第26話 転校

混乱も混乱だと思う。

だって私がお兄ちゃんの学校に転学って.....。

まるで天が落ちてきた様な感覚。


モーセが水を割った様な感覚でも有る。

つまり、異次元の感覚と言いたい。


「初めまして。佐賀夏帆と言います。宜しくお願いします」


その混乱の中、ようやっと準備が整い私は転学した。

目の前を見ると、ウジどもがわんさか私語をする。

私の美貌に惚れた様に、だ。

蝿が卵を産んで湧いた様な奴ら。


私の全てはお兄ちゃんの為に有るのだ。

お前らの様な奴らに好かれる為じゃ無い。

私は少し気持ち悪がりながら見つめる。


馬鹿な奴らと思いながらも、だ。

結局はこのクラスでも浮く。

だったら私は初めっから嫌われて置くべきだ。


「という事で、今日から佐賀が仲間入りする。お前ら、仲良くしてやれ」


その一言を聞いてから私は椅子に座る。

それからお兄ちゃんの為の作戦を練っていたその時だ。

横の女が私に話し掛けてきた。


「.....初めまして。佐賀さん」


「.....はい」


取り敢えずは笑顔で返してみた。

その女はポニテのソバカスの有る少女。

美少女という訳じゃ無いけど、顔立ちは整っている。

なんだコイツは?


「.....私、クラス委員の三島かなほって言います。宜しくね」


「.....」


話している中で、この女を利用しようかと思った。

簡単に言えば使い捨ての雑巾の様に。

その為に悪い笑みが溢れる。


気が付いてか気が付いて無いのか。

三島はそのまま笑顔で私に聞いてきた。


「この時期に転学って.....何か有ったの?もし何か有っても力になるからね」


何とも下らない事を言うな、この女。

力になるとか笑わせる。

地獄の果てまで地獄の門でも破って付いて来るのか?

出来る訳が無いだろう。


余りふざけた事を抜かすな。

私はウザく思いながら、表面だけニコニコしながら。

三島の利用計画を立てた。


「私ね.....貴方にとても興味が有るんだ。目。貴方の目を見ていると.....何か見えて来るから」


「え!?凄い!占い師なの?」


「違うよ。なんて言うかね.....その.....貴方は凄い人生を歩んで来たんだなって昔から分かるの。大切なモノを失ったりした事がね」


何を自慢げに。

ますます馬鹿かと思った。

苦笑するしか無い。

そんな事があるモノか。


「はいはい。取り敢えずホームルーム始めて良いか?」


今まで担任は見ているだけだったが、話し出した。

私は三島から目線を外して前を見る。

そして居ると三島が、またね、と言った。


「.....」


私は三島を横目に。

前を見つめた。

お兄ちゃんの為にコイツはどれだけ役に立つのか。

それなりに役に立ってもらわないと困るけど。



「佐賀さん!どうしてこの時期に転学を!?」


「なんでこの学校!?趣味は!?」


「部活とかは!?」


鬱陶しいな。

私はその様に思いながら手を振って笑顔で答える。

本当にウザい生ゴミどもめ。


私はそんな考えを浮かべる。

処分に困る量だ。


「はいはい。佐賀さんが困っているから」


突然、像の様に目の前に三島が立って。

そしてその周り奴らを散らした。

私は三島のその様子を見ながら三島に言う。


「.....ゴメン、ちょっとトイレ行って来るね」


「分かった。その間にクラスメイト達を何とかしておくね。.....ほら!」


皆んなに怒りながら、三島は動く。

私はその様子を見ながら、馬鹿らしいと思いつつ。

教室から外へ出た。


だが、トイレでは無い。

簡単に言えば、お兄ちゃんに会いに行くのだ。

蛆虫どもが湧いている教室は不愉快極まりない。


お兄ちゃんを見て、浄化されよう。

その様に思ったのだ。

私は坂を駈け下る乙女の様に走る。

お兄ちゃん。


私のお兄ちゃん.....お兄ちゃんが居るから.....生きていける。

教室に居なかったらGPSで探そう。


「.....お兄ちゃん.....」


そして教室に着く。

教室内を見渡すと、お兄ちゃんが居た。

早速私は手を振る。


「お兄ちゃん!」


「.....おう。.....どうした.....」


クラスメイトの蛆虫共が驚愕している。

私はそんな奴らを見ながら多少小馬鹿にしつつ。

寄って来るお兄ちゃんを見た。


「.....どうした?」


「.....いや。クラスに馴染んでいるって報告」


「.....そいつは.....良かったな.....」


お兄ちゃんは目を逸らしている。

私は少し悲しく思いながらも、決意は出た。

どういう決意かというと私は.....。


「.....お兄ちゃん。頑張るからね」


「.....?」


お兄ちゃんは首を傾げる。

でもそれで良いんだ。


そう。

今は全てを頑張らないといけないと思った。

お兄ちゃんの為に、だ。

これが答えなのだろうと思う。


でも私は馴染めるのだろうか。

全てが.....灰色に見える世界で、だ。

全てを灰色にしか見えない世界に。

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