第一話: やっぱりな
嫌な予感を覚えようが何だろうが、時間を止めることは出来ない。「今回は一緒」、と満面の笑みを浮かべているサララたちを引き連れて、マリーはルームの中で始まりの合図を待っていた。
大規模エネルギー採取……それは、その名の通り数に任せたエネルギー採取のこと。
同じグループ、あるいは徒党に属する探究者が日数を掛けてダンジョンに潜り、出来るだけのエネルギーを採取するという単純な内容である。
ただし、この大規模エネルギー採取……という名の人海戦術。
実は、ダンジョンのある特性を引き起こしてしまう諸刃の剣であり、その時の危険度を引き上げる行為であるとされている。
その特性とはずばり、『ダンジョンに潜る人数とモンスターの出現数が比例する』ということ。現時点で分かっているダンジョンの特性の一つである。
モンスターの出現数が増えれば、当然危険性も増す。しかも、この増大する割合の規則性は今もほとんど分かっていない……のだが、ここに落とし穴がある。
たいていは1割~5割程度の多少の増大だけで済むのだが、稀に……『増大期』なのかと見間違う程のモンスターの群れが、爆発的な勢いで出現する『最悪の場合』がある。
この『最悪の場合』が、人数以外では何が引き金となっているのかが分かっていない……これが厄介なのだ。それまで最大5割増しぐらいだったのが、何の前触れも無く、十数倍以上のモンスターが出現する。
数十年前に辛うじて生き残った人の『モンスターで構成された壁が、突如猛スピードで迫ってきた』という逸話も程で、それぐらい、この増大するタイミングが全く予見できないのだ。
エネルギー不足が叫ばれている今ですら、どうして探究者たちの個人プレイに任されているのか。
どうして『国』が主導で軍を派遣してエネルギーを採取しないのか……その理由の一端が、コレだ。
というのも、だ。
かつて、何度か行われたのだ。『国』主導の大規模採取が……だが、結果は全て大失敗。過去数回行われたとされているが、投入した軍隊は全て十数分で壊滅。
後に経験則から分かったことなのだが、当時は何もかもが手探りに等しい状態。百人で押し負けたなら、今度は五百人で押し切ればいい……そう軍部が考えた結果は……言うまでもない。
最終的には少しのエネルギー採取も叶わずに何千、何万という人員がダンジョンの肥料となった。その結果、一時は軍内部でクーデターが起き掛け、探究者が一気に激減したせいで深刻な大不況を引き起こした。
そう言う経緯もあって、『国』は軍による採取を諦め、探究者という個人のエネルギー採取に任せることに決めた。もう、何百年も前のことである。
それから今まで、様々な人たちと様々な組織が『ダンジョン』を独占しようとする動きもあった。しかし、現在の状況を見て分かる通り、ダンジョンは誰の物でもない共有財産として活用されている。
それらは全て、独占を企む人たちが原因不明の死を遂げ、時にはほとんど関わっていない関係者まで死亡するという事件が続いたからだ。
さすがの魑魅魍魎共も、手口も手掛かりも欠片も残さないだけでなく、一切の例外なく目論んだ者たちに死が降り掛かるという異様な現実を前に、怖れを抱いたのだろう。
おかげで、一時は『ダンジョンで散った亡者の呪い』といったものから、『ダンジョンを授けた神による神罰』というものまで噂が流れ、生贄の必要性が本気で論議されたくらいだ。
当時の混乱というものが、うかがい知れるだろうか。
以来、『国』はダンジョンの占有を諦めた。ダンジョンを人類共有の財産として位置づけ、どんな人間であっても、どんな『国』であっても、独占できない恒久の資産とした。
それから、何百年。当時の風習のほとんどは忘れ去られたが、今でもダンジョンに関わる者たちの間では慣行として残っているものが多く、意外な形として残っている場合もある。
その一つが、大規模採取などを行う際に行われる予定日の勧告だ。
もちろん理に適った決まり事ではあるのだが、『神様にお伺いを立てる』という意味合いも含まれており、当時は当たり前のように行われていた風習の一つなのだ。
「――という感じで、実はけっこうダンジョンと人類の間には様々な歴史があったのじゃ」
「ほほう」
説明を聞き終えたドラコは、深々と頷く。その隣で聞いていたサララとナタリアも、同様に頷いていた。
「なるほど……イシュタリアはやはり物知りなのだな」
「そう褒めるな。私はただこれまでの出来事を語ったに過ぎぬ」
「いや、それでも凄い。イシュタリア、お前は凄いやつだ」
マリーの、すぐ隣。ダンジョンと人類の近代史の説明を受けていたドラコたちは、感嘆のため息を零す。彼女たちの視線を受けたイシュタリアは、ふへん、と誇らしげに胸を反らしている。
イシュタリアの講義に何気なく耳を澄ませていた数人のグループが、「そんなことが……」と驚いた顔で見合わせている。それをマリーは横目で見やり……軽くため息を吐いた。
――どうか、面倒なやつらにだけは絡まれませんように。
そう強く念じながらも、何時もの装備一式がズシリと重く感じるのは、精神的なものなのか。ルームにたどり着いたマリーは、既に集まっていた大勢の生徒たちをぐるりと見回した。
人、人、人……どこを見ても、ユーヴァルダン学園の生徒と思われる年若い人ばかりだ。もちろん中年に差し掛かった例外はいるが、それでもマリーが知っている光景よりも十五歳ぐらい、年齢層が若くなったように思えた。
年齢層が変われば、雰囲気も変わる。普段の落ち着きつつも高揚感の孕んだ独特の空気……とは少しばかり違う。
好物を前にした子供というか、医者を前にした子供というか……大丈夫かと不安を覚える一部の生徒たちを横目で見やりながら、マリーは軽く瞬きをする。
今しがた通り過ぎた生徒たち。男二人に女二人のグループなのだろうその生徒たちの防具は、一目で安価と分かるプレートと手足を守るガントレット。そして、前衛となる男子が持つ薄い盾……ただ、それだけ。
武器に至っては、男二人が長剣、女二人が短刀。それ以外の武器はビッグ・ポケットに入れているのだろう。しかし女二人から放たれる浮ついた雰囲気を感じ取ったマリーは……おそらくは素人だろうと当たりを付けた。
(傍で行動されると面倒なタイプか、あるいは地上階でのんびり頑張るタイプか……スコップ持っていない辺り、前者かな?)
そう思ったマリーは、決して目を合わせないように彼らから視線を外す。だが、その先にいた、似たようなグループに目を瞬かせ……次いで、苦虫を噛み締めたかのように顔をしかめた。
……もしかして。
ふと脳裏を過った予感に視線を動かせば、その素人と似たような風貌のグループが、一つ、二つ、三つ、四つ……。ほとんど私服に近い彼ら彼女らには、緊張感と言ったモノがまるで感じられない。
半ばふざけた調子で談笑する人たち……中には化粧を施した女の子も居る。ちょうど、マリーの前を通り過ぎた緑髪の少女がそうだ……けっこうな割合でそういうグループが目に映るのを見て、マリーはイシュタリアの話を思い出した。
――聞いた話では、だ。今回の大規模エネルギー採取がランク上げに利用されるのは、何もマリーだけに限った話では無いらしい。
一ヵ月前の試験の時や、これまで探究者ギルドを通じてある程度の結果を残せている者の大半は、今更危険を冒して結果を残す必要が無いから気楽なものだ。
だが、これまで目立つ結果を一つも残せてこなかった人たちにとって、今回のコレは結果を残せる最後のチャンス。同時に、成績を満たしている者や評価に色を付けたい人達にとってもランクを底上げするチャンスでもあるらしい。
そう思って見れば、確かに集まっている者たちの雰囲気が、どうにも二つに分かれている。なにやら悲壮感を漂わせているやつもいるなあ、とマリーは生徒たちの顔ぶれを見て思う。
大規模採取が始まると、少しでも評価を上げる為に、モラルも糞も無い骨肉の争いが始まる事もあるのだとか――と。
「時間だ! お前ら注目!」
突如ルーム中に響いた声に、マリーたちは思わず耳を押さえた。ルームに集まっていた生徒たちも同様に耳を押さえたり肩を竦めたりしている。
そんな彼らの視線が、マリーたちの視線が、自然と声の主だと思われる人物へと向けられる。
そこには、『人形師』の二つ名を持つ男、ディグ・源の姿があった。
腰には例によって源の『人形』であるテトラが抱き着いていた。相も変わらず、テトラは普通の子供にしか見えない。
……そういえば、ここ最近は顔も見ていなかったなあ。
少しばかり前のことを振り返っているマリーたちを他所に、源は掌よりも少し大きい金属板を頭上に掲げた。
それは、今回の大規模採取に参加するに当たって事前に配られていた、生徒の識別表であった。
