第65話『分岐・1』

せやさかい・065

『分岐・1』 





 お見舞いに行った三日後、留美ちゃんは退院した。



 あくる日からは、いつものように登校して来て、クラスも部活も日常に戻り始めた。


 エアコンは土日を挟んでたので、月曜日にはしっかり直されてた。


 涼しくなると、文句いうもんもおらんようになった。勉強するもんは勉強に身が入り、勉強きらいなもんはスヤスヤと寝れるようになり、その中間のあたしは、板書だけはチャッチャとノートに書き写して、PSPでやるノベルゲームを考えてる。


 ノベルゲームは、RPGとかのゲームと違て、ややこしいバトルとかダンジョンとかがない。スキルを高めてテクニックに磨きをかけて、アビリティーとか装備に課金する必要もない。


 アクションRPGに馴染んでしもてたんで、最初は頼りなかった。


 ひたすら〇ボタン押して話を進めていくだけ。RPGのストーリーの部分だけを進めてるんと同じこと。


 そやけど、時々ある選択肢というか分岐。その選び方で、先の展開がコロッと変わる。親友になるはずやったのが敵同士になったり、恋人とうまくいったり、別れたり。


 ドラマの登場人物の運命を決めるのは、全てプレーヤーの手の中にある。なんや、神さまになったみたい。


 間違えたと思たら、前の分岐までもどってやり直す。なんや快感。テレビゲームでは寝落ちしてる間に死亡とか全滅とかになってしもて、ドッヒャーということになったけど、ノベルゲームやと、話が停まってるだけ。テレビゲームほど疲れることもない。ボタンの連打で指が引きつることもあれへん。


 ただ、一本読み切るのに時間がかかる。かかりすぎる。


 百時間は当たり前で、全ての選択肢をやって、ストーリーやらCGを回収するのにはラノベの数倍の時間がかかる。アニメのワンクール十三回に比べると、百倍くらいやったりする。


 それに、やってみて分かったんやけど、やり始めると、最低ワンルートは制覇せんと、他のノベルゲームに手が出されへん。


 わたしは、どうも一本気な性格のよう。


 そやから、どれをやろうかと、PCで検索した資料をやら図書館の本を見て悩んでるわけ。




 昼休み、図書室に本を返しに行った。




 ノベルゲーの分からへん単語や言葉を、ググったら一発やねんけど、ちょっと本で調べようという気になったから。


 以前に観たジブリ作品の『耳をすませば』の雫のことが蘇って、あやかってみようという気持ちになったから。


 せやけど、雫みたいな馬力がないんで、五冊借りたうち、読んだのは一冊。それも半分ちょっとで挫折して、今日が返却日。


「わたしも一緒に行く」


 考えることは同じで、留美ちゃんも図書室で借りてた本があった。


 わたしとちゃうのんは、本は三冊。


 勝った! 


 いえいえ、留美ちゃんは三冊とも読み切ってた。


「ううん、入院してたから、一気に読み切ったの」


 と、わたしに気配りしてくれる。ええ子やなあ(´;ω;`)ウゥゥ


―― 一年一組の榊原留美、一年一組の榊原留美、至急職員室まで来なさい ――


 菅ちゃんの放送で呼び出されてしもた。


「あ、急いがなきゃ」


 図書室は四階、職員室は一階、留美ちゃんは瞬間悩んだ。


「いっといでえや、本は、預かって返しといたげるさかいに」


「え、そう……ごめん、終わったら直ぐにいくから」


 階段を上と下に分かれて、あたしは図書室を目指した。


 思えば、これが運命の分岐やった。


 いっしょに職員室行ってからというルートもあったし、二人急いで図書室に行くいう分岐もあった。暇そうに通りかかった田中に押し付けることもできた。いっそ、放課後にしよというルートもあった。


 しかし、あたしは、このルートを選んだ……。


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