これってホントにありなの?(元ネタ:ニセ夜間金庫事件より)

時は、年明けからの寒さがピークを迎え春の気配が感じられる2月の終り頃。

歓楽街の近くにある、越州銀行本店夜間金庫と明記されている所に

ひとりの手荷物を持った中年の男性がやって来た。

わざわざ世も更けようという歓楽街から来たのからして、

この男はどうやらこの近くにある、ソープランドの会計係と思われる。

そのソープランドはこの街で常に他の同業とランキングを

争っているだけあってかなりの顧客から人気があるらしい。

何でこの時間帯に来たのかというと、こういう手の業界は

他の飲食店とか娯楽施設などと比べると、その業種の性格上

白昼堂々、口に出来るモノでは無い。だが需要はあるもので

人間も生物のひとつである以上、睡眠と食欲に次いで

性的な欲求は人間の三大欲求としては、どうしても避けては通れない。

そういうモノを全否定したがるのはフェミニストぐらいなものだ。

その人間の性的な欲求の、はけ口として発達したのが

入浴も兼ねた業界であるソープランドの様な風俗である。

その業界は景気の良し悪しは別としても、人間の男性の

性的欲求のある限り、需要はあるというものだ。

その店は、その日もその日とてかなりの売り上げが

期待していた以上の見込めたのか宵の口から少ししか

経っていない時間で早くもお店の金庫がパンパンになる程、

売り上げが達成出来たのだ。こうなれば善は急げと良く言ったもので

銀行が直営している夜間金庫に一時的にでも預けた方か良いと

オーナーも店長も早い決断したのかその日の売り上げを

預け入れようとしたのだ。

その夜間金庫に来た所、いつもとは何か感じが違っていた。

それというのもそれには次の断り書きの紙が張ってあったからだ。


御利用のお客様へ


鍵の接損事故に困り投入口開閉不能となりましたので、

誠に御足労ですが、当銀行専用通用口の仮金庫迄御廻り下さい。


越州銀行


男性は看板に書かれた略図に従って専用口の方にまわると、

そこには「夜間金庫」と書かれた仮設金庫があった。

金属製のりっぱなもので、店長はそれ自体には何の不審さも持たなかった。

ところが、売上金の入った袋を投入口に入れてみたところ、落下音がせず、

入り口でつっかえているように感じた。

手をつっこんで押しこもうとしたが、金庫の中がいっぱいなのか、

ミシミシと音がして表面がふくらんできた。

横からは金庫の中が見え、現金袋を取り出すことも可能だった。

慌てた男性は、近くにいた警備員に見張りを頼み、

すぐ警備センターに連絡した。

この時はまだ、夜間金庫を怪しんだのではなく、

銀行側の設計ミスだと思っていた。

 

警備員や、銀行の幹部職員が駆けつけてきたものの、

幹部らは夜間金庫が故障したことも、

仮金庫を設置したことも知らなかった。

まもなく、この仮金庫が何者かによって設置され、

売上金を奪おうとしたものとわかった。

この時すでに68店の商店主から計5700万円以上の売上金が投入されていた。


手作りだったニセ金庫だが、その作りに預けに来た人は誰も疑うことはなかった。

実際、何日かかけて丁寧に作られたものと見られ、

各所にアイディアが散りばめられていた。


ニセ金庫自体はベニヤ板製である。しかし、そのままでは重厚に見えず、

怪しまれるだけだと考えたのか、犯人はその上からステンレス板を張り、

アルミサッシで枠をつけて金属感を出した。下側にスポンジを張り、

底にはウレタンフォームを敷くなど音響効果も配慮。

おまけに裏側にはリチウムイオン電池をセットし、

暗闇の中でうっすら明るくする工夫もしていた。

そして持ち運びのためか、2つ折りにできるようにもなっていた。

 

さらに入金するとレシートが出てくる仕組みにもなっていた。

これは現金をいれて、レバーを引き下げると輪ゴムと針金の仕掛けで、

印字されたプラスチック札が出てくるようになっていた。

これを怪しまれないようにするためにも、

下のような注意書きをぶら下げて、フォローしていた。


そんでその夜間金庫の中はというと

「こりゃ、流石にそろそろ潮時か。

まあ、当面の利益は得られたし撤収するとしよう。」

この中に居たのは皆村良人(のちの尾場寛一=おバカ)であった。

って、お前かーいッ!?


コイツは、そのまんまと手にした金を入れると

他の人間がこのニセ夜間金庫を怪訝して調べてるのに

集中している隙を狙って、要領良く逃れて見せ夜の歓楽街を後にした。

それにしてもまあ、いつもながらコイツはそういう知恵と労力を

もっと他の建設的かつ健全な方に生かせないのだろうか?


それから数日後、学校内にて

「ちょっと皆村君。貴方最近、羽振りが良くなってない?」

「ははは、そうかな?」

「だって、手にしているスマホが新しくなってるし。

おまけにタブレット端末も持ってるし。」

クラスの女子のひとりの質問に対し、おバカは巧みに

のらりくらりとかわし、明言を避け手前を取り繕うに留めた。

(悪いな世間よ。今のオレとしてはかすみを食って生きれる

訳じゃないんでね?いつか大きく稼いで、返すからさ。)

そう思いつつ、おバカはこの前まで持っていた壊れかけのスマホを

新しい製品に買い換え、それに加え新しく手にした

タブレット端末でオンライントレードにおいて、

後場のチャンスを授業が始まるまでの間に窺っていた。

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