第33話 オルガス帝国
ーー オルガス帝国 帝城 皇帝 ドルキッシュ・オルガス ーー
《 現人神であり全世界の支配者。生きとし生けるものすべてに繁栄と栄光を与えたもう慈悲深き皇帝! ドルキッシュ・オルガス陛下の御降臨〜 》
「うむ。
《ハハーッ! 》
「戦況の報告をせよ」
「ハッ! リーデール王国及び魔王軍の戦況のご報告を情報局よりご報告申し上げます」
「うむ。リンデールは良い具合に消耗したかの? 」
「そ、それが……魔王軍に既に南西の国境にて軍を展開しております」
「国境にとな? リンデールは滅びたか……」
あれほど我が帝国の侵攻を長年防いできたリンデールが……不意を突かれた程度で呆気ないものよ。
「ハッ! 3日前に王都に潜伏させていた者より、王都は陥落し王城前で王族の公開処刑があったと連絡がございました」
「亜人などに殺されるとは……リンデールの者にはお似合いの末路じゃな。して、魔王軍はどれほど減ったのだ? 2万くらいにはなったか? 」
「そ、それが現在国境で相対している魔王軍の数は5万ほどでございます」
「……魔王軍は後続部隊が合流したか。ヴェール大陸からどれほどの数がやってくるのかのう」
文献によると数だけは多いようじゃったからの。あと20万はいると思った方がよいか。
しかしここ300年以上まったく動きのなかったヴェール大陸の魔物どもが急に侵攻を始めよるとは……余の代になんと面倒なことよ。
それでも過去のようにアトラン大陸とムーアン大陸への同時侵攻ではなく、一番近いアトラン大陸から陸を通ってやってくるのであれば20万だろうと対処できよう。
今代の魔王は海の魔物を支配下に置いていないようじゃ。文献にあったデビル種が特殊魔法の魂縛を使い、ドラゴンを隷属させほかの魔族を従わせたエセ魔王の可能性が高いのぅ。
330年前に本物の魔王が現れるまでは、よくそういった勘違い魔王が現れていたそうじゃからの。
しかし腐っても魔族じゃ、そのエセ魔王にでさえ当時あったいつくもの国が滅ぼされておる。
リンデールは亜人の軍を打ち破ってからは、我が帝国との戦いに集中しておったからの。いくらエセ魔王とはいえ後方から隙を突かれればひとたまりもなかったのであろう。
だが余の帝国はそうはいかぬ。この大陸の入口は狭い。一度に戦えるのは3万がよいところじゃ。
リンデールが滅ぼされているうちに、その場所で迎え撃つ準備は終わっておる。
魔王軍に一度大打撃を与えれば知能の低い魔物などすぐ逃げて軍は機能しなくなる。それは過去の魔王軍との戦いの記録に書かれておる。
このような烏合の衆の魔物がまとまるのは勝っている内だけじゃ。奇襲を受けさえしなければ大した相手ではない。
「へ、陛下! お、恐れながら魔王軍の後続部隊は確認されておりません。リンデール王都の西での決戦で展開した際に、確認された数そのままが国境に展開しております」
「そちは何を言っておるのだ? 腐ってもアトラン大陸に長きに渡り君臨していたリンデールが、10万の兵と兵器を並べて決戦を行なったと聞いた。ドラゴンの力でその10万を打ち破り、あの難攻不落の王都まで陥落せしめたのだ。無傷なはずがなかろう。最低でも二頭いたドラゴンは一頭となり、軍は半減しておるはずじゃ。国境に5万もいるのであれば、後続部隊が合流したと考えねば辻褄が合わぬではないか」
「じ、事実でございます。暴嵐竜も黒竜も健在であり、エルフとダークエルフも数多く確認されております。この者たちは確かに決戦の際と王都を包囲する際にいたと、複数の者から報告を受けております。このことから魔王軍は無傷でリンデール王国を滅ぼしたと考えるしかございません」
「亜人に潜伏先を占領されて臆したか……虚偽の報告を行うとはな。確か魔王軍にはサキュバスがおったな。既に魅了され敵の手に堕ちたと考えるべきであろう。皇家の闇の手に始末させよ。情報局長官よ、そちが偽報に惑わされるとはの。任を解くゆえ謹慎しておるがよい」
300年前ならばいざ知らず、魔銃に魔力障壁装置に飛空戦艦。さらには地上にも戦艦にも魔導砲を多数配備している王国軍に無傷で勝てるはずがなかろう。
既に潜伏者は見つかり、サキュバスの術中にはまったと考えるのが妥当であろう。
そんなことにも思考が回らない者が情報局長官をやっているとはの。これまでリンデール王国を打ち負かせなかったのはこの者のせいかもしれぬの。謹慎後は今後の魔王軍との戦いと、アトラン大陸侵攻のためにも処刑するとしよう。より高い地位にいる者はより重い責任を伴うものじゃ。神である余がそう思うのであるからこれはこの世界の真実である。
「へ、陛下! 本当でございます! 魔王軍はドラゴンだけではございません! 魔王軍には330年前の勇者と新たに王国により召喚された勇者がいるとの報告が! 多くの者がそれを耳にし目にしました! 陛下! どうか信じてくださいませ! どうか対策を! 魔王軍は我々が思っているよりも強大でございます! 」
「勇者が新たに召喚されたのは聞いておる。どれほど潜在能力が高くともダンジョンの無いこの世界で、過去の勇者のように強大な力を手に入れるには時間が掛かろう。その前に殺せばよいだけじゃ。それと330年前の勇者がいるとな? そちも既にサキュバスの毒牙に掛かっているようじゃな。近衛兵よ、その者を捕らえ処刑せよ」
「「「ハッ! 」」」
「へ、陛下! 私はサキュバスなどの術には掛かっておりません! 陛下! どうか信じ……陛……」
330年前の勇者が現れたなどと……リンデールは勇者の功績をかすめ取ろうとしておるが、あの勇者は魔王と相討ちになったと堕ちた浮遊島の教会にあった文献に書かれておる。そもそもこの世界のために魔王と戦った勇者が、魔物を引き連れているはずがなかろう。召喚されたばかりの勇者はエルフにでも籠絡されたかサキュバスに魅了されたかであろう。最初は弱いゆえな。
だが今は弱くとも将来はわからぬ。万が一謎多きヴェール大陸にダンジョンが残っており、力を付けられでもしたら帝国の脅威となろう。魔王軍に召喚された勇者が付いたのであれば早急に倒さねば。そして二度と勇者など召喚されぬよう大聖堂を破壊せねばならぬ。
しかしまさか帝国内部にサキュバスが侵入しておるとは……この戦争が終わるまで重職に就く者は女と接触をすることを禁じねばなるまい。厄介な……
帝都でサキュバス狩りをさせるか。見た目の良い女は全て女兵士に調べさせるかの。
魅了は同性には効かぬから、ちともったいないが全て殺せば防げることじゃ。
攪乱工作をするということは、魔王軍も余裕が無いのであろう。ドラゴン対策はできておるからの。新兵器の連装魔導砲の存在を知られたか? あれは上位竜の厄介な魔法障壁を打ち破れる力を秘めておるからの。
まあ良い。国境には20万の兵と最新の兵器を配備しておる。こちらからは攻めずジッと殺し間に入ってくるのを待っていればよい。それであればたとえヴェール大陸にいる全ての魔物が来ても倒せるじゃろう。
この330年で帝国の文明は遥かに進んだ。小国だった時のオルガスではもうないのだ。もうこの世界に勇者など必要ない。我がオルガス帝国が魔王軍を撃滅してみせようぞ。
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