第18話

 そのあと明華との食事を終えて店を出たわけだが、その会話のほとんどが数学とか物理とかいわゆる理系の話ばかりで、これは本当にデートいえるのか?といった感じだ。僕のデートって多分世間一般のデートと違うと思うんだよな。前回のモカさんといい、今回の明華といい何がいけないんだろう。


 ただ、今回は明華の手助けもあって大方僕の式の内容がわかってきた。まず明華の推測として、僕が感覚的に立式しているというのは、根本にある能力による補完も働いているというのもあるだろうけど、僕自身がそこの分野に関して基礎がしっかりしていて、演習量も多いことによる直観なのではないかとのこと。


 つまり僕の今までの経験と学習内容から、それに近しいものを無意識で引っ張り出してきて、それが上手い事合致した。という一種の博打に近い技の使い方とのことだった。なので、明華も手伝ってくれたこともあり、爆破、斬撃に加えて別の攻撃方法を編み出すこととなった。


 それからまさかの明華からの提案で、そこらのエンコンで試し打ちをするとのことだった。なんだか明華が教官みたいになってきたな。明華のほうが察する能力が高いのか迷いのない足取りで歩いていく。所々でスマホで位置を確認してるけど何かあるのだろうか、エンコン注意報が見れるアプリとか?


 先ほどの駅前とは違って、住宅街のような場所になってきた、ちらほらとスーパーなども見かけたり家電量販店なんかもあるようなところだった。


「ここならいいだろ」


 この付近にきてようやく僕にもわかる感じになった。商業施設のダクトがある細い道。兼用でゴミ捨て場にも使われているようで、大きなゴミ箱があり、そこから少し生暖かい風に乗った嫌なにおいが立ち込めていた。


 そのゴミ箱の陰に隠れるようにして違和感のある場所があったそこに僕と明華で通り過ぎると、先ほどの細道から瓦礫のたくさんある工事現場のような場所に出た。毎回思うがこの変わりようは何なんだろうか、まるで一瞬で場所が移動したかのように法則性がまるでないように感じる。


 そして突入時の違和感もないのが不思議だ。なんか違和感があってもいいのに、さも初めからそこにあったかのようになじんでいる。そのくせ後ろを振り返るとそこにあった細道は無くなっており、そこでようやく気が付くときもあるくらいだ。


 これが一般人だったらどうなるんだろうか、何も違和感を感じずにそのまま通り過ぎるのか、それともそもそも一般人は入れないのか、後者だとすると、もう僕は明華と出会った時の時点でその力が僕自身は持っていたという事になるが、なぜそれを今まで感じずに生きてこれたのかがわからない。


 そこの空間には、操り人形のようなものが8体見えた、上から細い糸でつるされているようで、少し中に浮いている。その糸の先を見ると真っ黒な雲のようなものがあり、どこにつながっているのかは視認できなかった。


 僕と明華は身体リミッターの式をすぐさま発動する。それから明華は僕の方を見てこういった。


「半分ずつな」


 その顔はストレス発散できる相手を見つけたような少しうれしそうな顔をしていた。かみつく相手を見つけた大型犬のような雰囲気もある。


「それじゃあ僕はお試しであの式を」


 そういって発動しようとするのは攻撃の方法であるけれどただの斬撃というよりもファンタジーよろしく属性みたいなものを持たせてしまえばいいのではないかという事だった。そんなわけで、いつものお得意の爆破の式、それに熱を持たせてみることにした。


f(x)=|tan(x)|

g(x)=αx

a(x) = λ·∇T + δ·C(x)


 判明したのは基本構造として持っていたのはf(x)、今まで僕はそれに付随して、g(x)による補助を加えて爆破の威力をコントロールしていたようだった。その二つの式を同時に使えるなら三つ目も行けるのではないかということでそこにa(x)の式をプラスしてみた。λが対象の熱伝導率とか言ってたっけな。それに対してTを僕の方で調整することで燃焼させることも可能なのではとの見解。


 ちなみにδ·C(x)の項については全く分からない。なんか明華が言うには空気だけで燃焼するわけがないから、可燃物質を引き寄せる補助式も組み込めば燃焼させることも可能なんじゃないかとのこと、漫画とかアニメとかだと普通に火が出てくるのに現実は悲しいものですね。


 手におなじみの式が入り混じったものが現れてそれを操り人形の方に投げつける。今回は感覚ではなく、きちんと理論立てている分、明華に迷惑がいかないように少し少なめにしてみた。しかし式を1つ足したことでいつもよりも余計に力が吸われている気がする。


 いつも通り少しの時間の後空気が一気に膨張する。その際に僕の仕込んだ三つ目の式が発動する。膨張した空気の第二層目といってもいいそこから炎が立ち上り、空中から張られていた糸にまで燃え移った。操り人形たちがすぐさま移動するも、燃えている部分を消火するには至っていない。


