第9話 灰色猫(グレイマウザー)の真意
「そこにでも入ってろ! お前たちの処遇は白魔女にお伺いを立ててから決める」
シーディとリンナイを城の薄暗い地下牢に放り込むと、近衛兵長ミラージュは、扉に魔法除けを施した鍵をかけ、慌てて戸外へ出て行った。
「
体はくたくたに疲れていたが、どんな時だって口と頭は良く回る。シーディは扉ごしに悪態をつきながらも、階段をやけに急いで駆けあがってゆく靴音と、外から響いてくるかん高い鳥の声を、同時に聞き分けることができた。
朝鳥が鳴いて、ねぐらを飛び立った。
なるほど、夜が明けたのか。
ミラージュが急ぐわけだ。夜が明ければ、白魔女の呪いで、あいつは雪だるまの姿に戻ってしまう。ここで、あのドでかい図体に戻れば城をぶっ壊しかねないからな。
見目麗しく、剣技にも優れ、婦女子にもモテモテの
そのせいで、白魔女に目をつけられたのが不運の始まり。
かたや、俺は、ただのちっぽけなポンコツ魔法使い。おまけに、今の自分は先方斬った怪鳥の臓物と血を浴びて臭かったり汚かったりで、ボロ雑巾みたいだ。
けどさ、目立たないって意味では、シーディ(とるに足らない者)って名をつけた、じいちゃんに今は感謝しとくか。
ユリカを攫ったミラージュに同情なんて、俺は絶対しない。けど、あの娘を探すにしても、扉には魔法が効かない鍵をかけられちまったし、どうしよう?
途方に暮れて、ちょこんと隣で香箱座りをしている白鹿に目を向ける。
ん、焦ったって仕方ないか。今までの事をもう一度おさらいしたいし、まずはこの
シーディはにやりと微笑むと、今や、最も信頼のおける相棒に向かって
「リンナイ、頼む。元の姿に戻ってくれ。戦は身ぎれいになってから、だ」
* *
温かな湯気が立ち込める。お風呂の適温は40℃。けれども、俺は少し熱めが好きだ。
そう呟いただけで、魔法の力を持ったバスタブは即座に湯の温度をシーディのお好みに調整し直してくれる。ボディは白いホーロー製。西洋風なデザインにお洒落な金の猫足。白鹿から本来の姿に戻ったリンナイの中に浸かりながら、シーディはダメ元で一度使った魔法の呪文を唱えてみた。
「
とたんにバスタブに純白の泡が溢れだした。リンナイが気を利かせて動かしてくれているジャグジーの勢いも加わってバスタイムは最高潮だ。
「おお、すげぇ、前にユリカが泡風呂に入っているのを見て、いつかやりたいって思ってたけど、体があったまって力が
記憶の中に貯め込んでおいた使用不能の魔法を使うのは今だとばかりに、シーディは脱ぎ捨てていたズボンのポケットから一冊のノートを取り出した。彼が京志郎と一緒に入った開かずの館長室から持ち出してきた”あのノート”だ。
シーディには読めぬ言語(多分、日本語)で書かれた文章を読む電子辞書だって、忘れずに持ってきている。
手にしたノートと電子辞書に向かって、呪文を唱える。
「
ノートと電子辞書がふわりとシーディの目前に浮いた。
「
電子辞書がノートの中の日本語を勝手に吸い出して自分の液晶画面に取り込み始めた。シーディは、ノートから溢れ出した”
基本的にシーディが初代グレイ・マウザーから教わった呪文は英文だった。その理由は、初代が京志郎のバイト先の図書館から持ち出した魔法書が英語で書かれた洋書だったからというしか、今のところは説明のつけようがない。
というわけで、鼻歌まじりに快適な泡ぶろを楽しみながら、小柄な魔法使いは、図書館がある”あちらの世界”と、
「ふざけんなよ……この内容って、まるで」
それは、シーディにとって驚愕としか言えない、ここにたどり着くまでの詳細な記録。
図書館の館長室で見つけたそのノートには、書かれていたのだ。
― 第1章から第3章 ―
61,627文字
高校生の相良百合香がバスタブに乗って、弟の京志郎が作ったジオラマの国に来た経緯。
魔法使いのシーディと出会いや、雪だるまのミラージュたちと戦う顛末。
今、彼が元の姿に戻ったリンナイの中で、翻訳済みのノートを読んでいる様子まで。
どんなに優秀な頭脳を持っていたとしても、シーディには理解できないことが多すぎた。ただ、理不尽な怒りだけが胸にこみあげてきた。なぜなら、彼は気づいてしまったのだ。
この魔法の国は、今の俺にはどうにもできない
まずは白魔女に支配され、けれども、その魔法の国の正体は、
その京志郎でさえも、図書館の謎の館長に全部の行動をこのノートに記録されてしまっている。
「俺……頭が痛くなってきた。けどさ、よく分かったことが1つだけある」
シーディは浸かっていたバスタブのリンナイに、彼にしては珍しく強い口調でこう言った。
「初代の
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