第13話:屋根上演説

一同屋根上へ出ると、店の入り口方面の群衆には冒険者さん達が見えないように隠れていて欲しいと紋章官ウォーレンさんは言った。

ドゥベルさんたちクランメンバーを人目に晒させたくないらしい。

紋章官ウォーレンさんは屋根の最上部に立つと、僕を横に来るように言う。

紋章官と、魔王を倒したNPCが目の前に現れたことで、店のドアを破ろうとした、群衆は手を止めて全ての人が頭上を見るべく店から一歩下がった。

「おいあれ。」

「なんだ?イベントか?」

「ちょっと見えない、押すなよ!」

「あいつだ!あいつが魔王倒した奴だ!」

「横から報酬かっさらった奴だ!」

怒号が広がった。

目標を失った冒険者が、石を投げてくるんじゃないかと思うぐらい。怨みを向けてくる。

そんな中、ドアの前を防衛していた紋章官の従者は、群衆の手が緩んだのでほっとしている。

紋章官ウォーレンさんは咳払いを一つするとみんなに聞こえるように、大きな声で話始めた。

「冒険者の諸君!並びにこの場に居るNPCの方々、高い所より失礼する!」

「ここに居る、NPCジョナサン・グリーンリーフの活躍により魔王は討伐された!

勝利と平和の祝祭(エンディング)は後日改めて行われるだろう。

詳しいことは後日広報より伝達する予定である。」

「祝祭!?」

「エンディングかよ!」

「やっぱり終わりなのか?」
「ちきしょう!そろそろ討伐装備が揃いそうだってのに!」

大変なブーイングである。まぁそう言われるよね。ごめんなさい。

しかも、高い所から彼らを見下ろす形になっているので彼らも気分は良く無いだろう。

「あの僕も後ろに下がってもよろしいですか?」

「いや、辛いでしょうが、ここにいてください。」

紋章官ウォーレンさんは下にいる、群衆から目をはなさずそう言った。

彼らと対話している構図を全く崩さずに話す姿勢だ。

僕はその間、野次浴びされ続けていた。

そして、言われたい放題の声が上がって1分半と言う長い時間が経ったがその間一言も発していない。本当に室内に帰りたい気分に駆られた。

でも、その1分半は群衆落ち着くのには必要な時間だった。

「まずは我らが王オーフェン・ベルツ3世は、NPCジョナサン・グリーンリーフを王宮に迎い入れ感謝の意を表明し、報酬を与える所存である。」

「報酬だってよ。」

「なんだよ報酬って?」

「普通報酬をNPCが持って行くか!?」

先程より野次を投げる勢いは弱かった。さいしょの1分半の沈黙が彼らを落ち着かせる効果があったのだ。

でも再びざわつかせる言葉を、その中の1人、誰かが言った。

「カレンちゃんを冒険者Aから略奪する。報酬だろう?」

えっそうなの?ってなんであんた達僕の事そんなに知ってるんですか?

そう言われてここに居る冒険者さんの何人かがその言葉に納得されているのが恥ずかしい。

晒し者だ。

だいたい報酬は今初めて聞いたばっかりで、報酬と言われるものは殆ど冒険者さんのモチベーションをあげてもらう為の物で、ほぼ僕には関係ない物だって今まで思っていたんですよ。

「それだ!」

下の冒険者群衆の誰かがその言葉に同調した。

「なんだよ、そう言う事なら、まぁしょうがないな。」

えっしょうがないの?

「イベントの前哨戦だったんなら早く言えよ。」

何故か勝手に納得していく冒険者の輪が少しずつ広がっていった。

「頑張れよ〜。」

今度は応援する声が上がると、何故か拍手がポツポツと段々大きく拡がった。

物凄く恥ずかしいんですけど。

ワタワタしている自分をよそに、目端では足に力が入らないローリアさんがシャナンさんに抱きつき必死に恐怖を抑えていた。

早く次の展開に行きましょうよ。と目で紋章官ウォーレンさんに訴えたが、ウォーレンさんは群衆の拍手をよそに、自分の話をはじめた。

「皆の物よ、さまざまな不安があるだろう。

だが、お主らの愛するこの世界はそれで終わりではない!

この後の新たな展開はまた後日、王都より連絡をする所存である。

乞うご期待を!」

そう言うと群衆から目を離した。

「行きましょうか、彼らはこれで散って行ってくれるはずです。」

恐怖で怯えているローリアさんを始めドゥベルさん、シャナンさん、ミランさんは親指と人差し指で丸を作りOKサインを示す。僕も彼らと同じように指でサインをウォーレンさんに送ると彼は懐からワープアイテムの魔法石を取り出し、空に掲げ効果を発動させた。

向こう側に見える、カルヒルブのさっきまで僕たちがいた部屋の窓にジアさんが目端に見えた。

向こうもなにか僕に気が付き合図を送ってくれた。きっと頑張れ的な意味合いだと思う。

何か返事を返したいけど、そうこう言ううちにワープアイテムの効果が発動して、武器屋の屋根から離れていった。

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