第30話 もう良いんだよ

母の日のプレゼントを考えてみた。

だけど簡単に言っちまうと、母の日のプレゼントは多分.....同じ物になってしまう。

その為に俺は目の前の夏帆の部屋のドアを見ていた。

どういう事を考えているのかと言えば。


アイデアが欲しいから立っている。

つまり、買い物に付き合って欲しいという意味だ。

夏帆はそれなりにセンスが良いから。


「.....」


コンコンと優しくドアをノックをする。

すると夏帆が直ぐに、はい、と返事をした。

俺は少しだけ気持ちを呼吸して整えながら、俺だ、と言う。


すると夏帆が驚愕しながら直ぐにドアを蹴り破る勢いで出て来た。

俺はそんな夏帆に少しだけ笑みを浮かべる。

それから夏帆の頭に手を添えた。


それはまるで、猫を撫でる様に、だ。

夏帆が突然の行為に言葉に詰まりながらおどおどする。


「ど、どうしたの.....?」


「元気か」


「.....う、うん。元気だけど.....どうしたの???」


何をしに来たのか、という感じの顔をしている。

それはそうだろうな。

あの事件以降、初めて夏帆の部屋にやって来たのもある。

有り得なく思っているのだろうな。


俺は俺よりも身長が低い夏帆を見つめる。

夏帆はモジモジして赤面だった。


「.....すまん夏帆。要件はな.....俺に付き合ってほしいんだが」


「.....ふぇ!?」


「あ、と。勘違いはしないでくれよ。告白じゃ無いから」


「あ、う、うん!そうだよね!当たり前だよね!あ、でも.....って付き合うってどういう事?」


簡単に言えば、俺は母の日のプレゼントを考えたい。

その様に告げると目を丸くした、夏帆。

母の日のプレゼントを考えるのが苦手なのだ俺は。

だから.....最高のプレゼントを考えてしたい。


そう、俺は。

父さんの身代りなのだから。

だから.....。


「.....俺は.....父さんの代わりだから.....」


「.....お兄ちゃん」


「.....な、なんだ?」


俺は目を見開きながら聞く。

すると、夏帆が困惑した様にゆっくり話した。

なんでこんな感じに困惑しているのだ?


俺は?を浮かべながら首を傾げる。

すると夏帆は俺の頬を掴んで来てそして見つめてきた。


「.....(お兄ちゃん)が母の日にプレゼント企画をやったらもっと喜ぶと思う。五朗さんは.....今の事を望んだの?ずっと聞きたかったけど」


「当たり前だろ、夏帆」


「.....違うと思うよ?今だけはお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃ無い。今だけは言うよ。お兄ちゃん。五朗さんをもう.....休ませてあげた方が良いよ。絶対に」


夏帆は言っている。

何を言っているのだ。

休ませる?


馬鹿な親父は元から.....休んでいるぞ。

だから休ませてあげた方がってそれはおかしいんだが。

言葉が間違っている。


「.....夏帆。俺は俺だ。そしてそれはおかしいぞ言葉が」


「.....それはお兄ちゃん貴方がおかしいんだよ。お兄ちゃん。いつまで五朗さんの....身代わりで居るの?もう.....いいんじゃ無い?償いは.....もう十分だよ.....」


「.....馬鹿な事を。俺は一生償うんだ。だから.....な?」


「.....」


悲しげな顔をする。

俺は?を浮かべながら見つめる。

どうなっているのだ。


贖罪は当たり前だろう。


俺が父さんを殺した。

全て俺が悪い。

だから俺は.....償う必要が有る。

生涯、だ。


「.....良いよ。買い物、付き合ってあげる」


「.....ああ。マジか。ありが.....」


「.....でもその代わり、今回は(お兄ちゃん)で渡して。お母さんの日に」


俺に指を立てて、分かった?と言う夏帆。

へ?と俺は思っていると。

すると、夏帆が俺を抱き締めて来た。

優しく、発泡スチロールが壊れない様にする様に、だ。


「.....お兄ちゃん。もう良いんだよ。五朗さんは.....お兄ちゃんのその姿に泣いていると思うよ」


「.....泣く?」


「.....悲しくて泣いているよ。きっと。それぐらいは流石の私も分かるよ.....」


俺から離れて、夏帆は泣き笑いを見せた。

そんな姿に俺は.....少しだけ考える。

だけど.....答えが出ず、結局、その日は過ぎ去り。


まるで時計の針を弄った様にあっという間に日付が経ち。

その週の日曜日、買い物(仮)の状態になった。

当日まで俺は考えたが.....。


俺は.....馬鹿なのだろうか?

もう父親の事を.....考えなくても良いのか?

そんな訳にはいかないだろう。

俺は殺人を犯したんだ。


だったら俺は.....絶対に許せない。

俺を許してはいけない筈だ。

全て.....許したらいけないのだ。


「お待たせ」


「おう」


自宅にて俺はシャツに羽織り、ジーパンという感じで待っていると。

背後から声がした。

振り返るとそこには夏帆が可愛らしいカジュアルな服装で立っている。

服の事についてはよく分からないが、キリッとしている。


しかし人間、雰囲気って服で変わるもんなんだな。

俺はその様に思いながら夏帆を見つめる。

夏帆は俺を笑顔で見た。


「.....じゃあ行こうか。お兄ちゃん」


「.....そうだな」


「.....」


夏帆は何か複雑な顔だった。

まるでテスト前になって、難しい数式を前に集中を打ち込んでいる様な。

俺はその顔を見つめながら複雑な感じになった。


「.....夏帆。まだ悩んでいるのか」


「.....そうだね」


「.....大丈夫だってばよ?ハッハッハ」


「ごめんね、大丈夫じゃ無いよ。お兄ちゃん。どれだけお兄ちゃんが.....悩んでいるのか想像するだけで胸が痛いから.....解き放ちたい。お兄ちゃんをその泥沼から」


そして、夏帆は俺の手を握った。

まるで豆腐でも握る様に優しく、だ。

俺はその握った手を握り返す。

少し恥ずいが.....。


.....俺はどうしたら良いのだ?

俺は一体.....。

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