第6話 逆流のロコモコ
プールサイドの店ではハワイ風の土産物や、食べ物が売っている。
学生たちは、食事前だというのに、陽気なハワイアンミュージックの中、各々がハンバーガーを食べたり、パイナップルをくりぬいたジュースをすすったりしていた。
「泳ぐと腹減るよなー」
「うっめー!このロコモコ丼!も一個食おう。・・・つーか、これって、ハンバーグ丼と何が違うんだろな?」
「バッカ、このハンバーグにロコモ
「・・・だよなあ」
と、高橋が顔を上げてから唖然とした。
彼女は当然のように同じテーブルの椅子に座る。
「おっ。食ってんなっ。うまそーだよな、このハンバーグ丼!」
「・・・キンタ・・・じゃない・・・金沢、先生・・・?」
「うおっ、超うめー、このハンバーグ!!米に合うなあー、オイ!・・・なんだよー。こっち見んじゃねえーよー。スケベ!」
「・・・いや・・・なんか。・・・雰囲気違うなあと思って・・・」
「・・・えっ?ああ、そう?・・・そうなんだよ!・・・アタシィ、持ってきてた水着ダサかったから、さっきそこの売店で買ったのヨッ」
金沢のアホ、思った通り、地味な競泳用の水着だった。
せっかくのハワイ(
だから、速攻で自分好みの水着を買ったのだ。
特に強調したいのは、胸とビキニライン。
「んー、キミ達にわかるかなっ?この食い込みがたまんないヨネッ」
「ですよねー。うっわー写メ撮っていいですかっ?」
「んー、撮れ撮れー。動画で撮って後で使えー」
「あ、それはいいっス」
いい気になってポーズを取っていたら、後ろから布を投げつけられた。
「・・セ・・・センセイ・・・そんなことしたら、また
「・・・あ、
「やっぱり、頭打ったんじゃないんですか~・・・それ、差し上げますよ~」
売店でなるだけまともなサーフパンツを探していると、とんでもない水着を着て横スキップでプールへ向かう自分の姿を見つけたのだ。
慌てて一番大判の地味なパレオも買い求めた。
「・・・なんかボク、やっぱり風邪ひいたみたいでー・・・」
「あー、だからパーカー着たんだあー。・・・あっれー、なんか水着ダサくない?」
二人はバカバカしくも小芝居を続けた。
「・・・沼に落ちたら、コイツら仲良くなったな」
今までは触らぬ神に祟りなしで、
有り体に言えば、Aクラスの生徒には他の教師たちもそれほど積極的ではない。
だから担任とはいえ金沢がこうして自分たちの方に寄ってくる、あまつさえこんな水着を着て現れるというのが、あり得ない話であった。
やはり、頭を打ったせいもあるのだろうか。
「よしっ。ロコモコ丼も食ったし腹いっぱいっ。ショーまでまだ時間あるなっ。あれ行こうっ!」
その後、三時間半。
ほかの友人たちがプールサイドでロコモコ丼を逆流させて吐いているというのに、一人ではしゃいで堪能していた。
「・・・す、すげぇ・・・。キンタマ、実は絶叫マシーンとか好きなタイプか・・・」
「あー・・・だめだ俺、きもちわりーー・・・」
「いや、食い過ぎたな・・・」
「ほらそこー。プールでゲロ吐かなーい!」
スタッフにそう促されて、何人かはトイレへ駆け込んでいった。
浮き輪を手に嬉々としてプールから上がって来た
一気に飲み干すと
「あー、おもしれえなあー」
「・・・アンタ、こういうの好きなの?」
「ん。いやいや、初めて。ほら、心臓に悪いっつってチャリも禁止だったから。いやー、楽しいわー。テレビで見て、いつかこういうのやりたかったんだよねえ。なあなあっ、すっげえでっかいウォータースライダーって、あっちかな?」
心底嬉しそうに
「ジェットコースターとか、スノボとかさ。みんなすげーじゃん。俺なんてチビの頃から運動会も見学か欠席だし、プールだって、庭でビニールプールが精一杯でさあ。ビニールプールにチワワとか金魚を入れて一緒に遊んでたくらいで、つまんねーの」
子供の年齢が小さければ小さいほど、見つかる疾患は深刻だ。
幼年期からの心臓疾患。
手術を経ても完治しないというのは、おそらく彼が言うほど楽観的なものではないのだろう。
「・・・こんな三十路のオバちゃんの体で申し訳ないけど。私、高校の時、テニス部だったから、まだ少し走ったりも行けると思うから。機会があったら、走っていいけど・・・」
ぶぶっと高久が吹き出した。
「
こんなに快活に笑う生徒だったのだろうか。
いや、自分ですらこんなに破顔一笑という感じで笑ったことはないだろう。
「ここ、でっかい風呂あんだろ。気にしないで皆とでっかい風呂入れんの、いいな。プールも入れたし。あんがとな」
変なお礼だと思った。
「・・・・私に言われてもねえ」
「だよな。誰だ。あれだな、神様だよな、やっぱあれ」
やっぱり、そうなのか。
夢でも見たのかと思ったのだが・・・。
ひとりに無理な仕事を山のように押し付けるから、どこかでひずみがでて、仕事のスペック下がってどこかで凡ミスするのだ・・・。
「あ、でも
「・・・アンタ、何サービスする気よ・・・」
どうやら肩揉みとか、お礼の歌を歌うとかではなさそうだ。
「・・・あの、それ私の体だってこと、忘れないでよ。頼むから・・・」
中身はやはりバカで下品で獣の男子高生なのだ。
三十代のオバちゃんの体でそれは悲劇というものだ。考えるだに恐ろしい。
ショーが始まるのだろう、打楽器のリズムの音とアナウンスが聞こえてきた。
「おっ。待ってたー!ショー見なっきゃなっ!」
まるで子犬・・・いや、ただの若作りの三十代が、太ももも露わに二つの胸肉をぶるんぶるん揺らして大股で走って行くのを見送りながら、
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