 成功と言っていいだろう、今炎はそこから生まれるんじゃなく、僕の関数によって支配されて起こすものとなった。ガス代の節約できそう。


 すぐさま距離を詰めに行く、糸の燃えている人形を手始めに右手に付与した式、其れにも一応炎の式を付けてみる。そのまま燃えてパニックになっているような人形の首に右手を振った。式が光りそのまま首を落とせたが、そこの切り口が、熱で溶けたり焦げたりしていた。おそらくこれも成功したとみていいだろう。ただ、無駄に演算容量を消費したような気がする。


 残る3体の人形が一斉に僕を取り囲み仕込み、両手が外れたかと思うと、肘の先から刀のようなものを出す。仕込み刀というものだろうか、ちょっとまずいかもしれない、僕は右側に先ほどと同じ爆発の式を出してけん制した後、右手に別の式を付与し、その場でぐるりと一回転するようにして右手をふるった。


f(x) = x² − a

g(x) = ∂x/∂t

h(x) = ∇ρ


 またしても三つの式今回のは斬撃を飛ばすとかいう男ならだれもが憧れるあれだ。簡単に言うと上から威力の式、斬撃の方向、圧力差であるわけだが、つまりは空間の圧力差を意図的に生み出して斬撃を飛ばすという事なのだが、これを明華に教えてもらったけれどまるで理解してないのでほぼ感覚でやってます。いつか理解できたらいいのだけど。


 そう願って放った斬撃、本来なら3回発動するはずが、初めの一発だけ発動して残る2回は梨木が赤く光って砕け散るように霧散した。


「くっそ!!」


 運よく発動した式も刀で防がれてしまった。そのまま距離を詰められる。瞬間反射的に爆破の式で空中に脱出する。やはり使い慣れたというか、まだ感覚のほうが僕にはあってる気がするけど、明華が言うには理解していたほうが良いとのこと、演算容量の効率がいいとかなんとか。


 そんなことは実践を通して学ぶしかないんだろうけどぶっつけ本番で授業で習ったことをやるより、体育みたいな、あぁこんな感じね、みたいな方が難易度としては簡単に見えるでしょ。つまりそういう事なんですよ。


 そのまま囲まれた状況を打開すべく再び爆発の式で距離をとる。使い慣れないというか初めての実践だとまるで計算ミスが起きているかのように式が安定してくれない。どこか人目を忍んで練習するしかないのだろうか。


 そんなことを考えている間に人形の内の一体が口を開けた。まるで顎が外れたのではないかと思う程に大きく開かれたそれは一端に光が集中していた。直観的にこれはいわゆるビームとかそのたぐいだと判断した僕は。これまた新しく生み出した式を付与してみる。


h(x) = ∂²x/∂t²

k(x) = μ·m


 すでに発動している身体リミッターの式に補助として追加する。h(x)で加速度制御、これは物理の時間で習ったことだからいいけど、k(x)で慣性制御をしているとのこと、慣性制御入れたほうが安全だろうという明華のアドバイスだけどないと多分Gが半端なくかかって内臓が飛び出る。知らんけど、物理の時間を思い出すと慣性の法則とかでそんな感じになるはず。


 タイミングを合わせて発射同時に目標地点を目算で決める。そうすると通った道に閃光を残して僕はそのビーム発射した人形の右後ろに来た。少し多く見積もってしまったけれど問題ない。そのまま斬撃の式を右手に付与してからその人形の首を切り落とす。これで残り2体。


 もう一度属性を乗せずに爆破を繰り出す。目くらましとちょっとした猫だましのように使ってみたものの、さすがに学習されたのかその二体はお互い別の方向へと回避し1体はビームの準備、もう一体は刀を構えて僕の方へと向かってきた。いくらリミッターを外しているとはいえ、さすがに生身で刀を受けるのはまずい。


g(x) = −F(x)

h(x) = θ·n


 反射式を展開してみた、敵の攻撃に対してそれを僕自身の攻撃と判定させるために式を逆転、いわば跳ね返り係数だね、これも式に入れたらもうちょっと効率よく演算容量を使えるかもしれない。


 とか思っていたのによく見たら下の式なんだよ!!勝手に出てくるなよ!!え?角度の計算ですか?斬撃に合わせて発動したらその角度を調整する計算が間に合わない!!


 発動こそ成功したものの、反射された攻撃が僕の右肩に当たった。奇妙な感覚だ当たった個所は左肩なのに式が間に合わずに右肩に食らうなんて。


 この式はダメだ、まさか自動的に補助式が入ってくるなんて聞いてない。説明書もないのにいきなり変な機能を追加するのやめてくれますか?


