第5話 三者三様 ~ ミラージュの場合
ミラージュの気分は、止め処なく下降線をたどっていた。
白魔女が魔法の国を支配し始めてから、気分が上向くことなど一度たりともなかったが、日が暮れると同時に訪れる
黒大理石を敷きつめた皇宮の廊下に、軍用ブーツの乾いた靴音と軽く弾んだステップ音が鳴り響く。
黒魔女の部屋に向かう回廊。背筋を走るどうしようもない怖気。
ああ、この距離の何と暗く長いことか。
その時、ミラージュの隊服の袖をつんと引っ張り、ゴスロリ姿の黒魔女が言った。
「ねえ、ぼうっとしてないで、抱っこ!」
頭につけたデカすぎる紫のリボン。身の丈、100センチほどの幼女だが、群れた黒蛇のような髪をうねらせ、紫色の唇でほほ笑む子どもに、甘えた声を出されても吐気を覚えるだけだ。
無表情を懸命に保ち続けたミラージュに抱き上げられると、黒魔女は子猫のように喉をごろごろと鳴らした。
「ねぇ、ミラージュ、私は可愛い?」
「イエス。
「私を好き」
「イエス。マム」
「なら、私と結婚して、ずうっとここに住む?」
「……」
一瞬、口を閉ざした若い近衛兵長。不快感を抑えきれなくなった彼の顔をその胸元から見上げて、黒魔女は嵐のような高笑いの声をあげた。
「大丈夫よぉ、大好きなミラージュ。
ミラージュは腑に落ちぬ顔をして、黒魔女に問う。
「白魔女? 差し出口を挟むようですが、白魔女とあなた ― 黒魔女 ― は同一体ではないのですか」
「それはそれ、これはこれ。なのよぅ。分るわよねぇ、ミラージュっ」
「イエス……マム」
同じ体でも白魔女と黒魔女はまるで魔力が違うということか。そのことは、ミラージュもある程度は理解していた。黒魔女は、逢魔が時に眠る白魔女から漏れた魔力の
魔力が足りない黒魔女は、白魔女のような大人の形態をとることができない。だから、黒魔女は幼女の姿をしている。
けれども……俺がたまらなく怖いのは……そこじゃない。
「さぁ、お部屋についた。ミラージュ、扉を開いて中に入りましょ。私の大好きな
狂宴の夜が始まる。
扉を開いてもそこは何もない部屋。すると、幼女だった黒魔女の体が、ミラージュの腕の中でずるりと溶けた。ヒトの姿を保つには魔力量が足りない黒魔女は、自室に入ったとたんに、己が一番自由に”恋人”を
どんな形をしているかも見当がつかぬ黒い霧。ねばねばと湿気を含んだ邪心だらけの気体がミラージュの体にとり憑いた。
肌という肌に小さな針を突き立てられたかのような痛み。苦痛と眩暈と快楽がごちゃまぜになって、ミラージュは黒い霧の中で呻く。
苦しい。もう、こんな夜を過ごすのは嫌だ!
この女は毒。
黒魔女の霧に取り込まれる度に、体に暗い血が流れてゆくのがわかる。
誰が俺を助けてくれ!
ミラージュの脳裏に、様々な思いが巡っては消える。
新しい世界を作ると豪語していた、あの老いぼれに、俺はひそかに期待していたのに……。
馬鹿野郎! あんな役にも立たない
そういえば……あの少女はどうしているだろう?……名前も聞かなかったが、あのポンコツな魔法使いの"お手付き"でもなさそうだった。
明るい茶色の瞳と、邪心の欠片もないはにかんだ笑顔を思い出すだけでも、心が癒される。
会いたい……あの姫に。
その時突然、
― ぷつり ―
ミラージュの意識が突然、途絶え、何者かの意識が魔法の国に入り込んできたのだ。
― あ~、駄目だ。語彙力足りない ―
空白行
空白行
空白行
53,833文字。
― しゃーない。ちょっと休憩 ―
53,857文字目から、次は再開。
― 頑張んと、収拾つかんわ。これ ―
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