それは歓迎すべきことなのだろう。
そうしてシンは、ドルロのその行為を静かに見守って……ドルロが木桶の中の泥全てを食べ終えるまで見守る。
そうして木桶の中の泥を全て食べ尽くし……木桶の外にこれでもかと泥を吐き出したドルロは、質の良い陶器のような独特の光沢を放ちながら、
「ミー!!!」
と、両手を振り上げての元気な声を上げる。
そんなドルロを見て、何が面白いのか大きな笑い声を上げる職人と、なんとも言えず苦笑してしまうシン。
ドルロはドルロで「ミミミミー!」と笑い声のような声を出し……そうしてシンが苦笑する中、職人とドルロの笑い声が混ざり合って周囲に響き渡る。
そうやって職人とドルロが笑い合う中、シンは空を見つめて……陽が傾き始めて茜色に染まりつつある空を見つめて、
(あんまりお金のことは勉強できなかったけど……でもこれはこれで良い休日だったかな)
なんてことを胸中で呟くのだった。
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