1276. 視察の裏で暗躍?

 レライエとシトリーは一度魔王城へ戻り、そこから改めて転移で飛ばしてもらった。目的地は迷いの緑の先にある幻獣保護地域である。ベールの領地になっており、多くの幻獣や神獣が住んでいた。ペガサスの一団と交流する彼女らの元へ、アムドゥスキアスが追いつくのは半日後である。


 その頃、ラミアの村から解放されたルーサルカとルーシアは、小川で休憩中だった。ぐったりと脱力した2人の髪はやたら丁寧に編み込まれている。ルーサルカは焦げ茶の髪を大量の三つ編みとビーズで飾られ、ルーシアの水色の髪も複雑に編んでリボンが絡められた状態だ。小川の冷えた水に足を浸しながら、2人は互いを見て噴き出した。


「やだ、化粧もしたの?」


「させられたのよ。シアこそ肌にペイントされてるわ」


「あら本当? 気づかなかった」


 首の辺りを弄られたのは気づいていたが、絵を描かれたのは知らなかった。ルーシアが驚いて振り返るが、首から肩に描かれた絵は半分も見えない。


「待ってて、ほら」


 鏡を収納から取り出したルーサルカが映したのは、美しい花に蝶々が戯れる絵だった。とても綺麗だ。ラミアは絵が得意な者も多く、化粧や肖像画の分野で他種族から依頼を受けることもある。


「綺麗ね、しばらく残しておこうかしら」


「そうだな、リリス様に見せると私もと欲しがるから……」


 その前に消そう。側近ゆえに彼女の性格は理解している。ラミアの里へ出向きたいと魔王ルシファーに強請るだろう。それをまた何でも叶えようとする魔王もどうかと思うけれど。愛し合って幸せな2人の姿に何も言えなくなるのがオチだった。


「そうね、危険は避けましょう」


 美しい絵だから見せたいけれど、騒動の元になることは望まない。肩を竦めて笑い合ったあと、少しの休憩を……と寝転がった。木漏れ日が輝く空を見上げ、ゆっくり深呼吸する。明日の朝までに次のエルフの里にたどり着けばいい。


 ぽっかり空いた午後の予定を休憩に当てるのも悪くないわね。ルーシアは欠伸を手で隠しながら、目を閉じた。眠りに落ちる彼女の隣で、ルーサルカも深呼吸する。エルフの里と魔獣の森を見たら視察も終わりだった。




 順調に視察を消化する大公女を見守る大公達は、押し寄せる仕事に忙殺されていた。昼間は大公女を陰から見守り、その合間に書類を処理する。転送で書類を届けたり、収納へ仕舞うと署名の文字が魔力に反応して消えてしまうので、要注意だった。


 普段は持ち歩かないケースに入れて魔力を遮断した状態で、常に手に持っていなくてはならない。魔法で支援する際も、ケースを二重にしてから使用する念の入れようだった。遂には気疲れと苛立ちが募り、ベールがキレる。


「労働条件の改善を求めましょう」


「よい判断ですね」


 賛同したアスタロトと一緒にルキフェルやベルゼビュートからも署名を取り付け、分厚い申請書類をルシファーの机に置く。しかし魔王ルシファーは視察を楽しんでおり、海辺で優雅に過ごしていた。帰ってきて決裁をしてもらわなければならない。


「ちょっと拉致してきます」


「待ってください。それなら良い方法が……」


 普段は冷静沈着が売りの側近が暴走し始めたことも知らず、ルシファーはのんびりと湖で休暇のようなひと時を過ごしていた。以前に人族の都を吹き飛ばした後の窪地に湧き出た水は、どこかで海と繋がったらしい。トビウオと呼ばれる空を跳ねる魚がきらきらと光を弾き、時折人の顔を目掛けて攻撃してくる。


「目が光るから襲われるのか?」


 銀の瞳のルシファーも、金の瞳のリリスも、同様に狙われたがヤンは無事だ。その差を訝しみながら、飛んできた魚を弾いて串刺しにしていく。丸焼きにされたトビウオは、魔王ご一行様に美味しく頂かれました。

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