生きるって、食べるって大変そうです

 しろについてわかったこと。


 1.空飛べる。

 2.僕より強い。

 3.火を吐ける。


 とりあえず、この3つ。


 え? 3はなんだって?


 見ての通り、そのまんま。

 頭の上にしろを載せて歩いていたら、生臭いジャージに誘われたのか、うるさい虫に集られてたんだけど――突然、しろが炎を吐いて撃退していた。


 すごいね、火だよ。これで焚き火の火種には困らないよ。

 なんて、現実逃避はもうよくて。


 大道芸人だって火くらい吐ける。

 だったら、最近の動物だって、火のブレスくらい吐けるよね。なにせ野生なんだし。生存競争も熾烈なんだから。

 だから、ドラゴンと決め付けは早計だよ。

 そうだよね? そうしよう、うん。もう決めた。


 その程度の意表外はあったけれど、僕としろのとふたり旅(正確にはひとりと1匹旅)はおおむね順調。

 といっても周りは代わり映えしない木々ばっかりなので、楽しくもなんともないけどね。


 僕は食べかけだったポテチをしろと分けてぽりぽり齧りつつ、のんびり歩いていたんだけど。


 ポテチの袋に突っ込んだ指先になにも当たらない。

 覗いてみると、空だった。逆さまにして大口開けて待ち構えるが、滓がほんの少し降ってきただけ。


 今度はバッグの中を覗いてみる。

 学校帰りに夜食用にとコンビニで買っていたお菓子は尽きたようで、入っているのは、コンビニのロゴ入りポリ袋と、お菓子の空き袋だけだった。


 そりゃあ、朝からずっと食べていればなくなるよね。そもそも量はそんなになかったし。


「あれ? これからのご飯、どーしよう」


 ふと思い至り、ぽつりと呟く。


 周囲を見渡す。

 下。腐葉土混じりの地面。雑草や落ち葉などによって地肌は見えない。

 上。雲ひとつない快晴。

 前後左右。鬱蒼と茂る森の木々のみ。360度、自然の大パノラマ。


 ……食料、ないね。


「いや、ないねじゃ困るよ。お腹空くもん。食べないと死んじゃうよ? どーしよどーしよ!」


 ここにきて大パニック。

 どうして、こんな大事なこと忘れるかな、僕。


 頭を抱えて悶えるので、頭上のしろも何事かと困惑顔だ。


 待て待て、落ち着け。僕は自分に言い聞かせる。


 野生の獣たちだって生きてるんだ。食料がまったくないなんてことはありえない。

 自然なんて、野生の食料の宝庫のはず。木の実とかキノコとか、探せばいくらでもあるはずだ。


 木を見上げるが、視界の範囲に木の実は見えない。

 ならば地面と、僕は地面に這い蹲り、ごそごそ周囲を漁ってみた。

 木の根元なんか、よくキノコ辺りが生えていそうなイメージがある。


 探してみるとあるもので、キノコ類が結構な量見つかった。

 問題は、そう――食べられるのと食べられないのが見分けがつかない。

 ケバケバしいのが毒キノコというのが通説だけれど、ケバケバしくないのにも毒キノコはあるとも聞く。どうしろと。


 食べて確かめるのが手っ取り早そうだけど、怪我と同じく、体力に任せて安易に実行するのは危険すぎる。

 頭痛は普通に痛かった。なら、普通に腹を壊したり幻覚症状も起こりうるかもしれない。

 万一を思うと手が出ない。なにせ、ここには看病してくれる人もいないから。


 いっそ、泉まで戻ろうか。

 あそこに魚がいたのは、水と一緒に飲み込んで実証済だ。

 ただ、これまでの半日を無駄にするし、あそこから動けなくなってしまう。それは避けたい。


 ここは、先住民の知恵に縋ってみるしかないだろう。

 この森に暮らす獣たち――彼らがどうやって、日々の糧を得ているのか。


「――って、だから襲われたんでしょーが! しょせんは野生のけだものか! 弱肉強食か、こんちくしょー!」


 叫んでみるが埒が明かない。


 さすがに現代っ子の僕に、獣を襲って殺すなんて無理!

 まして捌くなんて以ての外! 内臓とか中身とか! 血を見て失神する自信がある!


 地団駄を踏む。


「キュイ?」


 僕のひとり芝居、というか奇行に、しろが心配そうに見つめてきた。


「あ、もしかして……」


 そうだった。今の僕は独りじゃない。

 旅の相棒のしろがいた。


 しろもまた、ここで生きてきた身、きっと独自に生きる術を持っているに違いない。


「しろ、わかるかな、食べ物。ほら、こう。こういうやつ。どこにあるか知らないかな?」


 懸命に食べるジェスチャーを繰り返してみる。


「? ……! キュイキュイ!」


 ややあって、ぱたぱた羽を動かして、しろが力強い返事をしてくれた。

 やっぱり、この仔は賢い。


 しろは羽ばたくと、僕の傍から離れて――少ししてから戻ってきた。

 嘴になにかを咥えている。


「キュイ!」


 さっき捨てたお菓子の袋だった。


 惜しい! 方向性は間違ってない!


「でも、これではなくてね」


 それはこっちに置いといて、のジェスチャーに、しろは頷いていた。

 自分でやっといてなんだけど、これがわかるってすごくない?


 今度こそ、理解してくれたようで、しろは手近の樹木の上に飛び立った。

 幹の辺りでごそごそしながら、やがてなにかを咥えて戻ってくる。


 ――虫だった。丸々と太った虫の幼虫。もぞもぞ動いて活きがいい。


「って無理ー! 無理だからー!」


 生死がかかった場面で、贅沢なのはわかるけど、無理なものは無理だった。

 さっきまでお菓子とか食べてたのに、お次がいきなり見ず知らずの幼虫なんて、思春期の一般中学生には不可能です。

 いきなりハードル何ダース増量する気だ。


 独りで喚いていると、しろが隣で口をもごもごさせていた。幼虫、どこいった。


「ごめんね、しろ。しばらく顔を舐めるのは止めておいてね。お願いだから」


 その後、そういったことを何度か繰り返し、しろが今度こそ理解してくれたようで、木の実や果実を持ってきてくれるようになった。


 こうなれば恥も外聞もない。食料事情はしろに頼ることにした。

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