やがては、アナタの物語を!
ごんのすけ
アナタの力を貸してください!
手に汗握るデスゲーム。
スカッと気持ちのいい転生無双。
どん底からの胸キュンが楽しい悪役令嬢。
忘れちゃならないのは、王道を突き進むファンタジー!
青春キラめく学園モノに、しっとり重厚な現代ドラマも!
そうやって楽しい小説がたくさん連載されているから、私は隙間時間を見つけては、カクヨムを開いてしまうのです。
「はー、アースさんの小説、最っ高! 特濃ファンタジーに、涙無しには見られない彼らの絆……! あなたの頭の中にある物語を、私にも見せてくれてありがとうございます……」
特に楽しいのは、寝る前に布団に包まれながら、追いかけている作品の更新があるかどうかを確認しているとき! 更新されていたらベッドをゴロゴロ転がって、生きている喜びを噛み締めるのさ!
今日は、なんと十作品もの小説が、更新されていた。幸せすぎてたまらない! と思いながら、私は、最新話を大事に大事に読んで、そして、今のハイテンションに至るというわけです。
「寝る前に良いもの見たぁ。これは、今晩の夢には期待できそう!」
と、私はルンルン気分でカクヨムを閉じようとしたのだが――。
「……ん? なんだこれ」
開いてあったマイページ。そこに、見覚えのないものがある――いや、見覚えはすごくあるんだけど、マイページにはあるはずのないものが……歩いていたもので、ついつい、手を止め首を傾げてしまった。
「これは……マスコットのトリ?」
丸っこいフォルムに、青いカギカッコの飾り。普段はとぼけてる表情は――なんだか、切羽詰まっているようだった。マスコットの鳥――私はトリと呼んでいる――は、こっちに手を振るように、羽根をばたばたさせている。
「あれ、マイページにトリが歩くギミックなんてあったっけ?」
不思議に思いながらトリをタップしたら――私の視界は、光の洪水に包まれた。
○ ○ ○
つんつん。つんつん。
同じリズムで、頭を突かれている。
「う……ん」
未だに先ほどの光でクラクラしている頭をやっと起こし、私は周囲を見回した。
私の部屋はクリーム色の壁紙だが、ここは、なんというか――真っ白だ。それも、壁紙とかの白ではない。
なんというか、どこまでも続いていそうな白で……というか――。
「……ここ、どこ……?」
私の震え声に重なるように、聞き取りやすくて可愛い声が響く。
「あ、やっと起きましたね!」
白い部屋? の中に響く声の主を探そうと振り返り、そして、私はビクッと跳ねてしまった。
トリだ。トリがいる。トリが私を見上げている。
鳥ではない。トリだ。丸っこいフォルムに、青いカギカッコの飾りを付けた、トリだ。
「あ、え……に、人形……?」
違う! というようにトリが胸を張る。
動いた……! と目を丸くする私の前で、トリが誰かにひょいっと抱え上げられる。この人が先ほどの可愛い声の主か、とその人を見上げて、私は今度は金縛りにあったように動けなくなった。
「初めまして!」
可愛らしい笑顔。アッシュゴールドの髪に、金色の瞳。
「私は、お手伝いAIの――」
緑を基調とした服。
「リンドバーグです!」
私も何度も目にした、カクヨム公式キャラクター……リンドバーグさんが、そこにいた。質量を持って、そこにいた。
「え? ……え?」
「バーグさん、とお呼びください!」
「あの、え、なんで、え?」
「ああ、混乱しているご様子。無理もないですね。でも安心して。私が説明します!」
差し出されるままに手を取って、私は何とか立ち上がる。触れたバーグさんの手はほんのり温かかった。
バーグさんは私と手を繋いだまま、右手に抱えていたトリを空へと放した。トリは小さな翼でぱたぱた羽ばたいて、白の向こうへと飛んで行った。それを見届けたバーグさんは、何もない空間に右手をかざす。すると、どこからともなく光が集まって、たくさんのモニターへと姿を変えた。
「アナタは適性があったので、ここ、カクヨム電子海へと連れてこられました」
「て、適性? 連れてこられた? その、カクヨム電子海、ってところに? 連れてこられたって……誰に、ですか?」
「先ほどのフクロウに、です」
「あ、あのトリに……。あ、あの、適性って……?」
「適正というのはですね……アナタは、ここに来る前、カクヨムで小説を書いておられたのでしょう? 作者様。そこから導き出せませんか?」
