「……ただいま」

「珍しいねお姉ちゃん、いつももっと遅いのに」

「なんとなく、今日は疲れちゃって、ご飯まで横になってよっかなって、ね」

「ふーん、お姉ちゃんらしいね」


そう言って妹はきゃらきゃらと笑う。

まるでなにもなかったかのように。


「あ、お風呂入れてあるけど、お姉ちゃん入る?」

「あー……いいや、ご飯のあとで。いまは眠い」

「そっ。わかった」


そう言うと妹はこちらに背を向けて、居間へと向かう。

わたしは後ろ手に鍵をかけて、自室へ。



部屋の電気をつけ、扉を閉めると、

かくん、と膝の力が抜けた。


そのまま扉を背に、床に座り込んでしまう。



いつもの、妹だった。


その事実が、安堵と嫌悪をくすぐる。


自分が一度帰ってきたことを知らないのだという安堵と、

あんなことをしたあとでもいつものように振る舞えるのかという、嫌悪。



ドロドロ。

ドロドロ。

ドロドロ。



胸の中で何かが渦巻く。


吐き出したいような、叫びだしたいような、何か。



妹が。

あの妹が、他の少女と身体を重ねている。


なぜ。なぜわたしはそのことに、

こんなに感情を惑わされているのだろう。


別に妹が誰と恋をしようと自由だ。

中学2年生だから肉体関係を持つのは早い気がする。

けれど、それだって別に妹の自由だ。

そこに嫌悪を持つ理由はない。


じゃあ、なんなのだろう、この感情は。

なぜわたしはこうも驚き、逃げだし、

立っていることもできずに、

ドロドロドロとした感情を持っているのだろう。


ぐるぐると思考が頭の中に産まれては消えていく。


なにも分からない。

なにも分かりたくない。



別にいいじゃないか。と声が聞こえる。

優秀な妹がなにをしていてもいいじゃないか。

それはわたしの人生じゃない。

すべてを持っていて、手に入れる努力をしている妹が。

その妹が手にしたものだろう。

なにも問題はないじゃないか。



気持ち悪い。そう声が聞こえる。

不潔だ。淫らだ。あり得ない。

妹もその相手の少女もまだ幼い。

まして昨日とは相手が違うのだ。

乱れている。信じられない。気持ち悪い。



色んな声が聞こえる。

それはぜんぶわたしの声だ。

わたしの声がわたしの声で、

いろいろなことを言ってくる。


わたしには分からない。

なにも分からない。

ただ膝を抱えて耳をふさいで、

扉の前でうずくまることしかできない。



ドロドロ。

ドロドロ。

ドロドロ。



なにかが、胸の中で渦巻いていく。

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