フェミニストの陰謀(元ネタ:東村山警察署旭が丘派出所警察官殺害事件より)

時はまだ辺りが非常に暗い午前3時台の事。

原付スクーターに乗って新聞配達をしている青年が居た。

前日の日中から降り出した雨はもう既にピークを過ぎたのか

この時間帯において、ポツポツ程度の小雨である。

だが、それでもこの新聞配達をしている青年にとっては

空から降り注ぐ雨粒は身体をずぶ濡れにするに足るくらいの冷たさだ。

おまけに心なしか、この時間帯の気温はとても肌寒く感じられる。

この青年の原付スクーターの前籠まえかごに乗っている雨に濡れるのを

防ぐため透明なビニール袋で覆われている本日付の朝刊は、

幸いにもこの一部だけだ。この一部を届ければ

本日の仕事は終りとなり、後は新聞販売店に戻って店長に報告し

勤務カードを押して帰りに温かい朝食とコーヒーを買い

自宅で食べ終えて布団の中に入り温かくして眠るだけだ。

その最後の一部を届ける先が2丁目の交番だ。

あの交番は、この青年が知る限りこの街に点在する

交番としては小ぶりではあるが二階建てとなっており、

その二階は宿直室も兼ねている為、警官が交代で

当直するには十分な造りとなっている。


やがてその交番について、その玄関に行こうとする。

普段なら、すぐそこに最低でも一人は巡査が居て

こちらが毎朝届ける朝刊を必ず受け取るのに、

その交番の電灯は点いているだけで誰も応対しない。

これはどうもおかしい。だが次の瞬間、この新聞配達の青年は

思わぬ事でその答えを知る破目になった。

それというのも本来、この時間帯において

交番の留守を預かってる筈の巡査が首と胸部から血を流し

仰向けの状態で床に倒れているからだ。

「う、うわぁぁぁぁぁッ!!!!」

この新聞配達の青年は思わず悲鳴を上げながら腰を抜かして

尻餅を着いた。その表情は驚きのあまり強張り

歯の根も噛み合わないくらいだ。

そこへ、パトカーに乗ってきた二人の巡査が

新聞配達の青年が腰を抜かし驚愕しているのを見て訊ねた。

「どうしました!?」

すると新聞配達の青年が驚愕しつつ交番内を指差した。

それを見て、その巡査のひとりが交番内に入ると驚愕した。

「に、仁内ッ!」

「どうした、池崎巡査!?」

「大川巡査部長、仁内巡査長が、死んでるッ!!」

「何だってッ!?」

大川が交番内に入ると、確かに自分らの知ってるひとりの同僚が

死んでるのを発見したのである。

「に、仁内・・・・・・」

そして池崎と大川の二人の緊急連絡によって

署から多くの警察車両が到着した。

やがて仁内巡査長は救急車で近くの病院に運ばれ

救命処置が施されたものの、その甲斐も無く死亡となった。

そして所轄の警察署が調べた所、

仁内巡査長が警官の一人として携行していた

拳銃と予備の実弾15発が無くなっている。


通常、交番勤務は2人一組で待機しているが、

他の警察官はその当時通報を受けた別の一件に出ており、

巡査長のみの隙を狙った犯行と思われる。

その後の捜査で派出所の机の上に

管内の住所が書かれた「警察参考簿」が出ていて、

道案内の地図も書かれていたことから、

犯人は道を尋ねるふりをして襲ったとみられた。

また、司法解剖の結果、死因は

左の首を刺されたことによる頸動脈損傷と判明。

拳銃を吊るす紐が切られていたことから、

鋭利な刃物が使われたとみられる。

今より3年前にも都内で派出所が元自衛官の男に

金融機関を襲撃するための拳銃欲しさで襲われ事があった。

その際の供述で「強盗するための拳銃が欲しかった」と

言った事から、拳銃による新たな犯行を懸念していた。


しかし、その後奪われた拳銃が使われた形跡はなく、

犯人像にはガンマニアの犯行などの説も出た。

事件当日に服に血を付けた二人組の男を

見たとするなどの目撃証言があったものの、

単独犯か複数犯かは判明せず、

拳銃や犯人の遺留品なども見つかることはなく捜査は行き詰った。


やがて公訴時効まであと1年と迫ったことを受け、

署防犯協会は犯人検挙に最も貢献した情報に対して

懸賞金300万円を支払うことを決定した。

しかし、その甲斐も無く公訴時効を迎えた。

殺人事件としての捜査および懸賞金の支払いは行われていないが、

奪われた拳銃の捜査は継続されている。


そしてその迎えた公訴時効を窺う様に、人影が事件現場の近くにあった。

「くくく。どうやら、誰もこの俺による仕業とは思っていない。

そういや、組織から指示が来てたな。日本閣の主人などと抜かして

貴族生活を満喫しているアホなガキとおバカをシメろって。

なら、丁度いい。コイツを試して見るとするかい?」

その男は、手許にある拳銃を見た後、それを手荷物の中に仕舞い込み

その事件現場であった交番を窺う位置にある交差点の物陰を後にする。

そしてその後、この街でこの男を見た者は誰も居なかった。

ただ判った事は、この男は過激思想を掲げるフェミニスト団体と

関係のある男であり、その組織に対する忠誠と任務に対する使命感で

この拳銃を手に入れたらしいのである。

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