第53話 53
第12章 ヤミからの離脱。
目が覚めた。僕は朝早くに目が覚めてしまった。朝の光りが自分を薄く包み自分を淡い清澄(せいちょう)の光を照らしだされているようだ。そして、僕は動いた。
すぐ下に降りて、裸になり、薬を全身に塗って、すぐ着替える。それで降りてきた康子さんに挨拶(あいさつ)をする。
「おや、一樹くんじゃない。今日は早いわねぇ」
「はい、おばさま。コーヒーは僕がしておきますね」
「あら、ありがとう」
そうして僕はコーヒーを仕掛けて、自分の分の食パンを焼いてマーガリンを取り出した。そして、焼いたトーストにマーガリンを塗って、コーヒーをマグカップに入れて、朝食を食べる。
「いただきます」
小さくお辞儀(おじぎ)をしてから僕は朝食を食べ始める。トーストをかじる。マーガリンの牛乳のような乳の甘さが舌に広がり、ついでマーガリンの独特な苦み舌に残った。
それを全部食べ終え、そして、僕はカバンに教科書の確認をした。そして、そのときに美春がのろのろと和室から出た。
「おはよう、一樹」
「おはよう、美春。大丈夫?学校に遅れるということはない?」
「うん、大丈夫。いつも行けれているから」
そうも言いながら、心配だったし、この家に不慣れだろうと思って僕は美春の朝食の準備を手伝った。
「美春。ここにトースターがあって食パンをここに入れるんだ。それでボタンを押す」
僕はトーストをとスターに入れ、ボタンを押した。それを見ていた、美春が肯く。
「コーヒーがあそこのキッチンにあって、マグカップはここにある。どのマグカップがいい?」
「ピンクのキティちゃん」
「うん。これだな。あそこにコーヒーがあるから自分で入れてごらん」
美春はうとうとしながらも、きちんとコーヒーを入れた。
「コーヒーフレッシュはいる?」
僕はマグカップと同じ棚にあるコーヒーフレッシュを見せながら美春に言った。
「いる」
美春は即答した。僕は美春にコーヒーフレッシュを渡す。そのあと僕は美春に席に着かせて(このテーブルは5人の席のあるテーブルだが、和也さんの二人の子供が出て行ったから、空席のままだ。5人目の席は元から使われていないものらしい。僕はその席の一つに美春を座らせた)そして、冷蔵庫からブルーベリージャムを取り出して言う。
「この家にはマーガリンとブルーベリージャムがあるけど、どれをつける?」
「ブルーベリー」
美春がそう言ったのでブルーべーリーを渡して、皿とスプーンを渡した。
「うん。ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、僕は学校に行ってくる。終わった後の食器はその辺においてくれてたらいいから。僕か、康子さんが洗い物をするよ」
それに美春は一瞬(いっしゅん)で覚醒(かくせい)した雰囲気を纏い(まとい)、そして職人がものを注意深く見るような目で僕を見た。
「え?もう、行くの?」
「ああ、もう行くんだ。ちょっと、先生に話したいことがあってさ」
「ふ〜ん?」
美春はイヌワシが獲物(えもの)を注意深く見るように僕を何か疑っているような目で僕を見た。
こいつは本当に動物的な嗅覚(きゅうかく)を持っているな。
僕はそう思った。本当に彼女は僕のどの仕草に何らかの異変を感じたが知らないが、彼女なりにこれから何かあることを直感で気づいたのだろう。
「じゃあ、何かあるか知らないけど、気をつけてよ」
「ああ、わかった。気をつける」
そして、僕は用意をして家から出た。あの言葉では彼女に対して何らかの異変を肯定したものだったが、それでも構わないだろう。実際にこれから事を起こすのだ。
僕は自転車を起こして、朝の生命が目覚めるような、一日の生命の予感に満ちた世界に足を踏み入れる。
今日も朝だ。新たな一日。これから行うに当たってちょうどいい朝だ。
僕はそう思った。
僕は学校に着く。自転車置き場に自転車を入れて、そしてすぐに僕は職員室に向かった。
まだ、7時の学校は朝練をしている生徒がちらほらといて、朝の本格的に人が活動する前の何か起こる前のある種の静寂さに満たされていた。
僕はそんな中、職員室の前に立った。果たして成田先生はいるか?職員室には人の気配がほとんどなかったが僕は扉を開けた。
そして、僕は職員室の扉を開いた。そして、そこには成田先生しか、いなかったほかには誰もいないのだ。僕はつかつか歩いて成田先生のそばに来た。
