第10話 プロポーズと光一

 



「主様! あっちにもクジラさんがいます! イルカさんも集まって来ました! 」


「これは凄いな……スーが従えてるのか? 」


 《ミュオオオン! ミュオッ! 》


「あははは、そうか蘭がクジラを見たいって言うから話を付けたのか」


 《ミュオッ! ミュオオッ! 》


「この辺のクジラを食べないでやるって言ったのか。うん、それは脅迫なんだよな。まあいいけど」



 夏も終わろうとしている頃。


 俺は蘭と二人でスーに乗り、太平洋へとホエールウォッチングデートをしに来ていた。


 俺と蘭はスーの背に魔導テントとパラソルにチェアを置き、すぐ近くを泳ぐ数十頭のクジラとイルカたちを眺めている。


 蘭は海中からジャンプして現れるクジラのダイナミックさに、大喜びをして飛び回っている。まあ文字通り飛翔のネックレスで飛んでるんだけどな。


 シルフィとお揃いの丈の短い薄緑色のチュニックを着て飛んでるから、ずっとパンツが丸見えだ。まあ俺しかいないからいいけどさ。さっきムラムラして、スーの背で青空をバックに蘭の大きなお尻をパンパンとバックでしたばかりだから落ち着いて見てられるし。



「うふふふ、スーちゃんありがとう。蘭はこんなにたくさんのクジラさんを見たのは初めてです。あの潮吹きが凛ちゃんとリムちゃんみたいで、蘭もあれくらいできるようにしないとって思えます」


「あ〜うん、そうだな。相変わらずナチュラルに下ネタぶっ込んでくるよなお前は……」


 俺はクジラの潮吹きを見て、爽やかな眩しい笑顔で凛やリムとそれぞれ3人でした時のことを連想する蘭に呆れていた。


 最近は俺の希望で百合プレイが流行ってるからか、蘭はちょくちょくこういう発言をするよな。


 しかし幼い頃は俺が娼館に行くのをキョトンとした目で見てた蘭が、いつの間にか俺が蘭なしでは生きられないほどの床上手になっているとは……


「はい! 蘭は主様が喜ぶことを一生懸命勉強しました! これからも凛ちゃんやリムちゃんたちと精進していきたいと思います! 」


「うむ。よろしく頼む」


 ほんと、なんていい女になったんだ蘭は!


「ふふふ、蘭は群れが大きくなって嬉しいです。早く凛ちゃんやなっちゃんに、シル姉さんたちの子供に囲まれたいです」


「蘭と俺の子もだろ? 」


「はい! ですが全然できませんので、蘭は気長に待ちます」


「まあ上位種族になればなるほどでき難いからな。凛と夏海もハイヒューマンだ。簡単にはできないさ」


 そうは言ってもシルフィと蘭は子供ができ難いから最初から避妊薬は飲んでいないけど、ほかの子たちは毎月飲んでいる。


 だがそれももうすぐ飲まなくてよくなる。結界の塔の完成の目処が立ったからな。そのために俺はケジメを付けないといけない。まずは俺をずっと側で支えてくれた蘭からだ。


「ふふっ、できるまで主様が頑張れるように凛ちゃんたちとお勉強します」


「そうだな。頼むよ蘭。まあそのなんだ……いつ子供ができてもいいようにその……まあ入籍をしないとな。子供のために。蘭とはもう番になっているが、法的にはまだそうじゃないわけだ。だからその……結婚しよう」


 俺はそう言って空間収納から、30カラットのピンクダイヤの指輪を蘭に差し出した。


「あ……は、はい。蘭は主様のお嫁さんになります」


 蘭はそう言ってまるで幼い頃の時のように頬を染め、恥ずかしそうに指輪を受け取ってくれた。


やはりアンネットの言った通りだったな。蘭と俺はもう番だからプロポーズしてもキョトンとするかと思ったけど、やはり蘭はこの世界に来てから結婚というものに興味を持っていたみたいだ。


これはウェディングドレスを着せてやらないとな。


「今よりもっと幸せにするから」


「はい。でも蘭は今とても幸せです。主様といるだけで幸せだったのに、凛ちゃんやなっちゃんに、シル姉さんにセルちゃん。リムちゃんに紫音ちゃんたちもいて蘭は幸せでいっぱいです」


「ならもっと幸せにするさ。そのために子供を作ろう。今日はずっと」


「はい! 蘭のお腹を主様でいっぱいにしてください! 」


 俺は幸せそうに笑う蘭の肩を抱き、スーにゆっくり日本へと戻るように伝えテントの中へと入っていった。


 その日の蘭はいつもよりも激しく、そしていつもよりも俺に甘えてきていた。


 まるで幼い頃の時のように。










 ーー 日本皇国 神奈川県 旧横浜 佐藤 光一 ーー






「このクソ虫があぁぁぁぁ! 『雷矢』! オラァ! どきやがれ! れい! 」


「はい! 『フレイムスピア』! 」


「デカイの行くぞ! 『大津波』 『天雷』! おっし! 道は開いた! 日本皇国軍よ突撃しろ! 横浜をクソ虫野郎から取り戻せ! 」


 


 俺は体長2mほどの蟻型の虫型異星人。インセクトイドと言うらしいが、何千といるコイツらが巣食う旧横浜駅前へ単身突っ込んだ。そして大津波でインセクトイドを押し流し、押し流された数百匹のインセクトイドを一気に焼き尽くした。それにより空いたスペースに、剣と魔石を持つ3000人の日本皇国軍を突撃させた。


 俺はもう突撃しない。近接戦で虫の体液まみれになるのは軍に任せる。



「光一! 左翼の防衛が崩れたみたい! それで夏美がまた! 」


「またキレたのかよ! やっぱあの人数じゃ荷が重かったか! エマ! ここを頼む! レミとナナは玲を守れ! 」


「了解」


「「はいっ! 」」


 俺は天使の恋人であるエマにここを任せ、兎人族姉妹のレミとナナに魔導師の玲を守るように指示をした。


 そして左翼でカマキリ型のインセクトイドを担当している夏美のもとへと向かった。


「ふふっ……ふふふふ……多田抜刀流『乱れ桜』! 『水月』! ふふっ……あははははは! 虫虫虫! あははは! 」


「『雷矢』! 『転移』 『天使の護り』 夏美! 魔力を無駄遣いするな! 落ち着け! いい加減慣れろって! 」


 俺は風の刃を放つ体長5mはあるカマキリ型の群れの中心に、単身乗り込み発狂している夏美のもとへ転移し結界を張り彼女を抱きしめた。


「こう……いち……虫……体液が……わたし……汚れ……イヤアァァァ! もう嫌! 虫は嫌なの! 」


「俺も嫌だよ! でも日本人が喰われるのを黙って見てられないだろ! もう半年戦ってるんだ! いい加減慣れろって! 夏美は汚れてなんていない! 今日も一緒にお風呂に入って愛し合おう。な? 」


 俺は夏美を抱きしめたことで革鎧にベッタリついた虫の体液に顔をしかめながら、同じく虫の体液に顔を濡らす夏美に思い切ってキスをして落ち着かせた。


 なんの味がしたかって? 聞くなよ。


「光一……ごめんなさい。遠距離攻撃に徹するように言われてたのに……陣形を崩されて……このままじゃみんながって……」


「それでみんなを退かせて突っ込んだのか。やっぱ俺がやるべきだったな……俺の采配ミスだ。ここは俺が片付けるから、夏美はエマのところに行ってくれ。あっちは蟻型だからもうすぐ旧横浜駅を制圧できると思う」


 蟻型が確かEランクくらいの強さで、カマキリ型がDかCランクだったかな。俺たちからしてみれば大して差はないんだけど、魔法を使ってくるんだよなカマキリは。それで崩されたんだと思う。


はぁ〜……よりにもよって俺と夏美が苦手な虫と戦い続けることになるなんてな……方舟フィールドの虫だって嫌なのにそれを巨大化したやつなんて、これはもう拷問だろ……





 俺たちがアマテラス様の依頼でこの世界に来てから、そろそろ半年が経過しようとしている。


 当初滅びそうな日本を助けて欲しいとだけしか聞いていなかった俺たちは、いきなり虫の魔物に占拠された伊勢神宮に召喚されたことで半ばパニックに陥った。特に夏美の混乱ぶりはハンパなかった。


 俺たちは周囲の蟻の魔物を倒し一緒に連れてきた火竜のファルコンの背に乗りその場を脱出したが、今度は空からバッタの魔物の群れが襲い掛かってきた。


 それらをファルコンのブレスで燃やし尽くした俺たちは、四国まで南下してやっと虫から解放されたんだ。


 まあそこで日本軍と一悶着あったが全部力ずくで蹴散らして、捕虜にした軍の奴らからやっとこの世界の現状を知ることができた。


 それによると、どうやらあの虫たちは魔物ではなく異星人だということだった。10年前に宇宙から突然現れ、地上の人間ばかりを狙って襲い掛かってきたらしい。この世界の人たちは、そんな敵性虫型異星人をインセクトイドと呼称しているようだった。


 どこの国もインセクトイドに国土のほとんどを占領され、世界の人口はたった10年で5分の1にまで減ったらしい。


 日本も最初に北海道に上陸され、中国大陸から飛行型インセクトイドもやってきて京都まで前線を下げることになったらしい。これでも世界で一番健闘している方みたいだ。


 その話を聞いて俺は、方舟のある俺の世界と似たようなもんだなと思った。インセクトイドがいなくなればまた地上に住める分、こっちの方がマシにさえ思えていた。


 そのインセクトイドだが、強い個体は魔法を使える。その個体から得られる石に気を流すと同じ魔法が石から発せられるらしい。その話を聞いて俺はその石は魔石だと思ったんだ。そして光希の持っていた魔石と同じく、魔法が付与されているんじゃないかって。気というのは魔力のことなんだと思う。


 試しにファルコンに乗りカマキリ型のインセクトイドを倒し、和解した軍の人間に解体させたら魔石としか思えない緑色の石が出てきた。そしてそれに魔力を通したら風刃が発動した。


 俺は軍に気ではなく魔力というものが、微量だが人は持っていることと。それは魔石を持つ存在を倒すことで増えることをレクチャーした。そしてカマキリを狩り四国の皇国軍に魔石を持たせ、インセクトイドと戦わせて鍛えた。


 最初は虫が苦手な俺も夏美も発狂してた。毎晩夢に出てくるほど精神を病んでいた。対象的に天使のエマはまったく動じず、玲は魔法攻撃主体だからか顔をしかめる程度だった。リンデールで知り合い恋人となった、兎人族姉妹のレミとナナはまったく平気だった。


 まあ俺と夏美だけ毎日顔をやつれさせてたよ。みんなからの夜のご奉仕が無ければ、とっくに心が折れてたと思う。


 そしてその後は京都の政府と会い、俺たちを利用しようとする腐った政治家をインセクトイドの群に放り投げたりした。もう皇国政府と軍を滅ぼそうかと思ってファルコンを差し向けようとしたところで、最後に皇室の方が仲裁に入り内閣を解散させ陛下が実権を握ることを条件に共闘することになった。


 それからは日本のターンだ。俺のパーティを先頭に滋賀、奈良、愛知と次々と奪還していった。


 そして神奈川までインセクトイドを押し込み、今日やっと横浜を奪還する作戦を実行した。


 この時点で日本の人口は4千万人にまで減っていた。まあほとんどが食糧不足が原因だ。インセクトイドは食えないからな。食えば2、3日で死ぬ。


 今回の作戦は最近夏美が落ち着いていたから左翼を任せたんだけど、やっぱり駄目だった。


 軍もインセクトイドの魔石で次々と武器を作っているから、俺たちは今後そんなに前に出なくてもよくなると思う。あと少しの辛抱だ。とにかく日本を救えはミッション達成だ。世界なんか知らん。俺は早く元の世界に帰りたい。虫はもう嫌だ。


 それにしてもここまで来るのにいっぱい死んだ。気のいい奴らもいた。一緒に戦場を戦った奴らも飲んで騒いだ奴らも、日本政府とモメた時に味方してくれた隊長も死んだ。


 別の世界の人たちだ。でも元の世界で知ってる奴もその中にいた。そんな人たちもみんなあっけなく死んじまった。


 並行世界って残酷だよな。この世界の俺はどんな死に方をしたんだろうな。夏美や玲もいたのかも……北海道まで遠いけど、なんとかインセクトイドを殲滅しなきゃ。


 《クオオオ! クオオオ! 》


「お? ファルコンは空のバッタと蜂を片付けたみたいだ。ブレスの支援を受けれるぞ。夏美、道を作るからエマのとこに行ってくれ! 」


「わかったわ。光一、役立たずでごめんなさい」


「そんなことないさ。夏美がいれば俺は倍の力が出るんだ。だから夏美は役立たずなんかじゃない。玲たちを守ってやってくれ」


「光一……ありがとう。愛してるわ」


「俺もさ。んじゃそろそろ結界切れるから派手にやるぞ! 『天雷』! んで『冥界の黒炎』! 夏美行けっ! 」


「はい! 」


 俺は結界に攻撃を続けるカマキリに対し天雷を放ち、そして黒魔剣を突き出し冥界の黒炎を周囲に放った。そしてそれにより確保した退路に夏美を走らせた。


「さて、あと40匹ってとこか。まあいいとこCランク程度のお前らなんか俺の敵じゃねえんだよ。そのグロい見た目も気持ち悪い体液も、全部燃やし尽くしてやるよ! 」


 俺は空の邪魔者のいなくなった上空に転移をし、視界に映る全てのインセクトイドへと魔法を放つのだった。


 やっぱ体液ブシャーは嫌だしね。



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