第10話

 数日後、無事デスクの眼を通過した櫻子たちの記事は、全国に配布されると同時に、新聞の広告に目を惹くタイトルで堂々と掲載された。

“ミステリー・スポットを探せ” 第一弾『血塗られたラブホテル』

 俊一は自分の書いた雑誌の記事に見入った。内容は同じでも、これまで自分が目にして来たのは、ただの文字のみであったが、いまでは自分の撮った写真も一緒に掲載されている。改めて感慨深いものを感じるのだった。

 俊一は櫻子にいわれて、情報を提供してくれた沼田高次に連絡を取った。記事になったら謝礼を渡すと約束していたからだ。

 俊一は例のラブホテルの近くで沼田と待ち合わせをした。どこでもよかったのだが、ふたりの共通した場所でもあるし、週刊誌に載ったラブホテルに変化があるのかどうか確かめたいこともあった。

 俊一の頭のなかには、ラブホテルの近所には野次馬の車が犇き合い、交通整理がなされている光景が浮かび上がっていた。だが、世のなかそれほど甘くはなかった。

 ラブホテルの前の道路は、この前来た時と何ら変わることがなく、ただ街路灯の光りに気の早い夏虫が乱舞しているだけだった。

 建物から少し離れた場所に車を停めた俊一は、沼田が来るのを待った。十五分ほど経っただろうか、サイドミラーに灯りが映り込んだ。そしてパッシングしたあと、俊一の横を通過して行った。

 それを合図としていた俊一は、ヘッドライトを点けるとゆっくり車を出す。そして数十メートル先に止めた沼田の車の横に着けると、車を降りて沼田に声をかける。

「この間は、どうも。これ少ないですけど、受け取って下さい」

 白い封筒を差し出す。

「サンキュ」

 沼田はなかを確かめることもなく、封筒をダッシュボードに置いた。

「また何か情報があったら、連絡を下さいって花井がいってました」

「OK、何かあったら連絡するよ。そいじゃあ」

 沼田はアクセルを吹かしてあっという間に闇のなかに消えて行った。

 ふたりの遣り取りを傍から見たら、間違いなく不法な取引をしているように見えたことだろう。

 すぐに車に戻った俊一は、櫻子にスマホで連絡をすませたあと、会社に戻った。

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