「お!どうした?笹原。何か用か?いやー、俺も朝早く来たもののほかのやつは部活の朝練に付き合っていて誰もいないんだわこれが。それでこうして一人寂しくいたんだ。笹原が来て助かったよ」
成田先生は人なつっこそうに笑いながらそう言った。僕は成田先生の笑顔を見ながら成田先生に近づきこう言った。
「成田先生、時間。ありますか?」
成田先生はきょとんとした顔になった。まるで僕が女委員長のようにまじめくさった、そして、単刀直入に言ったから驚いた(おどろいた)のだろう。しかし、僕は深刻な用件で成田先生の元に来たのだ。人からどう思われようと。成田先生も僕の突然の訪問に戸惑いながらも返事をした。
「ああ、わかった。どうぞ。話してくれ」
「はい、話します」
それでぼくは近くのテーブルからいすをとって話すことにした。僕は成田先生をじっと見つめていった。
「先生。いじめがなくなりましたね」
「ああ」
成田先生は肯いた。そのうなずきはこれから僕が何を話すのだろう?と言う困惑がさざ波のように現れ、消えた。
「そうだな。いろんな事があったけど。俺の思いは笹原のおかげでがんばれたというのがとにかく、実感としてあるよ。それで、笹原は俺に何を言いに来たんだ?」
成田先生は前のみになった姿勢を後ろの大きくそらせ、指を打ち鳴らせながら言った。成田先生自体それほどじっと人の話を聞くことができないようだった。
僕は成田先生がそういうゆっくり話を聞いてもらえそうになかったので核心的な言葉を言う。
「いじめはなくなりました。村田に対するいじめはなくなりました。これでクラスに平穏が戻りました。みんな幸せそうにしています。しかし、これでいいのでしょうか?」
「?。別にいいではないか?」
しかし、僕の核心的な言葉に成田先生は顔に疑問の花が乱れ咲いていた。
ここまで言ってもわからないか。ならば、やはり単刀直入に言うしかないな。
僕はそう思って、次の言葉を。決定的な言葉を言うことにした。
「村田のいじめは先生の努力と村田の懸命なスピーチで収まりましたね。これはいいです。問題は波田(はた)さんのいじめは波田(はた)さんの死で終わるのでしょうか?」
そう僕は先生に問いかけた。先生はその言葉を受けて、たこのように青になり赤になった。そして魚のえらのように口をぱくぱく動かしたが言葉にはなっていなかった。
「先生が僕の言いたいことをわかってくれたそうですね。それで、先生。先生は波田(はた)さんのいじめをどう対処する予定ですか?波田(はた)さんの両親には話しましたか?村田達に対してどう処罰を加えるつもりですか?」
そうなのだ。村田のいじめで肝心なところがずれていたのだ。まだ、波田(はた)さんのいじめは終わっていない。いや、終わらせてなるものか。先生には僕が真相を全部話した。知らなかったでは済まされない。それに対して、先生はどう言うつもりなのか?
「そ、それは…………………」
そうして、先生は何かを言おうとしたり、しかし、そうかと思ったら黙ってしまったり、そんな口を開いては戻すという成田先生らしくない作業を先生はしていた。
「両親には何も言ってないのですね?」
先生はそれにようやく肯く。
「では、村田達の処罰は?」
「しかし……………笹原……………」
先生は苦いハーブをかんだような苦々しさと、それを本当にやっていいのか?という戸惑いが透けて見えていた。
「やらないつもりですか?」
「いや………そうとは………」
僕がそう言うと先生はしどろもどろになった。
先生はたこが固い貝を食べあぐねるように、困惑の霧(きり)を絶えず出していた。
それを見て、僕がやはりかねて考えていた結論を述べる事にした。
「わかりました。先生が何も処罰するつもりなら、僕はした方がいいと思いますけど、多分しないでしょうから、僕は波田(はた)さんの両親に全てを話します。先生は波田(はた)さんの両親にどうして村田達を処罰しないのか言って下さい」
「笹原!」
成田先生は僕に自分が船に乗っておりその船が難破して、海に流されたとき、救難士になんとしてでも自分を必ず助けてくれと言うような強い眼力を持って僕を見ていた。確かにその目には切羽詰まったものを感じた。しかし、僕はここで引くわけにはいかなかった。だから、礼をしてその場から離れようとしたら、成田先生は僕の背中にこんな言葉を投げかけた。
「笹原!もうちょっと考えようじゃないか。果たして、そんなことをして誰か喜ぶ人がいるんだろうか?もう、波田(はた)はいないわけだしそんなことを知らせてもご両親は余計悲しむだけだ。ここは知らせないでいた方が学校側とご両親にとってよい結果を生む。そうは思わないか、笹原?」
