第7話 遠足②

 夏帆わたしは、バハムートの目で術者を探す。

 しかし、中々見つからない。

 そして、刻一刻と迫ってくる死が徐々にではあるが夏帆わたしの心を侵していく。


「これ以上は、無理……バハムート戻って」


 主の命じられバハムートは消えた。

 かなり魔力をバハムートに持って行かれたけれど、やはり魔力が安定しない。


『このままだと……死んじゃう』


 少しずつ意識が遠のいて行く……心臓の鼓動が早くなり今にも破裂しそうな勢い。

 自分で呼吸が出来てるのかさえ分からない程に。


「もうだめ……ごめんね夏騎なつ……」


 夏帆わたしは、この後気を失った――。


 ☆☆☆


「――様、今宵の月は綺麗ですね」


「そうね、月明かりが桜と池を綺麗に写しているわね」


「はい」


「――、明日はよろしく頼むわね」


「はい、――様」


 ☆☆☆


 不思議な夢を見た。

 ちゃんと、聞き取れたわけじゃないけど……でも何処か懐かしい気持ちになったのはどうしてだろう。


『あの2人は一体誰だったのかな?』


 夏帆わたしは、もう死んでしまったのだろうか、そんな事を考えた。

 だけど、凄く悲しい気持ちになるわけでもなくて、ただただ、その事を受け入れている夏帆じぶんがいた。

 辺りを見渡しても何も無い、そんな世界夏帆わたしは1人でいる。

 ただ、暗闇が続くだけの世界。


 ☆☆☆


『くそ! 術者が見当たらねー! どこに隠れてやがる!』


 夏騎おれは、必死で術者を探した。

 だけど、全然見つからない……このままだと逃げられてしまう可能性もあった。

 そんな時、夏騎おれの携帯が鳴った。

 電話に出ると、秋斗あきとだった。


夏騎なつき、いつまでかかるんだ〜もうみんな食べ始めんぞー」


「そんな、カレー食ってる場合じゃねーんだよ!」


夏騎なつき、何かあったのか?!」


 夏騎おれは、秋斗あきとに事の詳細を説明した。

 秋斗あきとは、分かったと言って電話を切った。

 夏騎おれは、秋斗あきととの電話で違和感に気がついた。


『何で、秋斗あきとを含めたクラスの奴らや他のクラスの連中、それに先生達が気が付かないのはおかしすぎる、バハムートの黒炎で建物の半分は消し飛んでるんだぞ!』


「呪術結界、魔法陣、魔術師、呪術師、バハムート……そうか!」


 夏騎おれは、そもそも魔力感知が出来ない……とすると、そもそも夏騎おれ夏帆なほの連れてこられた場所自体が別の場所。

 だから、いくら爆発やらなんやらがあっても気が付かない。

 そう考えたら、全ての辻褄は合う。

 夏騎おれは、秋斗あきとに電話をした。


秋斗あきと! そっちに魔術師がいる!」


 夏騎おれは、分かった事を秋斗あきとに伝えた。


「なるほど、そういうことか! よし、後は任せろ! 夏騎なつき夏帆なほの所に!」


 しかし、一歩遅かった。

 空を飛んでいたはずのバハムートが消えていた。


「くそ! 悪い秋斗あきと後は頼んだ!」


 夏騎おれ夏帆なほの元に走った……。

 しかし、戻ってみると魔法陣の中心で倒れている夏帆なほの姿があった。

 夏騎おれは、慌てて夏帆なほの傍に寄った。


「弱いがまだ息はある……夏騎おれの力じゃ守ることも出来ないのかよ!」


「まったく……私の主をここまで護れないとは」


「誰だ!」


「まぁ良い……そこでっとしていなさい」


 声の主は、そう言うと夏帆なほを中心に出来ていた魔法陣が破壊された。


「魔法陣が消えた……」


「お主、感心している場合ではない!……まったく世話の焼ける奴ね!」


 夏帆なほの顔色が徐々に良くなっていった。


「これで、安定したようね」


「お前は一体……」


「いずれまた逢えるわ、大和 夏騎やまと なつき


 そう言って、声の主は消えた。

 結局、姿を見せずに消えてしまった。

 暫くして、夏騎おれの携帯が鳴った。

 電話に出ると秋斗あきとだった。


「もしもし」


夏騎なつきすまん! 術者を取り逃した」


「あ、あ〜」


「どうかしたのか?! まさか……」


「いや、夏帆なほは無事だ……すまん後でまた話す」


 そう言って、夏騎おれは電話を切った。

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