第81話
「あら、そう。いつも愛子がお世話になってます。さあ、散らかしてますけど、遠慮なく上がってください」
ママは客用のスリッパを2足並べて置いた。ココアは不審者でないことを察したのか、今度はふたりの顔と愛子の顔を交互に見ながらちぎれるくらいに尻尾を振っている。
「ママ、2階のベランダにいるからね」
愛子は、先になって玄関のすぐ前にある階段を音を立てて駆け上がって行く。ココアも短い脚で器用に階段を駆け昇って行った。
金太たちも玄関先にこのまま佇んでいるわけにもいかず、愛子のあとを追うようにして2階に上がった。
部屋のドアが開けっ放しになっている。部屋の中を覗くと、愛子がベランダで動き回っているのが見えた。エアコンが動いている。
「この部屋って、アイコの部屋?」
金太は興味深げな目をしながら訊く。
「違うよ。この部屋は、お兄ちゃんの。でもお兄ちゃんは大学の1年生で、いま夏休みの旅行中だから、だいじょうぶだよ」
「ふーん」
金太は物珍しそうに机の上や本箱の中を見ている。
「なんか、難しい本ばっかりやな。大学生ってこげな勉強せんといかんのやろか?」
ノッポも金太の横に並んで本箱を覗き込んだ。
「まだ外は星が見えるほど暗くないから、そのへんに座って待ってて。いまなにか飲みもの持って来るから」
しばらくして愛子がステンレスの細長いトレーに、コーラの入ったグラスを3つと、カゴに盛られたひと口サイズのマドレーヌを載せて戻って来た。
愛子がお兄ちゃんの勉強机の椅子に腰掛け、金太とノッポは上掛けのめくられたベッドに、トレーを挟んで座った。
「星が見えるようになるまで、みんなで大基くんのことを話さない?」
愛子が両手でグラスを持ちながらふたりの顔を見た。
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