「おいおい、これくらいでへばられちゃ困るぞ」


 そういってやってきたのは明華、僕に切りかかってきた人形の胴体を容赦なく貫くと、すぐ後にもう一体の光線が飛んできた。明華はそちらにすぐさま右手をかざしてそこにたくさんの「=0」が並ぶ、壁のように並ぶその式が解けると、光線がさもそこで行き場をなくしたかのように止まってしまう。


 これは明華の防御式なのかな、とするなら、僕もそういった式を立てればいいわけなんだけど、そんなすぐにぱっと思いつけば苦労しないんですよね。なんだったらまた勝手に補助式が出てくるかもしれないので迂闊に立式しても使えるかがわからない。


 明華がクナイの様なものを投げつける、カッコいい!!忍者みたい!!僕もやりたい!!とか思っていたらうち2本が人形に当たるとその場で動きを止めた。空中から伸びている糸も動かそうと必死なのかかなり糸が張っている。


 そのままゆっくりと人形に近づくと、人形につながっている糸をひとまとめにしてつかむ。


「本番はこっからだ」


 そういう声と共に糸を引っ張ると上の黒い空間から、歯車がやたらとついたからくり人形のようなものが落ちてきた。足には車輪が4つ、おそらく四輪駆動。その真上に巨大な歯車が水平についていた。その歯車を台座にしているかのように、片足を組んで椅子に腰かけたような格好の青銅製とみられる像。顔の部分はいわゆる般若のような顔をしており、椅子の背もたれ部分からはおそらくそれで人形を操作していたであろう意図が無数に出ていた。体調も水平歯車の部分だけで僕の伸長くらいはある。


「こりゃまた、どうして私がボスですよ見たいな格好してるんだろうか」


「そりゃ、私が選んだんだからな、あとはお前がやれ、危なくなったりここまでだと思ったら助けてやるよ」


 そういって明華は、瓦礫の山に腰かけて本当に手出しをしないように見えた。ここで僕が頑張れば見直してもらえるかもしれないし、明華を助けるっていう言葉にも信憑性が増すというもの。


「では、この漢阿智良湊、華麗に退治して差し上げましょう」


 そういって僕は一気に式を展開した。爆破の式に炎の式をプラスし、同時に右手に斬撃飛ばしの式を付与する。左手で爆破式を投げ、爆破のタイミングで斬撃を飛ばす。爆炎で目くらましになったところでh(x) = ∂²x/∂t² 、k(x) = μ·m この式を使って瞬時に移動する、右手に付与した斬撃の式を変更し、今まで通りの斬撃式で演算容量の節約をする。


 金属同士がぶつかるような甲高い音を奏でて僕の斬撃が歯車の部分で止まる。くそ、さすがにまだ切り裂けるほどのダメージが与えられてないってことか。


 最近になって分かったことだが、エンコンの表面には何か特殊な防御壁でもあるかのようにダメージを与えるほど攻撃が通りやすくなっていく気がしている。明華に聞いてみても多分あるだろうけど明確な原理はわからないとのこと。


 いったん距離をとって再度爆破の式を3つほど投げつける。


 その時だった。演算容量を使いすぎたのか、目の前がグラっと歪む。式は一応発動してくれたみたいだけど、どのくらいダメージを与えられたのかがわからない。


 からくり人形の手がこちらを向いた。すると先ほどまで人形を操っていた糸が僕の方へと目掛けて飛んでくる。直感でそれはよけなきゃいけない気がしたので、防ぐよりも回避行動をとる。


 何本も襲い掛かる糸を横目に先ほど僕のいた地面の方を見ると、アスファルトが削れていた。それは鋭利なもので攻撃され、さらに重さもあるのかアスファルトがめくれあがっていた。やっぱり、あの糸ただの意図じゃなかった。ラノベを読み漁ってきた僕にはわかる。


f(x) = A·sin(kx−ωt)

g(x) = ∂²φ/∂t²


 男のあこがれ波動攻撃、なんも属性の補助式を乗っけていないのでただの衝撃波になるけれども、爆破と違って、指向性や密度もこっちで操ることができる分威力の操作がしやすい。


 そう思っていたんだけど、なぜか僕の計算と立式はあっていたはずなのになぜか僕の式が僕自身の方向へと発射された。しかもなぜかその式は消えることなく。あらぬ方向へと放射し続けた。


「な、なんで……止まって!!止まれよおい!!あぁ力が抜けるんじゃあ^~」


 常に消費され続ける演算容量、それに比例して疲れていく僕の体。当てもなく放射され続ける攻撃が、エンコンに当たることもあるけれど明華は防御式を発動しているのか涼しい顔をしていたが。そこからため息をついて立ち上がると。


「なるほどな」


 そういって僕に右手をかざすと、なぜだか急に眠気が襲い掛かってきた。明華が若干苦しそうな顔をしていたけれど、きっとまた明華に助けられることになってしまったんだろう。そんな悔恨を覚えたまま、僕は意識を手放した。

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