かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く・1~始まりの出逢いと矢が射貫く一輪の花~

野林緑里

始まりの出逢いと矢が射貫く一輪の花

1・一輪の花

1・交差点にて

 花は咲く。


 いつの時代でもどんなときでも咲き乱れる花は美しく、人々の心を穏やかな気持ちにさせてくれる。


 けれど、その咲き乱れた花は人々を恐怖へと導くためのものへと変貌を遂げていた。


 見覚えのある黄色い夏の花のはずだというのに、それは美しく咲き、人間を楽しませるためのものではない。



 日本の首都東京の繁華街。その中心で、その黄色い花は立ち並ぶ高層ビルにの屋上にまで到達しそうな勢いでものすごい成長を遂げ、人々を驚愕させている。


 人々は戸惑い、逃げ惑う。


 状況がわからずその場から動けぬもの。腰を抜かして座り込むもの。


 悲鳴をあげるものいれば、声の出し方さえ忘れて、愕然と立ち尽くす者もいる。


 様々だった。


 騒然となる人々の様子を楽しむかのようにその花は雄叫びをあげると同時に、まるで蛇のようにうねる緑色の蔓が逃げ惑う人々へと絡み付こうとしていた。



「くそったれ」



 混乱の最中、一台のバイクが急ブレーキをかけながら停止する。


 それに乗っていた長身の青年が、悪態をつきながら、突然現れた巨大な黄色い花をヘルメット越しに見上げていた。




 そこには怯えというものはない。ただ睥睨し、苛立ちだけを募らせているのだ。


 彼の周りには悲鳴とともに逃げ惑う人々。


 どこからともなく響くサイレン音がスクランブル交差点に集まってくる。


 警察車両から降りた警察たちが迅速に人々を誘導していく。


 警察のひとりが、その場から動こうとしない青年に気づき、歩み寄ろうとした。別の警官が彼はいいのだと制止させた。彼を避難させようとした警官は首をかしげながらも、指示に従う。



「さっさと終わらせてやるよ。ボケ」



 いつのまにか青年の手には弓矢が握られており、その矢先が巨大な花へと向けられいた。


 

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