第8話 館長室?からの反撃
外には、冷たい雪が降り続いている。
今年の冬は特に雪が多くて、いつまでたっても降り止まない。
これ見よがしに落ちてくる窓越しの雪は、いつまでも終わらない映画のエンドロールを見せられているようで苛々する。席を立ちたくても、上手いタイミングを見つけられない自分がもどかしい。
”灯油がなくなりました。灯油がなくなりました”
石油ストーブから聞こえてくる警告音が、ものすごく耳障りだ。
「うるさい。黙ってろ。今は給油なんてしてる場合じゃないんだから!」
予想外の攻撃を
「ありえないっ、何で”あっち”の世界の電撃が”こっち”にまで飛んでくるのよ」
ライティングデスクのノートパソコンを見ると、先程まで閲覧していた小説サイトには”Error(エラー)”の文字が表示されて、アクセスが出来なくなってしまっている。
その時、ピリッとした痛みが指先に走った。デスクの上を見てみると、先程まではなかった茶色い焦げ跡がいくつも付いている。
まさか、灰色猫の電撃がデスクを突き抜けて、こっちにまで飛んできたの?……これはマズい。このまま、あいつの好きにさせていたら、じわじわとこちらの世界に干渉されて、いつかは何もかもを盗られてしまう。
「冗談じゃないわ! そんなことが許されるもんですか。これは、全精力を注いで書いてる”私”の
ネットにアクセスできなくたって、ちゃんとバックアップはとってある。
「過去の内容を書きかえてしまえばいいんだ……あいつが灰色猫を名乗ることができないように」
”声の主”は慌ててライティングデスクの引き出しを開けた。そこから、バックアップ用のメモリースティックを取り出し、パソコンに差し込んだ。
画面に読み込んだ文章の目次から、
「ここだ! 『第3話 忘却の時』 この回で、
”声の主”がたたくキーボードの音がカタカタと鳴った。
……が、
― 今更、おかしな真似はするな! 分かってんだぞ。お前、図書館の館長室にいるんだろ! ここの戦いが終わったら、 次はそっちの番だからなっ ―
「館長室? えっと、それ何のことかしら……ん」
― こらぁっ、とぼけるのもいい加減にしろっ。お前が
その声が轟いた瞬間に、ライティングデスクの引き出しから、超低温のドライアイスの欠片が吹き上がってきた。
「ひゃぁああっ、痛いっ、冷たいっ、熱いっ」
“声の主”は、あまりの痛さに顔をふるふると振り回し、キーボードから手を離す。
それを笑う声が、下の方から響いてくる。
「怖っ、もう嫌っ。とりあえず、今は
”声の主”は、ついに根をあげて部屋から出ていってしまった。
* * *
天上からの声が消えてしまうと、灰色猫は、ちっと舌を鳴らし、今度は意識を中空に向けた。
厚雲の上で、口をぽかんと開いたまま硬直している白魔女は、未だに天上からの縛りが解けないでいるらしい。
ふん、この機会を逃す手はないってか。
「ベルベット、行けるか」
手にした一本鞭にそう言うと、灰色猫は、くるりと振り返って、控えていた魔法のバスタブに遠慮がちに笑いかけた。
「リンナイ、お前もだ。けっこう待たせて悪かった。でもな、お前の出番を忘れていたわけじゃないから」
白魔女を指差して、灰色の魔法使いは声を高める。
「ベルベット、リンナイっ、alternating copolymer(交互共重合体)!
鈍色の光を放ちだした一本鞭のボディと、バスタブが醸し出した白光。それらが、形を変えながら合体する。
灰色の翼を持つ白鹿 ― ベルリン ― 現る。
灰色猫は、鞘からすらりと
「よし、行けっ! あの性悪の白魔女を仕留めるのは、あいつが動けない今だ!」
だが、顔をしかめると、灰色猫は、ゆらりと胴体を揺すって抗議したベルリンを叱咤した。
「 動けない敵を狙うなんて、正々堂々と勝負をしていないって? お前ら阿呆か。よく聞けよ。勝者っていうのはな」
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