第11話
そのあとは簡単だった、ただ同じことを繰り返すだけでSPは僕に近づけない。それどころか繰り返すうちにこの爆発の扱い方もだいぶ分かってきた。体から力が抜ける感覚には慣れないものの、その脱力度合いが、僕にこの爆発の規模を教えてくれる。
この空間にはあと僕と明華とモカさんだけ。ただこの空間の異常の根源は……。
「あぁ、そこにいたんだ」
違和感を感じる部分を見つめると、今の僕の目にはハッキリと映っている。ここにあのトカゲを生み出す原因となる物がいて、こいつをどうにかしない限りきっとここはまたこんなアーケード街みたいな空間を作り出すんだろう。
そんなことが一気に手に取るように理解し始めた。今まで解けなかった問題の答えとその解き方を教えてもらった気分だ、今ではその理由がなんで、どう対処をすればいいのか、これが頭での理解というよりは感覚、いつもの数学の解き方と似ている。
「れーちゃんはちょっと別の人にお願いしようかな」
モカさんがそういうと、再びSPを何人も呼び出した。今になってわかる。モカさんが使っている能力「集合」だったんだ。詳細までは分からないけどおそらくSPの人たちはどこかの集合に保管してこの空間に呼び出せるという事なんだと思う。そう思うとあの部分集合で武器を出したのもモカさんの能力で作り出したのか呼び出したのだろう。だからトカゲに対して有効だったんだ。
多分モカさんはこれから僕がしようとしていることをわかっているんだと思う、止めに来ているのかもしれないけど、これを処理しないと終わらないからね、デートはうれしいけど、いつまでも一緒にいることはできない、というより次回も会いたくなるようちょっと物足りない段階でやめるのもテクニックの一つというのをなんかの本で読んだ。多分ラノベ。
「かくれんぼは終わりじゃい!!」
そういって僕は右腕に力を込めた。式が溶けたタイミングで僕の右腕を振り抜く。ズボッと布団の中に手を突っ込んだ感覚がした。その先にトカゲと同じような感触がある。これだ。
それを掴み思い切り引っこ抜く。サイズとしてはトカゲよりも2回りほど大きいだろうか、ただ色が半透明、シャボン玉のように光の当たる角度によって一部の色が変わっているのを確認できるだけで、ほとんど透明と言って差し支えない。視認するのはかなり難しい。
「うわおっきい!!」
モカさんが僕の引き抜いたエンコンを見て感嘆の声を上げる。でもその速度を落とさずにそのままそのエンコンに右手をかざしていた。そこから出てきたのは灰色の触手。さながらイカのそれに見えないこともないが、それが引き出したエンコンへと向かっていった。触手を使う女性、なんかすごくエッチだと思いません?
巻き付いて動きを封じ込めようとしたのか、そのエンコンの体に沿って触手が這いずり回る。しかしエンコンの方からはトカゲと似たような長い爪なのだろうか、触手を二本ほど切り裂いていた。僕はそのエンコンを完全に引きずり出せたことを確認すると、その手を放して距離をとり。もう一度爆発を発動する。
「ちょっとみなっちゃん!!」
少し爆発の範囲が大きすぎたか、モカさんに少し爆風が当たった模様。ごめんなさいまだ調整が甘すぎたようです。というよりモカさんの移動速度が速すぎて計算に入ってませんでした。好感度が10下がったような気がする。
「で、なんで明華と戦ってるんですか?」
モカさんの触手が時間を稼いでくれているのでそんな疑問をぶつけてみた。
「思想の違い。つまり宗教戦争だね」
「そんな大規模で世界的に影響のありそうな内容だったんですか」
まぁ僕に詳しく内容は話せないってことだ。そういう事なら。
「じゃあモカさん。あとお願いします!!」
「ええ!?みなっちゃんそれマジで言ってる!?」
そういって僕はモカさんの下を離れて明華の下へと急いで駆け寄った。さっき僕を追ってきた人数よりもはるかに多い、明華は何とか交わしているが、人数が多すぎて何人倒したのかわからない。先ほどのような失態を起こさないように爆発の威力を調整してSPたちの背後に投げ込む。
――爆破
SPたちが四方に吹き飛ぶ。ぽっかりと空いた円弧の一部そしてその中心には明華とSPたちがやりあっている。明華は爆発に気が付いて一瞬だけこっちを見たが、SPたちは明華から目が離せないようで、他の円弧になっていたSPたちが僕の方を向いてきた。やはり殺す気はないのか、銃と警棒のみを構えた。
「ごめんよ、今の僕は波に乗ってる最中でさぁ!!」
2度の爆発を起こして野次馬のようになっていたSPを吹き飛ばす。そして明華と対峙していたSPにドロップキックをかましてやる。着地にミスってあばらの骨が折れたかと思ったがなんてことは無い、トカゲの攻撃のほうが痛かった。
「大丈夫明華!?」
立ち上がって明華の両肩をつかんで目を合わせた。珍しくあのきつい目ではなく、驚いたように見開かれた目だった。うわぁ、明華って目もきれいなんだなぁ。
「ッ!!」
