第2話 無重力?


 「刀和! さっさと起きなさい! 」


 切り立った崖に刀和と呼ばれたチビデブの少年を、右足一本で押さえつけている少女 玉響 瞬(たまゆら しゅん)は叫んでいた。

 ショートカットの少女でボーイッシュな外見のわりに綺麗な顔立ちをしている。

 金剣中学のセーラー服を着ているがよく似合っており、制服の上からでも胸が大きいのが分かる。


 そんな少女が右足一本で、刀和を崖に押さえつけているのだ。

 小柄とはいえ、中学生を足一本で吊り上げるのは尋常ではない脚力のように見えるが、


 そうこうしているうちに小柄な小太りの少年 万代刀和(まんだい とわ)の目が覚めた。


「く……苦しい……瞬……やめっ! 」

「じゃあ、起きる? 」

「起きる! 起きるからっ! 」

「よしっ! 」


 満足げにうなずいて瞬は右足を下ろす。

 すると不思議なことが起きた。


 刀和がゆっくりと…………ふわりと地面に下りたのだ。

 髪の毛がふわりと揺れる。


「……あ……れ……? 」


 不思議そうな刀和はきょとんと地面を見ている。

 頭の中がぐるぐるする一方で、足の爪先でも立てるのだ。

 刀和は寝起きでふらふらするのに、普段であればすぐに倒れるようなつま先立ちで、当たり前のように立っている。

 目をパチクリしてからステップを踏もうと、ぴょこぴょこ体を動かすがふわふわと踏めない。


「なんかおかしいわよ」


 困り顔の瞬は刀和に辺りを見るように促す。


 辺りは竹林のようで、周りは竹だらけだ。

 彼らの住む金剣町も田舎町なので竹林の中で遊んだことがある。

 てっきりそこかと思った刀和だが、そんな刀和の目を疑うようなものが顔の前を通り過ぎる。


 刀和の目の前10㎝を小魚が泳いで通り過ぎたのだ。


 その小魚は何事も無かったかのように竹の間を縫うようにして去っていった。


「……えっ? 魚? 」


 よく見ると、辺りには魚が泳いでおり、熱帯魚のようなカラフルな魚までが平然と泳いでいる。

 それに泳いでいるのは魚だけではない。


 ウミウシやエビのような虫も多数飛んでおり、足元には貝や蟹が居る。


 まるでアクアリウムの中に入り込んだような光景に呆然とする刀和。


(えっ? 水中なの? やばい息が続かない‼ )


 慌てて息を止める刀和。

 段々苦しくなって顔が赤くなる刀和だが、瞬はショートカットの髪をふわふわ揺らしながらあきれ顔で言った。


「水中じゃないわよ。ここは大気中。ちゃんと息が出来るから」

「……えっ? 」


 言われて息をする刀和。


すーはー


 ゆっくりと深呼吸するが、ちゃんと息が出来る。

 

「これは一体……」

「あたしが聞きたいぐらいよ……」

 

 困り顔の瞬と刀和。


 何しろ、こんな世界は見たことも無いし、経験したことも無い。

 息が出来て、水中のように魚が泳ぐ世界なのだ。

 はっきり言って意味がわからない。


 だが、あることにようやく気づく。


? 」

「……みたいね」


苦々しく答える瞬。


 重力が小さいと海中に居るのとほぼ同じような動きになる。

 降りるのもゆっくりになるし、足の踏ん張りも効きにくくなる。

 違う点とすれば、空気中なので水の抵抗が無い点だけだ。


 とりあえず歩こうとする刀和だが、うまく歩けずにヨタヨタと動く。

 それを見てため息をつく瞬。


「泳いだ方が早いわよ」


 そう言って華麗に上へとジャンプする瞬。

 竹林の間を縫うように刀和の周りを軽く一周する。


(やっぱ水泳部だけあって早いな……)


 瞬は水泳部のホープと言われており、泳ぎが上手い。

 スポーツ万能、勉強優秀、さらにコミュケーション能力もあるのでクラスの女子の人気者である。

 また、姉御肌で面倒見の良さにも定評があり、下級生からも慕われていた。

 そんな彼女だからこそ、こういった不可思議な状況にも対応が早いのだろう。


 瞬は軽く一周すると、ショートカットとスカートをフワフワ揺らしながらゆっくりと下りながら言った。


「とりあえず、竹林の外に出ましょ? ここにずっといても埒が明かないし」

「そうだね」


 瞬の言葉に賛同した刀和はゆっくりと泳ぎだした。

 だが、泳ぐ時に重要なのは『息継ぎ』も大事だが、水の抵抗も重要だったりする。


 水ではなく、空気を掻くのであまり前に進まないのだ。

 必死で空気をかいて泳ぐ刀和と華麗に泳ぐ瞬。

 瞬は泳ぎながら困り声で言った。


「他のみんなはどこ行っちゃったんだろ? 」

「……瞬……信じたくない気持ちはわかるけど、僕らが異世界に来たんだと思うよ? 」


 そういう所だけは刀和の方が現実的だった。




人物紹介


万代 刀和 (マンダイ トワ)


 小柄で小太りの少年。

 優しい性格で何事も喧嘩しない穏やかな性格。

 この物語の主人公でこれから波乱の人生を送る予定。


 瞬を守ろうと必死になっているところがある。


銘言『僕が瞬を守るんだ! 』


※銘言とはキャラを表す言葉で作者の造語です。



玉響 瞬 (タマユラ シュン)


 中肉中背のショートカットの少女で胸は大き目。

 水泳部に所属していたので、スタイルがすごく良い。

 

 快活な性格をしており、姉御肌なので後輩からも慕われるクラスの体育会系女子。


 彼女もまた波乱の人生を送る羽目になる。

 

 向上心が高く、自分の可能性を試してみたいと思っている。 


銘言『わたしは自分を試したい! 』



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