僕は成田先生を見た。成田先生はおとがいをあげて、どうだ?と言う顔をしていた。
そんな成田先生に僕は言葉をかける。
「成田先生。お言葉を返すようですが、もし成田先生の子供が死んだときに、成田先生はそのことを知らされずにいても大丈夫なのですか?死んで帰ってこないから知らされずにおいた方が本人のためになる、と言うような話で本当に納得できるのですか?僕はそんなこととうてい納得できません。だから僕は波田(はた)さんの両親に話します。以上です」
それに成田先生がカメレオンのように目をぐるぐる回した。どうやら僕の言葉にかなりの衝撃を受けているようだった。
そして、僕は礼をしてその場をあとにした。
「笹原!」
成田先生が何かを言っていたがそれを無視して僕は職員室を後にした。
それで職員室の扉を開けて締めて。廊下のほうを見るとそこには村田が立っていた。
村田が僕のほうへ兵士が戦地に行き、そして負傷して帰ってきたその妻のような目で僕を見つめてきた。
「何で?」
大粒のしずくが固い岩盤の上にひび割れたみたいなそんな音を村田はたてた。
「ねえ、何で、そんなことをするの?もう、みんな幸せじゃない。何でそんなことを。…………みんなの幸せを壊すことをするのよ」
そう言って、彼女は涙を広い唇に落としていた。彼女の眉毛も揺れていた。
「………………村田。一人、一人が幸せな生活だけの事ではいけないんだ。僕らはもっと、何か、天に気を配らないといけない。僕はそう思うんだ」
そうして僕は村田のそばを通り過ぎようとした。
「でも!」
村田はまだ抗議をしようとしていたが、ここら辺でちらほら先生が職員室に来たので、言いかけた台詞(せりふ)を飲み込み僕についてきた。
そして歩きながら僕に言ってくる。
「でも!笹原、これをしてもみんな幸せにはならない。誰も幸せな人が出ないよ。みんながいやな思いをするだけ、それでもするの!笹原!」
僕は立ち止まって村田を見る。村田は固い岩盤を貫き通せるような強い目をしていた。
僕は村田の目を見ていった。
「前にも話したとおりに僕らは幸せになるだけじゃあダメなんだ。もっと、人としてあるべき生き方をしないと。うまく、言えないけどお天道様に則った人として正しい行いをしないといけないんだ。だから、僕は言うよ。確かにこれは誰も幸せにはできないけど、やらないといけないんだ」
そう僕は言った。村田は唇をかみ締めてそこに立ちすくんでいた。僕はそれを見て、その場から離れた。
そして、今日の授業。成田先生の授業はいつもと変わらなかった。ホームルームも。そんな中で僕は黙って、授業を聞いた。いつもと変わらずに。
そして、授業が終わって僕はカバンに教科書を詰め込んで、立ち上がった。これからやることを果たすために僕はあそこに行かなければならない。
そう思って、教室から出ようとしているとフレ
イジャーがこちらをじっと見つめていた。
僕はいったい何でこちらを見つめているのだろう。と思って、フレイジャーのほうへ足を向けた。
フレイジャーはこっちが歩いてくるのを動せずにじっと見つめていた。
「いったい、何の用?フレイジャー」
「いえ…………」
フレイジャーは軽く目を見開かせ、こちらを見ていた。その表情からすると、驚いているのだろうか?
「どうしたんだ。フレイジャー?僕の顔に何かついているか?」
僕は改めてフレイジャーにそう聞いた。フレイジャーは言おうかどうかと迷っていたがやがて、こう言った。
「あなた、変わったわね」 そうフレイジャーはいった。僕は虚を突かれたような顔をした。
変わった、だって?
僕はそんなことはないのだけどな、と思ったが、フレイジャーはこちらの意向を無視してこう言ってきた。
「ええ、あなたは変わったわ。どこか、とは言えないけど、確実に変わったわ。何か、以前とは違う。何かをしようとする意志が確かにある。何があったの?」
しかし、僕はそれをいうわけには行かなかった。まだ、あの人達と話してそれで、そのことはあの人達が決めること。
僕はフレイジャーにこう言ってきびすを返した。
「それはあとでわかることになるよ。じゃあ、僕は先に失礼する。フレイジャーがいうとおり、僕にやることがあるから」
そう言って僕はフレイジャーに背を向けた。フレイジャーが僕の背中をいつまでも見つめているような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます