沐浴美少女

これは、とある初夏に指しかかろうとしていた五月の事だった。

ゆうじは街の喧騒を忘れたいかの様に、清流伝いに山を登っていた。

「ふう。こんな時期の清流の側って何気に癒されるなぁ?」

確かに、川のせせらぎを聞いていると

登る道中が殊更、むせ返るくらいの暑さだっただけに

それを忘れさせてくれる程の心地よさを感じる。

そしてその清流を辿る様に、登り続けてると

落差が10メートルはあろうかの流れ落ちる滝と滝つぼを見つけた。

思わずその滝つぼの辺に立って、その清水に手をつけて

適度な冷たさを楽しんでいると、滝つぼを挟んで

こちらとは反対側から、誰かが来た。

ゆうじは思わず潅木かんぼくの中に入り込み

それに紛れ込む様に座り込む。

そしてゆうじにとって思わぬ者がやって来た。


その現れた者とは、長い黒髪をした

真紅のスカーフを胸元で止めてる

青みがかった紺色のセーラー服と同色の

丈の長さが膝上のスカートを穿き、白のソックスを三つ折りにした

茶色のローファーを履いてる女の子がやって来た。

(何か、美人だな?)

ゆうじは潅木から様子を眺める。

その女の子は最初はしばらくの間は流れ落ちる滝と滝つぼを眺めていた。

見れば見るほど10代半ば過ぎとは、とても思えない美貌びぼう妖艶ようえんさだ。

そう思っていると、次の瞬間ゆうじは私的してき衝撃しょうげきを見た。


それというのも、今まで流れ落ちる滝と滝つぼを眺めていた彼女が

セーラー服の胸元に留めていた真紅のスカーフに手をやりそれを緩める。

スカーフを外すとそれを足元に置いた。次にセーラー服を脱ぎ始める。

セーラー服を脱ぎ取ると白い肌の上半身が露わになる。

やがてセーラー服を足元に置くと今度は、左の腰に手をやり

スカートを留めてるホックを外しジッパーを下ろす。

そしてスカートを脱ぐとそれも足元に置いた。彼女は下着姿だ。

次にブラを外して脱いだ後、足元に置く。最後にパンツを脱ぎにかかる。

パンツを脱いでそれを足元に置き履いてたローファーを脱ぎ

三つ折りにした白いソックスを脱いで全裸になった。

そして滝つぼの中へと静かに入り、滝つぼの中心に進む。

どうやらその滝つぼの深さは腰までの様だ。

そこで両手で滝つぼの水を掬い身体に掛ける。

その姿は、裸体と長い髪と相まって絵に描いた美しさだ。

やがて彼女は滝つぼに身をかがめ、頭まで浸かった。

彼女はその中で泳いでいて楽しそうにしている。

それをしばらく堪能たんのうしていたかと思うと立ち上がり

今度は流れ落ちる滝の方へおもむく。

そして落水に近づくと頭からそれを浴びた。

滝が作り上げた白いカーテンの様な落水を全裸で浴びる姿は、

まるで天女てんにょのような何とも言えない妖艶さを醸し出した。

ゆうじは潅木の間から、それを眺め続けている。


どれくらい時間が経過したのだろう?

それを眺め続けると、水浴びしていた彼女は滝つぼから上がり

髪と身体をそのままに、脱いでた靴下と靴を履き

下着を身に着け、紺色のセーラー服を着て真紅のスカーフを

胸元で留め、最後にセーラー服と同色のスカートを穿き

ホックを留めジッパーを上げるとまるで何事も無かったかの様に

滝を後にした。最初からそれを見届けたゆうじもその場を去った。


その日の夕暮れ時にその出来事を喫茶店のマスターに話すと

彼は両腕を組んで少し考えた後

何かを思い出したのか、ゆうじに対し語った。

「そういえば僕が田舎の村に居た頃、その村で当時

非常に美少女というべき女の子がおったな?

確か、皆村加奈子みなむらかなこって、いう女だ。

当時、高一だった僕から見ても非常に美人だったな?」

「ふむふむ。」

それを聞いてゆうじも頷く。マスターは話を続ける。

「僕が聞いてる限りじゃ彼女は、ご家族とかなり険悪で

特にお父さんと関係が酷かったな?お父さんの事を訊くと

彼女は、普段は明るい笑顔だったのとは違って

まるで人が変わったかの様に『あんな腰抜けの事なんか私に訊くな』

と言ったり二言目には『将来、大企業の代表取締役になれたはずなのに

それを蹴って辞職し何も無い貧村へ、都会から逃げた情けないダメ男』

と、いつもお父さんの事を罵っていたな?そしてご家族の

大反対を押し切って大学受験を受けて合格し、

都会の大学で猛勉強したっていうらしい?」

マスターの言う限りでは、その後大手の銀行に勤め

そこでも必死にお金を貯めたという。

だが、悲運なことに在日韓国籍の男性による

強姦殺人の被害で亡くなられたっていう。

(そ、それじゃ俺が見たあの制服を脱いで全裸になって

水浴びしていたのは、その若き女子学生時代の・・・。)

ゆうじも霊感はあまりないが、幽霊の存在とその種類の多さは

聞いた事があった。幽霊は普通、自分の死んだ場所で

自分が死んだときの姿で彷徨うというのが一般的だが

何事にも例外というのはあるもので、幽霊によっては

自分が死亡した時のより若い姿でしかも自分の思い出の場所と

地形や雰囲気が似ていれば、何処にでも現れるっていうのを

聞いた事がある。ゆうじは、よくよく思い出せば、あの時

滝つぼの水は実際には掬い取られて無ければ

彼女は日の光に照らされてるのに、

太陽の光を受けた際にあるはずの足元に影というモノが無かった。

滝の落水を全裸で受けてたのに滝の水は

彼女の身体に弾かれて散らなかった。

そして何よりも身体が濡れているはずなのに

その濡れた髪の毛や身体をまったく拭っていなかった。

考えれば考えるほど、これが生きている者では無く

幽霊だとすればゆうじとしてはすべて合点が行くし納得する。

そうでなければ何で水に濡れているのに

服を着る前に濡れた髪の毛や身体を拭かないのか説明がつかない。

そして最後にマスターは言った。

「そういえば彼女にはひとりだけ男の子がおったな?

あれから何処へ消えたのか判らんが、もし生きているとしたら

キミと同じ齢になってるはずだったと思うが?」

それを聴いたゆうじは緊張が走る思いを感じた。

少なくともマスターはその男の子がどこぞで、

朽ち果てたという話は聞いてない。だとすると

やがてはこの街に出現する時があるだろう?

その話を最後まで聴いたゆうじは何かの予感がしてならなかった。



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