センターの中に併設された『換金所』にて、期間中だけ使用することができる特別性だ。金属板にはどこへエネルギーを譲渡するかが記されており、これによって進捗状況をある程度調べることが出来る。
紛失すると、場合によっては参加資格を失ってしまうだけでなく、この金属板は探究者ギルドから発行されたものなので、横流しが発覚すると厳重に処罰される代物である。
「ちゃんと持って来たか? 忘れたやつがいたら、今すぐ取りに帰れ。予備を幾つか持っているが、それはあくまでダンジョン内で紛失した生徒を対象にしたものだぞ」
生徒たちに見える様に、源はグルリと金属板を高く掲げる。マリーたちが、生徒たちが、一斉にビッグ・ポケットの中を確認する。
全員の顔をしばしの間確認していった源は、軽く笑みを浮かべながら腕を下ろすと懐から時計を取り出した。
「それでは、只今より17時までユーヴァルダン学園による大規模エネルギー採取を行う。お前たちも分かっている通り、結果次第によってはランクの変動もあり得るので、各自気合をいれるように」
「大規模採取ではモンスターの出現数が増大する。決して一人で行動せず、常に階段に逃げられるように気を付け、不必要に階段付近でたむろしないように」
「エネルギー・オーブの所持数に個人差はあるが、それに関しては普段の頑張りの結果なので逆恨みしないように。また、基本的に揉め事は当事者同士で解決し、あまりにも酷い場合は俺の所に来るか、俺がそっちへ向かうことになる」
つらつらと、源は注意事項を口頭で説明していく。マリーたちはもちろん、大半の生徒たちにとっては耳にタコが出来る程に聞き飽きた話だ。
だが、一語一句聞き逃さないように真剣な眼差しで耳を澄ましている一部の生徒もいるので、誰も源の話を急かそうとはしなかった。
時間にして5分程の注意事項を口頭で説明し続けた頃だろうか。「――では、最後に」と一言ためを作ると、源は生徒たちの顔を順々に見回した。
「絶対に無理をするな、無茶をするな、欲を掻くな。これまで何度も言ってきたが、ダンジョンの中は全てが自己責任。どれだけ好成績を残そうが、死んだらそこまで……全ては命あってのものだということを、肝に銘じて置くように!」
「――はい!」
生徒たちの力強い返事に、源は笑みを浮かべながら頷く。次いで、「質問が無ければ今すぐ始めても構わんが、質問あるやつなんていないだろ?」質問させる気の無い言葉に、生徒たちの間から笑みが零れる。
“……そういえば、イルスンのやつはどうなったんだ?”
ふと、以前の試験とは違う要素を思い出したマリーは、隣のイシュタリアにそっと尋ねる。イシュタリアも、マリーに倣ってそっと顔を近づけた。
“あいつならちょっと前に辞めたらしいのじゃ”
“え、マジで? なんでまた?”
“前の時に、鎌李のやつを置いて逃げたじゃろ。あれが原因で弟子の大半が幻滅したらしくてのう。居辛くなって辞めてしまったらしいのじゃ”
“……それはまた、ご愁傷としか言いようがないぜ”
無言のままに見つめてくるサララの手を握りながら、マリーは苦笑を隠しきれなかった。さすがに罪悪感を覚えたりはしないが、しょうもない結末だとは思った。
そうしていると、ざわっと、空気が動いた。
どうやら無駄話をしている間に『大規模エネルギー採取』が始まったようだ。顔を上げれば、生徒たちが続々とダンジョンの中に入って行くのが見えた。
……この様子だと、階段の辺りで渋滞が起きそうだ。
そう思ったマリーがサララたちに尋ねてみれば、サララたちも同様のことを考えていたみたいであった。
「別に急いでいるわけでもないし、私たちは私たちでのんびりやればいいんじゃないの?」
「まあ、それもそうだな」
実際、急ぐ理由なんて無かった。
時間はまだまだあるし、今回の大規模採取はそれなりの期間が取られている。それこそお昼寝をしてから行ってもいいぐらいなのだが――。
フッと、気配を感じる。振り返れば、そこには五人程の男女がマリーたちを見つめていた。誰一人見覚えの無い顔ぶれであった。
「マリー・アレクサンドリアちゃんだね?」
その言葉と共に、先頭に立っていた男が笑みを浮かべる。それを見た瞬間、マリーは(あっ……)と彼らの意図を察する。しかし、それに気づかない男は、さらに笑みを深めた。
「どうだい、僕たちとチームを組まな――」
「組まない。他の奴を当たれ」
先手必勝。それ以上話すつもりは無いと言わんばかりにマリーは彼らに背を向ける。しかし、彼らはへこたれなかった。