明華が急に僕の頭を押さえつけて地面に伏せさせた。明華も一緒に身を屈めると、すぐ上を銃弾が過ぎ去る。僕は小規模の爆発を用意し、すぐに爆破、明華は明華で赤い血の色のような色をしたナイフを投げつけていた。
またあの目だ。
「お前馬鹿か!!なんでこの中に入ってくる!!」
「いや、明華助けようと思って」
胸倉をつかまれた後で僕はなんとなくSPたちを減らそうと周囲に対して爆破補試みたどうやらそれは明華も同じだったのか、爆発の後僕らの周りが氷の壁で覆われ始めた。
「どうしてだ、この前も言ったはずだお前に何ができる!?」
またあの目だ。
「言ったでしょ、直接的に力になれなくても助けることはできるって」
「チッ!」
またあの目だ。
「それに、多分もう直接力にもなれるよ」
僕は胸倉をつかんでいる明華の手をつかんでその手を胸倉から引き離そうとする。
またあの目だ。
「そのちんけな爆破だけでこの私を助ける?今のお前を見ろよぼろ雑巾じゃねぇか」
「今はね」
そりゃあの使い方を分からなかったからぼっこぼこにされてしまったけど、扱い方がわかってからはうまくやれていると思う、まぁまだ爆発しか使えないけど、たぶんこれから増えるはず、ファンタジーの定番だし、ていうか覚えていかないと今後の僕の命がやばい。
「イライラする……」
「え?」
あ、この目……。
あの時だ、廊下で転んだ時に僕を見ていた時の目。悲しそうな、辛そうな、そんなプラスの感情は一切含まれていないくらい目。それと同時に何かに気が付いたような目。もしかすると、それに気が付いたが故の苦しみや、悲しみだったのかもしれない。
「その目だよ」
「は?」
僕の言葉に何を言っているのか分からないといった顔をする明華、でも女の子にそんな目をさせる原因は取り除かなきゃ、じゃなきゃラブコメの主人公になんてなれるわけない、なら僕のためにその原因を取り除く。
「気づいているのかわからないけど、僕らが初めてあった日も、廊下での時も、コンビニの時も、明華のその目、僕はそれが気に入らない。なんで明華みたいな美人でかわいい女の子がそんな目をするのか、何がそうさせるのか、僕にはわからない」
そう、僕はまだ明華の事をまだないも知らない。ただ不思議な力を使ってエンコンとかいう化け物と戦っている女の子、あまり人と仲良くはせず一人でいることが多い女子生徒、そんな表面に見えてくる部分しか知らないし、何を思って戦い続けているのかもわからない、何の考えがあって一人でいるのかわからない。
「その悲しそうな、辛そうな目をするのはすごく嫌だ。そしてそれは決まってその不思議な力や、エンコンなんかに関係する時にしている、普段の明華はもっとかっこいいんだ」
「……普段の私だってお前は全然知らないだろ、勝手に悲しそうとか辛そうとか思うな」
残念だけど今もその目をしてるんだよな。そりゃ何かしら思い当たる節があって心のどこかで引っかかったのか、それとも過去を思い出してその時の感情を思い出したのかはわからない。
「僕はね、ラブコメの主人公になりたいんだ」
「……ん?」
明華が目をパチパチさせた、夫こんなところで明華の新しい表情を見れるなんて、これはイベントスチル粋ですねわかります。
「急になに変なこと言いだしてんだお前」
そこから呆れたような顔になった。今日の明華は表情が豊かなようですね。
「まぁまぁ、そういうわけで、僕のために、僕の自己満足のために、明華がその目をする理由、原因を取り除く。取り除けなくても、一緒に立ち向かう、そばにいる」
明華が面食らたように一瞬慌てたのを僕は見逃さない。多分今の言葉は明華に届いたことは間違いないと思っていいだろう。
「ハァ、お前のラブコメの主人公像どうなってんだよ」
もどうにでもなれと言わんばかりに明華が顔を片手で覆った。ただ表情は若干笑っているようにも見える。
「世界は救えなくても、自分の周りの女の子に悲しい思いはさせない。寄り添って一緒に問題を解決していく。そんな女の子のためのちっぽけなヒーローってところかな」
そこで明華は珍しく噴き出した。笑い声を抑えるように短く笑った後、少し曇りが晴れたような顔をしていた。ほら、そっちの顔のほうがいい。やっぱり女の子は笑顔が最強って古事記にも書いてある。知らんけど。
「こんなバカ、どうやったって無理じゃねぇかよ、あいつ選択肢あるみたいなこと言いやがって」
そんなことを言った明華はなんでか知らんけど僕の胸倉をつかむ、ええなんで?ここからさらに怒られることある?ラノベとかゲームとかなら結構決め台詞じゃなかった?ていうかあいつって誰だ?誰よその女!!あ、男!!か。
「じゃあ、せめて今回だけはお前に助けてもらってやるよ」
挑発的な笑みを浮かべた明華は僕の目を見てそう言った。若干僕の方が背が高いから少し上目遣いになってるのを見れたのは男に生んでくれてありがとうお母さんって感じ。
「任せなって」
氷の壁が音を立てて崩れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます