第47話 成宮和穂(ナルミヤカズホ)

数人が学校に戻って来た。

クラスは俺と違うが、それでも.....俺嬉しかった。

久々に.....心の底から歓喜に湧いている。

その気持ちを表現するなら.....そうだな.....宝くじで1等が当たるより嬉しいと言った所だと思う。


だけど嬉しい反面、不安が有った。

またいじめられるんじゃ無いかという不安だ。

でもきっと.....大丈夫だ。

今度は俺達が居る。


何が有っても.....きっと大丈夫。

みんなで乗り越えれる筈だ。

思いながら俺は.....笑みを浮かべた。

そして.....午後の授業を受ける。


弁当については3つ食ったせいで胃が爆発しそうだが。

嫌気は無く、嬉しい気分だった。

何故だろうな。

多分、数人が帰って来たお陰だろう。


「伊藤」


「.....」


数人が.....この学校で色々な人達に囲まれて。

そして成長していってほしい。

その様に俺は願いながら外を見る。

これじゃまるで.....息子を見守る父親の様だな。


「伊藤!!!!!」


「はっ!」


俺はバッと顔を横に向ける。

数学教師の七尾が怒って立っていた。

俺は冷や汗をかきながら、ハローと言ってみる。

そして拳骨が飛んできた。


「集中せんか!バカモノ!」


「は、はい.....」


教室がワッと笑いに包まれる。

俺はその光景に溜息を吐きながら。

目の前の数式を見ながら.....答えを導いた。

ったく拳骨しなくてもいいじゃねーかよ.....。



「吉」


「.....おう?どうした?.....数人」


「.....何だか僕、男に告白されるんだけど」


「.....」


6時限目が終わって教室に数人が来るなりいきなりその様に言われた。

でもな、それは容姿に問題が有ると思うんだ。

身長も低いし色白も問題かと。

何処からどう見ても美少女にしか見えないんだしな.....。


「僕は男だからね」


「.....そうだな」


「.....吉、何とかして」


「いや、そうは言われてもな.....」


何とかしてと言われても。

と、ふとノアと皆穂に告白された日を思い出す。

ファーストキスと言って交わされた。

あの日を.....と俺はボッと赤面する。


「吉?何を思っているのか知らないけど、僕は男だからね」


「.....そ、そうだな。うん。大丈夫だ」


「大丈夫じゃ無いから言っているんだけど.....」


まぁ良いや、と数人は髪の毛をバサッとひるがえした。

その瞬間、女の子の様な香りが。

俺は真っ赤に赤面する。

美少女の様な色白の鎖骨といい.....ってあれ?

コイツは男なんだが。


「吉?どうしたの」


「.....いや、いや。俺は.....うん」


「.....?.....まぁ良いけど。あ、ここに来た理由だけど」


「.....えっと、そうだな。どうしたんだ?」


吉、今度の日曜日、暇かな。

と数人は小首を傾げて言った。

今度の日曜日と言えば.....特に何も無いな。

もう少ししたら三者面談だが。


「.....予定は無いぞ?どうした」


「.....えっとね。僕の母親にあって欲しいんだ」


「.....母親って?.....お前.....」


「.....僕の母親は癌で死んだ。10年前にね。紹介したいんだ。吉という友達を」


数人は少しだけ顔を逸らして言った。

俺は.....その言葉に見開く。

そして.....複雑な面持ちで数人を見た。


「.....分かった。行こう」


「.....え?本当に?.....有難う。吉」


俺は笑みを浮かべる。

少しだけ広角を上げて俺を見る、数人。

えっとな.....何というか.....コイツは男なんだが。

男なんだが!

性別を間違えたんじゃねーのか.....と思ってしまう。


「.....ところで吉。この女の子誰」


「.....あ?」


「.....」


真横に誰か立っていた。

俺は目の前の女の子に驚愕して後ろにぶっ倒れる。

何だコイツ!?いつの間に居た!?


髪がクルクルした、黒髪。

そして.....ジト目ながらも顔立ちが整った人形の様な。

更に言うならキチッと校則を守った服の着方。

身長は低めだが.....ってコイツ?


「.....成宮?」


「.....成宮?って誰」


成宮和穂(ナルミヤカズホ)。

俺のクラスメイトだが.....話した事は無い。

何と言うかコイツはアレなんだ。

机に並べたタロットカードとかで何時も何かしているから.....かなり近寄り難いって言うか。


しかしながら俺を何時も見ていた事は知っているが.....何だコイツいきなり話し掛けてくるなんて。

俺は?を思いながら椅子を直しつつ、見つめる。

すると成宮が言葉を発した。


「.....伊藤くん。貴方、とても幸せそうね」


そう一言、言われた。

俺は浴びせられる周りの視線を見ながら。

何だそれ?

汗を流しつつ成宮に答えた。


「.....え?あ.....ああ、幸せだが.....」


「そう」


「.....う、うん。って言うか.....お前、一体、何の用だ?」


「.....そう、私、貴方が好きなの。付き合って」


その言葉に.....教室がガチンと音が鳴って凍った。

は?あ?コイツ何言ってんだ!!!!?

俺は驚愕しながら思いっきり見開いて赤面した。

すると俺の前に数人が。

そして成宮を睨む。


「お前誰?吉に用なら先に僕を仲介してもらって良いかな」


「.....貴方は誰?私が何をしようが勝手だと思うけど」


「勝手じゃ無い。僕は吉の友達だから。.....大切な友達の為なら何でもする」


「.....そう」


すると向こうから悲鳴が聞こえた。

正確に言えば、皆穂の、だ。

お兄ちゃん!!!!!何をしているの!!!!!と、だ。


この世が終わった様な顔をしてハイライトが消えている。

アカンまた混乱し始めた!

これ以上.....ややこしい事はごめんだ!


「.....成宮。俺は誰とも付き合うつもりは今は無いんだ」


「.....あの子の為に付き合えないの?」


「そういう事じゃ無いんだけど.....うん」


「.....そう。でも諦めないから」


そして.....成宮は何事も無かったかの様に席に座る。

俺は???を浮かべながら。

成宮から視線を外して.....数人と皆穂に説明した。


結論から言って、この成宮という女の子。


新たな俺達の物語のスタート地点だった。

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