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「……わかったわ」
アリシアの視線は鋭いままだったけれど、口を挟む気はなくなったらしい。
「続きを聞かせて頂戴」
タルサはそれに小さくうなずき、その〝奴隷国家〟という言葉の意味を説明し始めた。
この異世界には、大小様々な数えきれないほどの国が存在しているが、大国であればあるほど、種族が統一されていることが多く、エターナルのように異種族が混在している国家というのは珍しいらしい。
なぜなら、同種族での絆や信仰心という奴は、別の種族に向けられることが難しいからである。また、信者が多い国というのは、すなわち多くの魔力を保有しているということになる。信者の多さが神ランキングの指標のひとつであることから、国力がそのまま神ランキングに反映されているのだ。
そして、エターナルはこの異世界でも新しい国である。
異種族が存在しているエターナルで悠久の魔女が64位という好成績を収めていたのは、悠久の魔女の実力と、魔力の一挙集中によるものが大きい。決して大国とは言えぬエターナルで、さらに異種族が混在しているにも関わらず、悠久の魔女がこれほど慕われている事実には――やはり、それ相応の理由があった。
「その理由こそが、奴隷国家じゃ。悠久の魔女殿は、近隣諸国から奴隷を買い集め、その奴隷たちに自由を与えた。そんな奴隷たちが恩を返すために悠久の魔女殿を慕うのは当然の帰結と言えるじゃろう。……そこにもカラクリがあるのじゃがな?」
タルサが目を細め、アリシアを見つめる。
「かくいうアリシア殿も――奴隷上がりじゃ」
「……だから、何よ?」
アリシアはその言葉を受けて、ふんと鼻を鳴らした。
俺はその言葉への対応が分からず眉を寄せるが――それがアリシアの逆鱗に触れた。
「私は同情の言葉なんていらないわ。私が奴隷だったのは本当のことで、よく調べたわねと褒めたいところだけれど――そんなことは、小人族なら当たり前のことでしょう?」
怒りに震えるアリシアに、タルサは目を伏せた。
「すまぬ」
「急に何を謝っているのよっ!? 私を馬鹿にしたいのなら、もう帰ってやるんだから――」
「妾は、アリシア殿を侮辱しようとは思っておらぬ」
「なら、何がしたいって言うのよ!?」
さらに牙をむくアリシアに、タルサは頭をかいた。
「アリシア殿のことを二人に信頼させるためには、この話題は避けては通れぬ道じゃ。妾はその過去に敬意を表し、アリシア殿を本当の仲間として迎え入れるためにも――この話を続けたいのじゃが、許しては貰えぬか?」
「……」
睨み続けていたアリシアの眉が、不意に下がる。
「……なら、私が直々に話してあげる」
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