第48話 少年の死
年も差し迫った年末。
クラスの友人達と他校の女子高生と共にケーキバイキングに行った帰りだったらしい。
そこへ小学生の姉妹が、手をつないで横断歩道を渡ろうとして、途中でどちらかが転んで泣いていたと。
信号が変わり、左折してきたトラックが入ってきた。
とっさに
じゃあね、気をつけて帰りなよ、と言って格好良く去ろうとした時に、グレーチングに足を滑らせて側溝に落ちてしたたかに頭を打ったらしいと。
頭をぱっくり割って血だらけの
救急車が駆けつけた時までは、
・・・あの、いつ退院できるんですか?
ほら、この子、この間、心臓の手術したじゃないですか。
成功したから、もう大丈夫だって言われたから。
年明け、追試なんですよ。
それ受けないと、三年生になれないんです。
それから受験ですよね。
大学入って、体鍛えて、卒業したら、警察官になりたいって言ってたから。
退院って、いつ頃でしょうか。
そんなことを話していたような気がする。
今思えば、何バカな事言ってたんだろう。
葬儀の今だって、納得できない。
高久の家は神道だったらしく、玉串を捧げて、遺族に頭を下げて、待合室に戻った。
初めて見た
クラスメイト達が、
文化祭で出会った女子生徒が三人、目立たない場所に座っていた。
声をかけようかと思ったが、出来なかった。
そのまま火葬場に向かう車を見送る時、
斎場の職員と何か話していた神主が、
彼は近くに小さな中庭が見える控え室があってそこは静かだから、とだけ告げた。
朝方降った雪が、うっすら中庭に積もっていた。
外の空気が吸いたかった。
扉を開けて中庭に出ると、小さな池の水面が揺れて魚の影が見えた。
こんな小さい池にも魚がいるのか。
水は冷たいだろうに。
しばらく、ぼうっと池を眺めていたようだ。
ぽん、と肩を叩かれた。
顔を上げると、見知った顔が目の前にあった。
磨き上げられた鎧をまとい、《毘》と書いてある旗を持っている。
「・・・・なんだ、あんたか・・・触んないでよ」
「いや、なんだ、ではなくな・・・」
ばつの悪そうな顔をしている。
こうなることを知っていたのだ。
「・・・何しに来たのよ。別にもう用事ないんだけど。死んじゃったじゃない。さっきまでなら体あったのに。もう焼いてる頃よ。生き返らせてくれないならもう来ないでよ」
恨み言と一緒に涙がどんどん出てくる。
池の魚がぽっかりと顔を出した。
心配そうにこちらをじっと伺っている。
「なんで体戻したの?あのままで良かったじゃない・・・・」
天下の
手術失敗したら死ぬのは自分。
成功したとしても、追試の前にケーキバイキングなんかに自分なら行かなかった。
もし行って、事故にあったとしても、死ぬのは自分で済んだはずだ。
「これは、少年と話してあったことだからな。いくつかの選択肢の中から、あの子が選んだ一番いい結果だ。もともと用意された未来は、手術は失敗するはずだった。死ぬのは、もちろんそなた。少年はその後、そなたとして生きる、それでも良かった。・・・。だが、手術に失敗したら、執刀医の責任が問われるであろう?それは避けたいと言うのでな。まずそこを改編して。あとはそなたが生きていけるようにした」
周囲の人間の気持ちを締め出して、
「バッカじゃないの・・・・」
ひんひん泣いていると、風がふわりと頬をかすめた。
パタパタと旗が揺れた。
「・・・ああ。時間だ。これでもう会うこともあるまい。・・・まあいずれ、そなたが死ぬ時にでも、ちょっと来てみような」
「もう来なくていい。どうせ何もしてくんないんだから。ほんと男って余計なことしかしないくせに役立たず」
「・・・うわ、基本女って冷たいよな・・・」
どこかで聞いたような。
「それから。・・・あの少年が健気に一人で仕事を済ますようなタマかいや。周囲を巻き込むタイプじゃろがい・・・儂もまだ一仕事あるでな。そなたも、息災でな、
ぎゅっと両手で握手されて、ぶんぶん振られた。
ちゃぷ、と魚が一度跳ねて。
また雪が降り出していた。
「・・・
何かと心配してくれる
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