「そんなこと言わないで。見たところ、マリーちゃんのチームは女の子しかいないでしょ? 僕たちと一緒に行動した方が――」
「組まないと言っただろ。首を縦に振るつもりは無いから、他を当たれ」
取りつく暇も無い返答。普通ならこの時点で話は終わるのだが……。
「そうだね、君たちはすっこんなよ。マリーちゃんは僕たちと組むのだから」
前触れも無くしゃしゃり出た美男子たちの登場によって、状況は混沌とし始める。
「――っ!?」
いきなりな発言に目を白黒させるマリーを他所に、その美男子たち……それはもう気障な所作でマリーの前に膝をつくと、おもむろにマリーの手を取った。
「やあ、マリーちゃん。待たせたね」
「……は、はあ、え、いや、誰だよお前?」
反射的に手を振り払い……混乱する。
脳内に浮かぶ大量の疑問符をそのまま眼前の美男子にぶつけると、美男子は……フフッと笑みを浮かべた。
「チーム、甘い薔――」
「――あっ?」
「ごめんなさい、気のせいでした」
横合いから睨みつけられたサララの眼光に、怖気づいたのだろう。
謎の美男子たちは自己紹介の途中だと言うのに一方的に話を切り上げると、足早に離れて行ってしまった。少しばかり異臭がしたのは、果たして気のせいだったかの。
……何だったのだろうか、あの男たちは。
サララの手で消毒される己の腕を見やりながら、そう思って首を傾げていると、また新たな集団がマリーの前に立つ。今度は女だけで構成されたグループであった。
「あの、マリー・アレクサンドリアさんでしょうか?」
「他の奴を当たれ」
もはや会話すら立ち切る勢いのお断り。けれども、やはり彼女たちも必死なのか、「そんな、せめて話だけでも!」食い下がる素振りを見せたが、サララに睨まれただけで耐えられなかったようだ。
「――このブス! ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんじゃないわよ!」
そんな捨て台詞を吐くと、人波の中へ足早に離れて行った。「……ブス、というのはどういう意味だ?」と首を傾げているドラコの姿に苦笑する……暇なんて、マリーはもちろん、サララたちにも無かった。
「あの、ちょっといいかな!」
「……駄目だ」
次から次へと、マリーたちとチームを組みたいというグループが押し寄せてきたからである。
しかも、彼ら彼女らの数と強引さときたら、鬱陶しいという言葉では言い表せられないぐらいに酷いモノがあった。
「――ねえ、いいでしょ、一日だけでいいから」
「他を当たれ」
「――頼む! ここでランクを維持しないと、退学しなければならないんだ!」
「身の丈にあった学校へ通え」
「――そんなに余裕があるのなら、少しぐらい助けてくれたっていいじゃないか!」
「知るか!」
……断っても、断っても、次から次へとどこからともなく湧いて来る。
ルームの中を移動しても移動しても追いかけてきて、ルームを出ようとしてもまだ追いかけてくる。
無視し続けても諦めず、何故か逆切れを起こす者まで現れる始末……正直、手が出そうになったのはマリーだけではない。
……大規模採取の評価基準は、どれだけのエネルギーを持ち帰ったかどうかが全てだ。
源の個人的観点から来る追加点もあり得るが、それは運が良ければという程度に過ぎない。そんなのを期待するぐらいなら、素直に頑張った方が早い。
だが、それ以外にも容易く高評価を得る方法はある。
それは、強いチームと組むこと。チームが得た利益は等分しなければならないという、暗黙の原則を悪用する方法である。
『お前は私たちよりも強く、私たちが入ったところで平気でしょ。だったら、困っている私たちを助けるのが人の道ってものじゃないの?』
それが彼ら彼女らの共通した大まかな言い分であった。
確かに彼ら彼女らの言うとおり、マリーたちにとっては十数人ぐらい入ったところでどうとなるわけでもない。
だが、マリーたちに義務があるわけでもなければ、彼らに義理があるわけでもない。
そんなの知るかと振り払うが、次から次へと伸びてくる彼らの哀願に……自然と、マリーたちに苛立ちが募り始めた。
(……なんて勇気のある生徒たちなんだ)
堂々巡りの問答が十数分……いいかげん苛立ちが頂点に達しようとしていたマリーたちを……遠くから見止めていた源は、深々とため息を吐いた。
