熊本鎮台の司令長官、谷干城は籠城戦を決意し、ここに田原坂の戦いとならぶ激戦『熊本城攻囲戦』の幕が開く。主人公、赤橋は徴兵で地元採用された平民あがりの一等卒すぎない。だが、熊本城の石垣を積むために近江からやってきた「穴太衆」の末裔たる彼には、他の兵にはない『切り札』があった。
戦争の行方を左右する籠城戦の渦中。『穴熊』は巣穴に潜んで、じっと機をうかがう……
西南戦争——この日本史上最後の内戦は、同時に武士が戦いの主役であった最後の戦いとして、小説、漫画、ドラマ、映画の題材となってきました。戊辰戦争の英雄、維新の立役者たる西郷隆盛が政争に敗れて下野し、一転反乱軍の指導者として、時代に取り残されやり場のない鬱屈を抱えた武士とともに決起する。だが近代化され組織化された新政府軍の前に敗れる。
西南戦争は戊辰の続き、明治維新の総仕上げ。いわば、時代の終わりの戦いだった――
そういう視点で描く限りは、漂う悲壮感は覆うべくもありません。
事実、大河でも映画でも、どちらかといえば西郷軍よりの視点で「サムライの時代の終わり」を主題とする作品が多い、この「戦争」。
それを本作では、熊本城を舞台に徹頭徹尾、新政府軍の陣営内――それも鉄砲の射程以上の範囲を持ちえない一兵士の視点で見ることになります。そしてこの視点で描くからこそ、本作は滅びの美学から解放される。「維新の終わり」ではなく、「坂の上の雲」や「八甲田山」「二百三高地」の世界に続く「明治の兵隊たち」の、先駆けの物語になる。登場人物は不慣れな戦場を必死に生きあがく。戊辰戦争やそれ以前の身分制度、維新で変わってしまった社会的立場をそれぞれに引きずりながらも……
これはそんな「戦争」の物語です。当然悲しく無慈悲で理不尽な物語です。そして、それでもなお、前に進もうとする人たちの姿を描くものだった。西南戦争を主題とする作品としては、めずらしいタイプのエンディングが、それを象徴しています……などと、つらつら書いてきましたが、非常に映画や漫画など近代日本史分野のフィクションが好きな方の「きもちいい」分野を刺激するお話です。私自身もすっかり火が着き、西南戦争ブームが突然訪れました。こちらのお話を見つけたGWからこっち『田原坂』に『半次郎』に、『八重の桜』『翔ぶが如く』そして『西郷どん』と、レンタルでDVD借り倒して『ひとり西南戦争祭り』をやってました。どっぷりつかって楽しませていただきました。いずれかの作品を楽しんだ記憶がおありの方はおそらく楽しめますので、ぜひ一味違う『西南戦争』をご堪能ください。