バーグさんの言葉に、私は目をぱちくりさせた。
「あの……私、書く方は全くで……ここに来る前は、小説を読んでいたんですけど……」
「え? ……という事はつまり――うん、問題はありませんね」
「あの……?」
「適性の説明、でしたね? 読者様」
「うん、はい、そうです! 適性って……」
「これは、見てもらった方が早いですね。読者様、目の前のモニターをご覧ください」
言われるがままに目を向ければ、そこには先ほどバーグさんが出現させたモニターたちがある。四角いそれには何の映像も写されていなかったが、バーグさんの指鳴らしとともに、様々な光景がパッとモニターに浮かび上がった。
「うわぁ、すご……え!? ちょっと待ってくださ……こ、これ!」
「読者様が見たことのある――もとい、読んだことのある光景がありましたか?」
「はい! はい……! うわあ、これは異世界に行った時のシーン……わ、こっちは自動車に乗って村に行くシーン……! バーグさんっ! なんですかこれ、なんですかこれっ!?」
「これは、物語を映し出すモニターです! ここにあるのは、作者様がいらっしゃる物語ですね」
バーグさんの明るい声に、私はモニターに張り付いて「へぇー、へぇー」というのをやめて、首を傾げた。振り返ってバーグさんを見れば、彼女は明るい声に似あう素敵な笑顔で私を見ていた。
「作者のいる物語?」
物語に作者は必須でしょう、と問いかけると、バーグさんはフルフルと首を小さく横に振る。
「作者のいない物語もあるのですよ。――その物語が崩壊の危機に陥っているので、私たちは外の世界へとSOSを出したのです」
こちらへ、と案内してくれるバーグさん曰く。
物語には二種類あります。
一つは、作者のいる物語。そしてもう一つは、そうでない物語。
このそうでない物語というのは、私たちの住む世界とは異なる世界――異世界で本当に起こった、または起こっている出来事がこのカクヨム電子海に影のように映りこみ、そして小説となってサイトに掲載されたものを言うんです。
――という事らしい。
にわかには信じられないが、頬をつねっても目が覚める気配が無かったので、私はこれを信じることにした。
そして、私が呼ばれた理由は――いま、私の目の前に浮かんだモニターと、机に置かれた原稿用紙なのだ。
「……本当に私なんかで……?」
「はい! あのトリさんは、これが出来る方にしか見えません! だから、自信をもって筆を執り、どうぞ、この物語――自然発生した『カタリィ・ノヴェルの物語』の修復に着手してください!」
――そう。この物語……私が最新話までしっかり追っている物語。自然発生したこの小説、つまり、主人公のカタリィくんがいる世界は――バグに侵されてしまったようなのだ。
無事なのは、私が読んだ最新話まで。その先は世界が混ざり、世界観が混ざり、登場人物が混ざり――と、しっちゃかめっちゃかになってしまっているらしい。
そこからバグを抜いて、世界を正しい形にしろ、というのが私が呼ばれた理由なのだが……。
「――あ、読者様。その表現はおかしいですね。大きな矛盾が生まれてしまいます」
「あ、は、はい」
「ああ、そこもおかしいです。それではバグの方の設定が生きることになってしまいますよ?」
「うう……」
「ほら、頑張ってください! アナタなら何とかできますよ!」
「……ねえ、バーグさん。正直ね、人選ミスだと思うんですが……私、小説なんて書いたこと無いんですよ、本当に」
可愛い声で繰り出されるスパルタに、私は泣きそうになりながらバーグさんを見上げた。が、バーグさんはただただニコニコしているだけだ。言っても分かってもらえない……と溜め息を吐きそうになったところで、バーグさんがゆっくり口を開いた。
「大丈夫です、時間はいくらでもありますから! 無限の時間を使って、アナタを立派な作者様にして見せますから、ご安心を!」
にこやかな声。微笑み。
私は彼女の設定を思い出し――ちょっとだけ、否、盛大に泣きたくなったのである。
○ ○ ○
なんやかんやで全てが終わり現実世界に戻れた私が、物語を綴り始めるのは――また、別のお話。
やがては、アナタの物語を! ごんのすけ @gonnosuke0630
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