生徒間のいざこざは、基本的には見て見ぬふりという鉄則がある。教師はあくまで中立で無ければ成らないという考え方から傍観していた源であったが、さすがにそうも言っては居られない。
テトラと共に交渉を求める人だかりを掻き分けて、中心へと進む。
テトラに引っ張られる形で半ば強引にマリーたちの前「――あれ、源?」に飛び出ると、「そこまで、君たち少し落ち着け」鼻息荒い生徒たちに待ったを掛けた。
「本人にその気が無いんだ。いつまでもグダグダと縋り付いていないで、覚悟を決めたらどうだ?」
「源先生! 俺たちは今、大事な交渉をしているんです! 生徒間の話には口を出さないはずでしょ!」
当然……というか、何というか。集まった生徒たちから飛び出した言い分に、マリーの額に血管が浮き出る。
槍を持つサララの手に力がこもり、ドラコの爪が伸び、ナタリアが意味深に舌なめずりをし、イシュタリアは舌打ちをする。
見る角度によっては相手を小馬鹿にしているとしか思えない態度に、生徒たちの顔色が一気に赤くなる。
本来なら間違ってもそういう立場でないのに、「人がこうして頼んでいるのに、なんて態度だ!」と唾を飛ばして怒鳴る者を筆頭に、なぜか怒りを露わにする彼ら。
(おいおい勘弁してくれよ、全く……)
そんな彼らを見て、人知れず青ざめている源がいることを、彼らは全く気付いていなかった。
もうこの時点で土下座してでも命乞いをした方が良い状況であることに彼らは気づいておらず、知ろうともしていない。
そして再開される、一方的な言い分。
物理的な立ち位置によって、自然と彼らの言い分に耳を貸していた源は……しばし後、「――いいかげんにしなさい!」キレた。
「そんなにチームを組みたいなら、君たちで組めばいい。君たちは互いに相手を探しているんだろ? だったらちょうどいいじゃないか、君たち全員で組んでダンジョンに入ればいい」
もっともな源の一言に、彼らは一斉に視線を逸らし、俯いた。
さすがに講師を怒らせるつもりは無かったのか、中には傍目からでも分かるぐらいに青ざめた者すらいる。
「……別に強制しているわけではない。なにも地下に潜ってモンスターと戦えと言っているわけじゃないんだ。地上階で鉱石探しという手もあるし、それだけの人数なら選べる手段も多くなる。やり方を考える時間は十分にあるんだ……頑張れ」
そんな彼らの姿を見て、源は幻滅したのかもしれない。
彼らを前に、それはもう深々とため息を吐くと……マリーたちへ、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまないね、マリー君。彼らもランクを落とさないように必死でね。場合によっては退学処分になる子もいるんだ……どうか、悪く思わないでくれ」
さすがに非の無いうえに顔馴染の源に頭を下げられたら、マリーとしても無下には出来ない。
空気を読んで怒りを引っ込めたマリーたちが、このままお流れにしようかと思った瞬間――。
「ディグ・源。退学する要因を作ったのは彼らであり、あなたが頭を下げる必要はありません。全ては彼らの能力が低いのが悪いのです」
――空気を全く読まない『人形』のテトラが、色々と台無しにしてしまった。
「……テトラ、少し黙っていてくれ」
「命令を受諾。少し黙ります」
「そうしてくれ……えっと、マリー君。疲れている君たちにこんなこと言うのも何だけど、こうしていても彼らのような者が押し寄せるばかりだ。強制するつもりは無いが、ダンジョンに潜ることを――」
「命令を完了。ディグ・源。先ほどの話ですが」
「テトラ、次の命令があるまで僕の腰に抱き着いて黙っていなさい」
「命令を受諾。了解いたしました」
そう言うと、テトラは無表情のまま腰に抱き着いた。
疲れたと言わんばかりに軽く頭を振る源を見て、「分かった、確かに言うとおりだな」マリーたちは思わず笑みを浮かべると、ダンジョンへと歩き出した。
気付いて、思わず付いて行きそうになった一部も、源に睨まれて足を止める。歯痒そうに彼らはマリーたちの後ろ姿を見送る彼らだが、彼ら同士が互いにチームを組む様子は見られない。
(……まあ、やけくそになって死なれるよりはいいんだけどなあ)
焦燥感を滲ませている彼らを見て、源はそう結論付ける。
結局、彼らが覚悟を決めてダンジョンに入るのは何時になるのやら……未来を想像した源は、ただただ苦笑するしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます