あくまで原住民です

 ちょおっと待った! 今のなし!


 子供のような矮躯に、醜悪な顔、長い鼻と耳、粗末な衣服。手には原始的な木の槍。肌なんて全身緑色だけど。


 いかにもっぽいけど! だけど! ゴブリンではない、絶対に!


 ゴブリンはあくまで架空の生物。現実世界に居るわけない。

 だって、ここは異世界とかじゃないんだからね。はっはー。


 というわけで、彼らはきっとここの原住民。

 こんな辺境の秘境に暮らす人々、見た目だって現代人とは多少は異なってくるはず。

 きっと、ここらへんではサバイバル生活が当たり前。狩りが主流の野性味に溢れた暮らしだろう。

 長い鼻や耳は、獲物を探しやすいため。緑の肌だって、自然の中での保護色として、独自に進化したものに違いない。

 そうそう、言ってみれば、これも個性。日本人と少々違うからといって、人を見た目で判断するのはよくないね。

 

 原住民の人たちは、槍を僕のほうに突きつけて、なんだか聞き慣れない言語で相談してるっぽい。


 獲った魚の中から、いきなり人が出てきたんじゃあ、びっくりするのも戸惑うのも、それはわかる。

 同じ立場なら、僕だってそうだったはずだから。

 ここは僕のほうに非があるだろう。なら、ここは友好的に! 笑顔は万国共通だよね!


 日本語は……無理かな。英語、通じるといいけど。


ナイストゥーミートゥーはじめまして


 親しみを込めた会心の笑顔だったけど、歯を剥き出しにして警戒された。何故。


 ……発音が悪かったかな?


「Nice to meet you」


 ちょっと照れながら、ネイティブっぽく言ってみた。


 なんか、威嚇された。ショック。


 まあ、英語で返事されても、僕の語学力じゃあ、それ以上の会話は難しいんだけどね!


「あ痛っ」


 ――くはなかったけど、反射的に声が出た。


 先頭にいた原住民から、いきなり槍を投げつけられていた。

 硬そうな木で作られた槍の先っぽは、念入りに削られて尖らせてあったけど、僕に刺さるほどではなかった。

 ちくっと未満の、ペン先でつんつんされる感じくらい?


 からんと僕の足元に落ちた槍を見て、投げた本人は投擲したポーズのままで固まっていた。

 表情は読みづらいけど、大きな『?』マークが浮かんでいるのはよくわかる。

 うん、そうなるよね。


 少し遅れて原住民の方々に動揺が走り、次々と槍が飛んできた。


「痛っ」


 ――くはない。


「痛っ」


 ――くはないけど、やっぱり、槍を投げつけられてる絵面がヤだ。


「あ痛っ!」


 今度は本当に痛かった。

 とはいえ、頭痛でだけどね。




 ―――――――――――――――

 レベル10


 体力 125

 魔力 0


 筋力 42  敏捷 41

 知性  6  器用 35

 ―――――――――――――――



 とりあえず、先頭の原住民のステータスを視てみた。何故、頭痛がしたのかは気にしない。


 体格からの見た目通り、だいたい小学校中学年くらいの身体能力かな。

 知性が妙に低い。うちの犬のポメニくんとほとんど変わらないのは、これ如何に。この教育環境(?)なら仕方ないのかもしれないけれど。


 僕のステータスと比べると、



 ―――――――――――――――

 レベル13


 体力 130738

 魔力 0


 筋力 66  敏捷 60

 知性 71  器用 53

 ―――――――――――――――



 うん、勝ってる。

 知性なんて10倍以上だね! 威張れることではないけれど。


 体力の回復も順調。なおも回復中。


 あ、すごい。気づいたら、筋力と敏捷と器用が1ずつ上がってる!

 これまでの努力が報われた?

 努力といっても、状況に流されるままだった気がするけど。


 ワニに齧られたり、強制ラフティングだったり、滝に落ちたり、巨大金魚に捕食ぱっくんちょされたり――

 あれ。半分は食べられかけてない? ってか、最後のは胃の中イートインされてたわけだし。

 ……精神衛生上、気にしないでおこう。そうしよう。


 あ。あとついでに、知性がまた1下がってる……切ない。

 いずれは知性派ステータスが脳筋ステータスになったりなんて、しないよね?


 いけないいけない。こんな状況なのに、ついつい癖で見入ってしまった。

 いつの間にやら、足元に落ちている槍も増えてるじゃないか。


 時間を置いて、原住民の方々も、落ち着きを取り戻したらしい。

 冷静とは程遠く、血気猛る方向にだけど。これってもしかして、殺気というやつではないでしょうか。


 ステータスでは完全に上だけど、それはあくまで個での話。

 10対1では分が悪いどころか悪すぎる。


 今度の相手は道具が使える。もし、ふん縛られでもしたら――考えないほうがいいかも。うん。健全な展開にはなりそうもない。


(プラン2! 見極めた結果、話が通じそうにありません!)


 僕は踵を返し、背を向けた。

 途端に投げ槍が追加されるが、指圧程度なので、無視する。


(プラン3に移行! 交渉無理! 脱兎の如く逃げるべし!)


 クラウチングスタート。僕は全力で駆け出した。

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