またねとさよなら

────敵は二人いた。しかし、もう俺たちは飛び出している.......

「煙を上手く使え!二人サシに持ち込むんだ!」

 トモキが言った。

「分かった!ゆうか、頼む」

「了解!」

 ゆうかは、小さな打ち上げ花火に火をつけた。舞い上がったしょぼい花火は、男達の視線を花火に集中させることが出来た。

 煙が消え始めた。どうやら上手くいったようだ。

「兄ちゃん、一体なんだこれは?てか誰だお前は?」

 スキンヘッドが俺に話しかけた。

「救いに来たのさ、友達をな」

「あの女はお前らもろとも騙していたのさ、偽りの自分を装って、借金まみれの癖にな」

 このゆで卵が!かなえをそんな風に.......

「それは違う!お前らが騙し取っていたんだ」

「証拠は?」

 俺は、言葉を失った。俺たちは口頭でしか借金の話を聞いていない。データもない、誰も証明してくれない.......

 どうすればいいんだ.......


────ヤマトはスキンヘッドか、何か話しているな.......

「君、何よそ見してんの?」

 リーゼントから回し蹴りが飛んできた。トモキは後ろに下がる。

「君さぁ、どういうつもり?こんなことして。俺たち何者か分かってるよね?」

「ああ、話は聞いている。お前らはゆうかから金を巻き上げたヤツらだからな」

「ははぁ、知っちまったか、でも証拠がないだろ?つまりこれは奇襲!正当防衛だ!」

「.......っ!!」

 リーゼントが飛び膝蹴りをしてきた、その鋭い膝はトモキの下腹部を抉った。

 い、痛てぇ.......化け物かよ。

「もう一丁!」

 次は顔面へのパンチ、トモキはうまく避けると、相手の股間を蹴りあげた。

「うがぁぁぁぁぁぁ!」

 夜の静けさに響く悲鳴。

「チェック、この勝負、俺の勝ちだ」

「クソがァ!」


────「さあ、どうする少年。反論は?」

「.......」

 なにも.......言い返せない.......なんで、なんでだよ俺.......!

「俺の相方は戦うのが好きだからよぉ、あんな馬鹿みてぇな感じで、負けそうになっているが、おれは長い戦いが嫌いだ」

 カチッ、ゲームなどで聞き覚えのあるこの音。まさしくそれは拳銃だった。

「こいつは口径九ミリ、お前の脳天を貫ける。仕方ないよな、正当防衛だから。ほら!お前も終わらしちまえ!」

「ああ」

 先程まで呻いていたリーゼントもP9を出した。トモキが片手を真上に上げる。

 それと同時に俺も、片手を真上に上げた。

「おいおい降参か?降参ってのは両手をあげ」


「「ねり飴」」


「「は??」」


「ヤマト!トモキ!いくよ!」

 俺達の片手に、ゆうかからねり飴が投げ込まれた。

「ナメてんじゃねーぞ!!」

 二人はこちら側を打ってくる!それをジグザグに走りながら交わしていく!


「トドメだ!ゆで卵!!」

「チェックメイトだ!!」


 男達の銃口に、ねり飴が突っ込まれた。アホみたいな戦術だったが、これで彼らがトリガーを引いた時.......銃は爆発する。

「くっ.......」

「大丈夫か、ヤマト」

「足にちょっと、な.......」

 俺の左足に、弾がめり込んでいた。歩けない.......

「おい、トモキ、お前.......」

 トモキの右太ももから、細長く血の跡が着いていた。まだ流れ出ている。

「人を助けるのは楽じゃねぇな」

「だから終わった時、喜びが待ってるんだよ」

「────おいおい、終わってねぇぞ?」

 そう、終わったのは俺たちだった。ねり飴を入れる時、リーゼントにはトモキがもう一発蹴りを入れた。しかし、スキンヘッドは倒しただけで、すぐに起き上がって来たのだ。

────もっと俺が強ければ.......

 もっと力があれば.......

 だれか.......助けて.......くれ.......

「本当のチェックメイトだな!!」

 男は大きく振りかぶった!

 かなえ、逃げろよ.......


 パシッ!!!


「駅で見かけて、一回見失ったんだが、花火が見えてなぁ、間に合ってよかったぜ」

「碇先生!」

「本当に碇先生だ!」

「俺の大切な生徒を傷つけてくれたみたいじゃねぇか、お前達は許さん!!」

「こいつ!なんて力だ!」

 スキンヘッドが圧倒されていた。

 碇先生は、駅の近くならどこにでもいるんだなと、つい笑ってしまった。

 感動のあまり、その後に涙が出てきた。

「花火を目印に走っていたら、ゆうかに声をかけられたんだ、警察にはもう連絡した。そしてこれを見ろ!」

「それは.......!」

スキンヘッドが押されながら、驚きの声を上げた。

「声を大にして言う!ここには!お前達が不当に巻き上げた金のデータが載っている!俺は担任教室として!警察と連携してたんだ!」

「なん.......だと!」

「世の中にはやっちゃいけねぇことがある。それは他人の気持ちを踏みにじることだ。かなえの母さんがどんな思いで.......悔い改めろ!そして更生しろ!相手の気持ちに立てる、真の大人になるんだ!!!」

 先生の拳が、スキンヘッドの顔面に入った。

 その拳は、顔面で一番弱いといわれる、鼻の下、人中にピンポイントで入っていたのだ。


 スキンヘッドは倒れた。

 俺たちの戦いは、終結したのだった.......


 警察が来てヤツらは逮捕され、かなえも保護され、これからお金が戻ってくるかもしれないとの事だった。

「良かったな、かなえ」

「みんながいなかったら、私、攫われて、今ここにいないんだよね.......本当に、ありがとう」

「当たり前の事をしたまでだ、てか、ほとんど碇先生だったし」

「そうだな!」

 俺達は笑っていた。あの夏休みの海のように。無邪気な笑顔で。

「もう遅い時間だ。帰ろう」

「そうだね」

 「それじゃあ」

「それじゃあ」

「うん.......」

「そうね.......」


「「「「あのさ!」」」」


 四人全員が、再び振り返った。

「言いたい事は、分かってるな」

 照れくさそうにトモキは言った。

「そうだな」

 かなえが掛け声をかける────

「せーのっ!」


「「「「またね!」」」」


 あの日、全員がそれぞれの大切な物を失ったあの日。それを全員が鮮明に記憶している。


 故に、俺たちは皆思った。

 もう一度戻れると知った。

 だから、この言葉が最もあてあはる。



「さよなら」ではなく、「またね」だと────

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