アザーライフ×アザーワールド~MMORPG 嫌われ者ロールプレイ生活~
砂鳥
序章 アザーライフ×アザーワールドの世界へようこそ!
第1話 キャラクターを作成しよう~名前編~
新しくゲームを始めるときはワクワクする。
誰だって同じ気持ちになると思う。
俗にキャラクターを作るときが一番楽しいと言われることもあるのだから、キャラクター作成には数時間かけるだけの価値があると言ってもいい。
「まずは名前だな。これは一番大事だ」
名前。ネーム。
現実でもゲームでも最も重要なモノの一つだ。これだけで相手に与える影響は計り知れない。宇宙と書いて"コスモ"と読ませたり、海鈴と書いて"マリン"と読ませたりした日には痛々しい親を持った子供として陰に日向に話題に上ってしまうこと確定である。自分自身が名付け親であれば自分が痛々しいセンスをしていることを宣伝しているようなものだ。
「うっ……古傷が痛むぜ……」
思い出すのは中学生の頃の黒歴史。
夜王と書いて"ブラックカイザー"だとか言っていたあの時の自分を殴りたい。
「夜は黒じゃねえから!
ナイトだから!」
「王はキングだから!
カイザーは皇帝だし、
そもそも英語じゃねえ!!」
節操がないのも痛い人特有のものだろうか。
「いや大丈夫だ。
俺はもう厨二病は卒業した。
忘れてしまえそんな過去」
ともかくキャラクター作成である。
普段使っている名前を入力してみる。
「"ローグ"っと」
――既にその名前は使用されています
「む、このゲームは名前が重複がダメなタイプか。それなら"シーフ"で」
――既にその名前は使用されています
「……"アウトロー"」
――既にその名前は使用されています
(やべえ。嫌な予感しかしねえ)
誰もが一度は経験したことがあるだろう。
入力した名前が重複し続けるトラブル。
別名"入力ゲー"だ。
神話や歴史上の人物、武器防具など固有名詞に元ネタがあるものは8割以上が使われているというリアルホラーである。何度入力しても次のステップに進められない。まさに最初の難関。関所。通行止め。
「伝家の宝刀を使うときが来たか。
俺はこの手の名前は好きじゃないんだが
背に腹は代えられない……"♰ローグ♰"っと」
名前の前後に記号!
かつて国内最大手のMMORPGでユーザーたちが編み出した苦肉の策である。一部では前述の名前同様、痛ネームとしての地位も確立しているMMORPGの基本テクニック。これに手を出したが最後、誰もが何が何でもその名前を使ってやるマンに変身してしまうほどである。しかしこれも万能というわけではない。
――既にその名前は使用されています
「……"■ローグ■"」
――既にその名前は使用されています
「"$ローグ$"」
――既にその名前は使用されています
「…………"$シーフ$"」
――既にその名前は使用されています
――既にその名前は使用されています
――既にその名前は使用されています
「うおおおおおおおおおおーーーーー!!」
抑えきれない感情が爆発した瞬間であった。
「おいい! どうなってんですかよ!!
こいつはクソゲーだああああああ!!」
罵声。そして根拠のないクソゲー宣言。
追い詰められたユーザーが一度は陥る恐慌状態。一種のパニック症状である。
「いや名前なんてなんでもいいだろ。
大事なのはプレイスタイルだよ」
最初の方で名前が大事だとか言っていたのは気のせいだろう。読み返しに戻ってはいけない。男は過去を振り返らないものだ。そうだろう?
「じゃあ……てきとうに……」
キーボードを叩く指が止まる。
(まさか適当に入力しても駄目なんてことはないだろうな)
「……"アルカトノス"」
――既にその名前は使用されています
「うっそだろおおおおおおおいいぃぃよおおおおおもおぉぉおう!!」
叫びはもはや雄叫びの様相を呈している。気が狂ってきたと言っても良い。最高にハイってやつだ。内心はイイエだが。
ちなみに語呂が良い感じの名前は意外と使われていることが多い。
"アル"や"エル"、"リア"、"ノル"などラ行やア行は鬼門である。
名前入力画面と格闘を続けること1時間後。
「"アンロウ"」
――その名前は使用できます
「うおおおおおおおおおおっしゃあああああおらああああっ!!!!」
歓喜の雄叫びである。
しかしまだキャラクター作成は終わっていない。名前が決まっただけである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます