荒谷 縁 (あらたに えん) 中学三年生 15歳

 高校受験が終わった。無事、志望の高校に合格を貰えた。この一年の努力が報われた気がして、本当に嬉しかった。

 でも、これで中学生活が本当に終わった。友人と放課後勉強することも、おしゃべりすることもなくなった。高校への楽しみももちろんあるが、それは中学に取って代われるものではないと思う。

それが寂しい。

受験勉強なんて早く終わってほしいと思っていたが、終わってみればもう少し長く続いてくれても良かったなんて思ってしまう。

卒業式は既に終わっている。だから、学校に来るのは結果報告のための今日が最後だ。

職員室のドアをノックし、中に入る。部屋の中を見回すと、担任の草原先生が声をかけてきた。

「おお、荒谷。結果報告か?」

「はい、無事に合格できました」

「そうかそうか!お前はよく頑張ってたもんな。良かった。おめでとう」

「ありがとうございます」

先生との雑談もそこそこに、僕は職員室を出て自分の教室へ向かった。ドアを開け中に入ると、当然誰も居なかった。窓に向かい、外の景色を眺めてみる。そこからは校庭が見渡せ、野球部が熱心に練習をしていた。

なんとなく、自分の席に座ってみた。他に誰も居ないため、黒板がいつも以上によく見える。右に座っているはずの友人も今日は居ない。授業中に内緒話をすることももうない。

別に友人とこれっきりという訳ではない。そのはずなのに、どこか虚しさが溢れてきた。

慣れ親しんだこの教室の匂いも、喧噪も、硬い椅子も今日で終わり。名残惜しむように、深呼吸をした。机に肩肘を付き、何も書かれていない黒板をぼーっと見つめる。いつもは気が付かなかった時計の針が動く音が耳に届いた。

今日は特に用事も無かったため、時間はたっぷりあった。何をするでもなかったが、工程から聞こえてくる音をBGMに教室で佇んでいた。既に夕方だったこともあり、教室に入り込む日の淡い光も心地よかった。


3,40分ほどが経ち、僕は席を立った。寂しさは未だ残り続けるが、仕方がないことだと分かっていた。高校生活もこのような気持ちで終わる事ができればいいなと、そう思った。

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